第八話 新たな出会いと不思議な夢
教えてもらった事を生かし、芹は女の姿になり、私の隣を歩いている。しかも他に変幻する相手がいないのか、稷が人間の時の姿だ。
そしてそのまま広場についた
「舞台があるわ」
「広い舞台だなー」
「女装大会以外に何に使うのかしら」
「舞とかやるのかなぁ」
あんたほんとに舞が好きよねぇ
「それはね!」
後ろから声が!びっくりしたー
振り返ると白い肌が白い服に映える、栗色の髪に緑色の目が綺麗な人が立っていた。
それに他の人間達より少し大きな羽の下の方は青いし、私とは大違いの見た目だなぁ
「お前、誰だ?」
「私は
「杏様って誰?」
「あ、失礼しました。旅のお方でしたね。杏様は、この国の王位継承者です」
つまりこの人は天空宮に住んでいるということか…
それにしてもこの人、男?女?声はそこそこ低いのだけれど優しく柔らかいし、立ち筋が男の人っぽいんだよね。でも天空宮にいるって事は女なのかなぁ
「なぁそれで?この舞台は何をするんだ?」
「あーそれはね。ダンスを踊ったり、あとは武術大会をやったりもします」
「へー武術大会」
「この広場では無いけれど、弓の大会もありますよ?」
この人全く私の方を向いてくれない。ずっと芹の方を向いて話している
「あなた方は女装大会に出るんですか?」
「まぁな、出てみようと思って」
「そうですか…勝てるといいですね。私に」
あ、この人男だったんだ。というか芹は女の姿なはずなのに男だって見透かされてる。側から見れば完全に女の子二人のはずなんだけど…
ん?私に?優勝候補ってこの人?
「なぁ、あんた妖か?」
「…どうしてそう思うんですか?私は人間の姿をしているじゃないですか」
この人不気味な気配がある
それに、私この人知ってる…気がする
「勝てると良い…か、お前優勝候補だろ?そりゃ無理だろ」
芹が弱気な発言をすると、渼月は顔色を変えた…妖らしい雰囲気だ
「やってもいないのに勝手に負けないでください。ま、私は勝てない勝負には挑みませんが」
自分は負ける事はしないのに、相手にはやる前から負けるなというのね。卑怯だわ
「卑怯だろうが構いませんそれが私ですから」
こいつ…さっきから私を見ないくせに、心だけ読んでくるんだよな。本当にむかつく…
そして彼は、私達に挑発だけして去っていってしまった。
取り残された私達は大会にエントリーしてその場を離れた
「さて、どうするか?とりあえず泊まるところ探すか…てかあいつムカついたな」
「私…あの人会ったことあるかもしれない」
まじか!って言うような顔をしている。風雅の都から出た事がない私があった事があるというのは珍しいからね
私こう見えて箱入り娘なのよ一応。まぁ宮殿からは飛び出して師匠のいる森とか一人で出かけてたけどね。
「この辺でいいか…」
やっと休める…昨日からいろんな事がありすぎた
「それにしても、この国の人達は不思議な姿ね。羽が生えてるなんて」
「しかもでかいよな、まじで鳥かと思った」
鳥…ね。鵺も鳥みたいな物なんだよね。たしか鵺は化ける妖の頂点に位置する
「なぁ鵺って確か、人間の世界で暮らしてたとか、人間に恋をしたとか噂があるよな」
そう。鵺は長年、人間に憧れている妖だと師匠に聞いたから、人間の里にいると思ったけど、これだけ妖が本当の姿を晒しているのに、それらしき人はいないからここにはもう居ないのかな
その夜私は夢を見た。私の過去とは全く違う昔の古い夢
その夢では、帽子を深く被った赤髪の。そう、師匠の家の写真で見たあの鬼が店の前で宝石のようなものを見ていた。
あぁ、この人は鬼であっても人間の世界にいたいと思うんだ。とそんな事を考えてしまう。
「こら!それを返せ!」
近くにいた子供が食べ物を盗んだらしい。必死で逃げていたが…
「うわっ!気を付けろよ!」
「あら、ごめんなさい」
あの鬼と子供がぶつかってしまった。謝っているのは鬼の方だ。
「待って!これをやるからそれ、私に渡して」
走り出した子供の手を掴み呼び止めた。差し出したのは、お金だ。子供が盗んだ物の価値より沢山のお金
「え、良いのか?」
「良いわ。でも盗むのはいけない」
「…わかったよ。次はやらねーよ」
その光景を見てしまった私は、鬼が人間を襲うなんて事は嘘なのだと思ってしまう。
「おい、お前はそれをどうする気だ」
子供に食べ物を盗まれた店の人が仏頂面で話しかけてきた
「もちろんお返しします。さようなら」
すぐに立ち去ってしまった。彼女の目からは光がなく冷たい視線だった。けれど、後ろ姿は妖の雰囲気とは程遠く、人間らしさがまだ残っていた
「彼女は人間に戻りたいのかもしれない」
夢から覚めた時、ふとこんなことを言ってしまった。人間を憎んで鬼になった彼女が人間に戻りたいなんてあり得ない話かもしれないけど…
あまりに彼女の後ろ姿が悲しそうだったから、ふいに自分の赤い髪を撫でた。理由はないのだろうけど、あの鬼と同じ色。そうしているうちに少し落ち着いた。
トントン
窓辺にいた一羽の鳥が私を呼んでいる。そう感じただけかもしれないが、窓を開けたら、話しかけてきた
「私はツキツグミです。妖と共に旅をしているのはあなたでしょうか?」
「え、ええ。そうだけど…」
私はそれこそ最初は、普通の鳥が話せることに驚いた。しかしよく考えると、妖も同じ原理と言える。それに少しだけ妖の霊力を感じた。
「では、赤城を知っていますか?」
「ええ、私の師匠よ?」
月明かりに反射して光る、白い羽を持つこの鳥、私に質問をして何がしたいのかしら
「そうですか…なら鵺を探しているというのは本当の事でしょうか?」
「探してはダメなの?」
「いいえ、しかしあまりお勧めは致しません」
鵺は妖四天王の一人だから、人間の私では会うことさえ許されないのだろうか?
