第七話 暗い世界

 子狸に指示された広場へ向かう途中

「おい、嬢ちゃん達旅人か?」

 妖に声をかけられた。

 怖い外見のいかにも不良的な感じの男で、角が生えていたから一目で妖だと分かった

「この辺を歩くなら、気を付けなきゃいけない事がたくさんある。ついて来い教えてやる」

 そう言って指さしたのは、薄暗い路地道。中にはたくさんの人がいる気配がして、連れ込まれるのではないかと警戒する

「…おいおい、そんなに警戒すんなって、同じ妖だろ?」

「私は人間だけど…」

「…マジが!妖と人間が一緒にいんのかよ。いや待て、尚更教えてやんなきゃな」

 さすがにここでいろいろ口に出されるのは危険なので、芹と二人無言で頷き、仕方なく付いて行くことにした。

「ここには多くの妖が居てな…」

 生態反応がいくつか、どれも霊力は弱い

「それで、教えてくれるって何をだ?」

「それはな…」

 そう言いながら私に近づいてきて


「知らない奴にホイホイ付いていかないって事をだよ!」

 左腕と首を押さえ込まれた。首を押さえてる方の手にはナイフ。私を殺す気だ


「おい!離せ」

「動くなよ?兄ちゃん。動いたら殺す」

「へっ!お頭そいつどうすんだ?」

「そりゃもちろんこの国のルールを教えてやるさ」

「くっ…」

 さすがに苦しくなって来た。離れようとしても押さえ込みが強くて離れない。右腕は掴まれていないから動かせるけど、芹が動けないから自力で離れるしかない

「嬢ちゃん、動くなって。…それとも何?死にたいのか?」

 その言葉を聞いて私は動くのを諦めた。でもそれはこいつから離れることを諦めたわけじゃない

「あんたが私を殺せるわけないじゃん」

 動く右手で霊符を出し、男の顔の前に出す

「霊符!?やめろ、使うな!」

 すると慌てて私を縛り付けていた腕を緩める。その隙に脱出成功!

「それで?この国ルールって?」

 霊符をチラつかせながら聞き出す私。その顔には不敵な笑み。私なかなか、悪者って向いてるかも?

「わ、分かったからそれをしまってくれ」

「ねぇ、霊符に嫌な思い出でも?」

「…」

 ここにいた全員が黙った。今までザワザワしていたこの場の空気が凍りつく。私いけないこと聞いちゃったみたい…

「…っ!瀬兎!今すぐそれをしまえ!」

 芹に怒鳴られ、慌ててしまう。

「ここは結界の中だな?」

 結界…言われてみれば分かる。誰か強い妖の霊力で作られた完璧な結界。ただ一つ、霊気がふわふわしている事を除けば…

「そうだ…ここは結界の中だ。お前の霊符のせいで歪んじまったがな」

 どうやら、私が出した霊符がたまたま師匠に渡された、妖の王の霊符だったが為に、強い霊気同士が共鳴を起こして、揺れているらしい

「ごめんなさい。けど、どうしてこんなところにいるの?」

「まぁ、この国ルールから話した方がわかりやすいから。順を追って話すよ」

 そして彼らは教えてくれた。この国では代々、女性が王になり、男より女の方が権力が強い事。男と女が並んで歩くのが禁止されている事。

 必ず女同士、男同士でなければならない。男が女の隣を歩くのはマナー違反

 そして天空宮は男子禁制の場。それから妖の立場が弱い事

「でもこの国では妖が認められているのではないの?」

「表向きはな」

 その昔この国では、より長く生き、より強い人間を産むために実験が行われたらしい。

 その実験は、近くを飛んでいた鳥の妖と人間との間の半妖を作り出す事。そうして産み出されたのが、あの羽の生えた人間達

「俺らは失敗作さ」

 その実験の中でいくつもの失敗作が産まれた。産まれてすぐに死ぬ者。羽が黒い者、そもそも羽ではない者。ただの人間として産まれてきた者

「そんな妖達を鵺様が救って下さった」

「その鵺って四天王の?」

「様をつけろ!そうだ四天王のあの方だ!俺たちは鵺様に独り立ちできるくらいには育ててもらった」

 鵺がこの国にいる。少しだけ希望が見えた。鵺に会えたらきっとあの鬼の話を聞ける

「その鵺様はどこにいるの?」

 その質問にみんなが黙ってしまった

「お前…鵺様に会いたいのか?」

「ええ…」

「鵺様は気紛れにここを訪れる。でもいつも違う姿だ。鵺様の居場所を知る奴はいないし、鵺様の本当の姿を見た奴はいない」

 つまり私が鵺に合うのは困難という事だ

「なぁ、表向きには妖が認められているってどういう事だ?」

 芹が聞き出した。さっき話していた実験と関わりがあるのだろうか…

 芹は妖の王が生きていた時代。王の傍で、妖だけの世界で生きてきた。その前はもちろん人間からの嫌がらせを受けていたにもかかわらず…だからなのか、差別されることへは敏感だ。

「お前ら旅の者がパーティーに呼ばれるとは思わないが気をつけた方がいい。普段は男子禁制で、開放していないが、パーティーの時だけは入れるようになっている」

 パーティーって私達が出ようとしてる、女装大会の優勝者に与えられる招待先だ

「この国は表向きには妖が認められている。だが、裏では妖は常にターゲットだ」

「…どこも変わんねーな」

「霊力が弱い奴に迫られる選択は二つ。捕まって殺されるか、ここに潜むかだ」

 なるほど、ここにいるのはそういう奴か。だからみんな霊力が弱いのね。しかも鵺が作った結界なら安全だろうし…この結界の中全体がふんわりしていて落ち着くのは、鵺の霊力のせいなのかしら?

「霊力が強い奴はどうなるんだ?」

「そいつらはみんな変幻へんげをして人間と一緒に暮らしているさ。そしてパーティーは最も気をつけなければならない」

 そのパーティーに出た妖は、半数以上が帰ってきていないとのこと、出なければ良い事なのでは?思ったけど、招待状が来たら出なければならないらしい。つまり、妖にとっては死の宣告。

 パーティーで出される食事の中に妖の術を封じる毒が入っているらしい。それがわかっていても食欲には逆らえないから、妖だとバレたら即終了。そして何より、その人間側の行動は、王がやっているのではなく、裏で秘密裏に動いている者達が妖を殺しているのだそう。

 その目的は邪気の収集。邪気を取り込んだ人間は、死ぬか妖になるかだ。そう言った企みを持つ者達は、より強くいうことを聞く道具が欲しいらしい

 千年前のように妖を殺すために。残念ながらその時は全ての妖を殺す事は出来なかった。だからこそ今度妖が攻め込んでくれば、今回は本気で皆殺しにする計画らしい。今のところは人間に化けた鵺が止めているみたいだが…

「まぁつまり、俺が女になって…パーティーには気を付けろって事だろ?」

「そういう事だ。今知り合ったとはいえ、同じ妖だ。死んだ姿は見たくない」

「あぁ、十分気をつけるさ、ありがとな」

 そして私達はそこを後にした

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