「それはどうしてなの?」
「あなたは鵺という生き物を書物などで読んだ事がありますか?」
「ええ、でも鵺は書物によっていろんな例え方があって、実際どのようなものなのかが、全くわからないのよ」
するとツキツグミはこう言った。会って話すのが一番良いけれど、妖界での鵺という生き物は、本当に信頼する者の前でしか本来の姿を現さず、敵には容赦はしない残酷で冷酷な者だという。
そして、本来の姿を見たものはこの世でたった三人だと、それが妖四天王の鵺以外の三人。そして、鵺には愛する人がいたという事も教えてくれた。
「あなたは妖と共にいる方が過ごしやすいのだと存じますが、あまり妖を信用しすぎないほうが良いかと存じます。私からの忠告です」
「…ありがとう。でも私は私の信じるものを信じるわ」
「そうですか…では狐が起きてしまったので、私はこれで、さようなら」
「おいツキツグミ!あまり瀬兎に良くないことを吹き込むな」
「これはこれは失礼致しました」
そう言って、ツキツグミは飛び立ってしまった…というか芹に追い出されたような。それと、芹がさっきから怖いくらいに怒っている。
「芹…ごめん起しちゃったわね」
「別に…俺はあなたの護衛ですから本来寝てはいけなかった…そんな事より、お前はあの鳥のことも信じたのか?」
「いいえ、呼んで来たから話を聞いてたの」
はぁ、と深い溜息をつかれた。
「瀬兎、お前は人間だ。妖といる事はどうしたって危険が伴う。この国ではたまたまあの狸が人間を恨んでいなくて、たまたま妖達が話をしてくれた。それだけだ!」
怖い顔で私に教えてくれる
「わかっているわ」
それから芹は若干怒り気味に私に教えた。
妖は『変幻の術』で人間の世界で生きられても、人間は妖の世界では生きられない。だからこれから、人間と同じ世界で通じる様に、仲間にするのは人間か、変幻の得意な手練れの妖である事。
あまり軽率に他人の事情に絡まない事をね
「さて今日は街に行ってそれから…」
芹はそこで言葉を止めてしまった
「それから?」
「天空宮にも行ってみるか」
意外な言葉だった。芹はいつも慎重だから
「え、大丈夫?芹…てかなんで?」
「あ、いやほら広場で会ったやつ、杏様に仕えてるとか言ってたからさ」
そう言えばそうだった
「その前にさぁ、女装大会…どうするか」
「あ、忘れてたわ!」
えっと、でも案は考えてあったのよ!ちゃんと。
芹に、彼の結界の中にしまってある、師匠に貰った箱を出してもらった。
「この着物着てみて!」
「はぁ⁉︎これは大事なもんだろうが!」
そんなにブチ切れなくてもぉ。身を乗り出しながら怒られた
「だって着物これしか無いし…」
「はぁ、それを買いに街にいくんだろうが」
「でもそんなお金どこにあるの?」
「ん?ここ」
そう言いながら自分で開いた簡易結界を指差し、その指を私に向ける
あーそういえば…
「お前に結婚を申し込んできた他国の男たちから、騙して取った物沢山あるだろ?」
こいつやけにニヤけてやがるし…それにしても、ひっどい言い方!
「私が騙したわけじゃ無いもん!」
そうよ、私は騙してなんかいない!贈り物を貰った後で男たちが、芹と稷に睨まれて、置いていったものが多いだけ…だもん
確かに私はその手の物をお金になると思って全部持ってきた。今まで忘れてたけど…
「昨日、質屋らしき店の前通ってきたから、そこで売れるかな」
「どうかしら」
全部…は少し微妙
なにせこの飾り達は金が多く遇らわれている高価な物だ
店一つに全部が買い取れるとは思わない…
「でも一軒しかみつからなかったしなー」
とりあえず、明日行ってみるという事で決まりだ。
まだ夜中。私たちは二人でもう一度寝ることにした。
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