天空の島編

第六話 新しい世界

 暗く狭い道を歩き続けてしばらくすると、目の前が明るくなり始めた。まるで、暗闇に光が射すような一筋の灯り。どうやら歩いているうちに朝日が昇っていたらいし。

「瀬兎、外だ!外に出られる」

 風雅の都の結界の外。私の初めての別の世界。私達の国と隣にある天空の島は、この世界に古くからある唯一の浮島。

 この島のずっと下の地上には、いくつも国があるみたいだし。いつか行くのかもね。

 ってそんな事を言っている場合じゃない!

「芹!本当にここを通るしか無いの⁉︎」

「あぁ、仕方ない。ここは妖専用の通路だからな。それに何も危ない事はない」

 あ、危ない事はないって、本気で言ってる⁉︎

 地下通路を抜けた先にあったのは、道などどこにも無い風が吹き荒れるだだっ広い空間。人間用の通路はもっと上にあって、安全に渡れる様に結界で道が作られているらしい。なんで同じ様に作らないのよ…

「これ、どうやって行くの?」

「ん?それはな…瀬兎、手を」

 恐る恐る差し出された芹の手を取った。

「しっかり握っとけ。落ちても知らねーぞ!」

「え…?きゃーー!!」


 手を握られたまま崖の上から真下に飛んだ。と言うより、飛び降りた

 ちょっと!島からどんどん遠ざかってるんですけどー!



「そろそろか」

 そう落ちている中突然言って、芹は私と握ったのとは反対の手を口にくわえ、指笛を吹いた

 ピーーッ

 よく通る大きい音。何を呼んでるのかしら

「来るぞ!」

 その声を合図に、突然、宙に浮いていた足が地に着いた。そしてそのまま上がって行く。向こう岸の、島の入り口の穴まで

「これはこれは、珍しいお客さんですなぁ」

 下から声がした。私は驚いて下を見る。なんと、私達は巨大な白い鳥の上に乗っていたのだ。

「まぁ、人間を連れた妖なんて見た事ないよな」

「せ、芹。これもまさか妖?」

「そうだ。元々こんなに大きくないが、こいつらはここを渡ったり地上に降りる妖達専用の運送屋だ」

 専用の運送屋…なるほど。どうりで慣れているわけだ。

「あれ?芹は島に来たことあるの?」

「赤城様に頼まれてお使いとかよくな。でも島の中に入るのは初めてだ」

「なるほどねぇ」

 それで躊躇なく降りたわけか…

「さぁ着いたよ。珍しい物を見れたから、賃金ははずんでやんよ」

「さすが!気前がいいなお前」

「じゃ、気をつけてね。いつでも呼びなよ」

「えぇ、ありがとう」

 そう言って私達は、白くて大きな鳥に礼を言って、島の入り口に降り立った。

 そして、また新たな問題が発生する。入り口に立っていた門番は、小さな狸の子供だ。手には紙と筆を持っている

「よくぞいらっしゃいました。お久しぶりですね芹さん。」

「あぁ、久しぶりだな」

 どうやら二人は知り合いらしい。私は少し安心した。この旅はきっと誰を信用するか、という問題が沢山ありそうだからだ

「今日は中に入るんですか?」

「あぁ」

「では、種族を教えて下さい」

 これには芹も驚いている。今までは中に入らなかったので聞かれたことがなかったようだ。

「なぁ、人間ってここを通った事はあるか?」

「前例は有りませんが、芹さんのお連れ様でしたら大丈夫でしょう」

 それにご安心ください、と続ける。どうやらこの国は、それほど妖と人間との間に隔たりがないらしく、人間も妖の様な格好をしていると言う。どういう事か聞いてみると、見てからのお楽しみだと言われてしまった

「では、地上までお送りします」

 ここは妖専用の入り口、風雅の都からこの島に来る妖が多く、人間と同じ通路は使えない、という事で作られたそうだ。さらに芹が、師匠は都に来たり出たりする妖を、増えすぎたり減りすぎたりしない様に、調整する仕事もしているのだと教えてくれた。

 子狸は、入り口の扉を閉め、私達を地上まで案内している。どうやら化ける力は無いらしく、丸い耳と尾が丸見えだ。そうなると芹は本当に凄いのだと実感できる。芹はB級の中でもA級に近い妖と言われ、人間で言うとかなり強い方である。だから強さとしてはやっぱり護衛である芹の方が私よりは強いのかな?


「あ、そういえば…風雅の都も王が変わったそうですね」

「も、という事は、この島もなの?」

「いえ、ここはこれから変わるのですが、候補の二人がどちらも微妙らしくて…二人揃ったら素晴らしい王なんですけど」

「ふーん」

「あ、芹興味ないでしょ」

「別に、でも関係ないし」

「いや、そうだけど…」

 それにしても、せっかく話してくれた子狸に失礼じゃないかしら。私は彼にごめんね。と謝っておいた


 暗く長く迷路の様な道。案内がなかったら迷ってしまいそうなほど、上り下りしながら進む。さっきからこういう道しか通ってない気がするけど、仕方ないか…

「さぁ着きましたよ」

 地下を抜けた先に広がっていたのは、都とは全く違う建物に、着物ではない不思議な服を着た、それから妖が姿を隠さず店を出している。

 というかこの国、鳥多すぎない⁉︎

 鳥…鳥だよね?あの羽

「羽…鳥か?」

「いえ、あれは天使の羽です。この人間達の羽がこの国が天空の島と呼ばれる理由です」

 へぇー

 天使ねぇ。本とかでしか見たことなかったわ

「それにしてもでかい羽だな。それになんか家で見た写真の鳥に似てるな」

 確かに、あの写真の鳥は鵺という妖だと聞いた。それに似た羽を背中に生やしたが多数

「では、僕はこれで、今年の結界門は閉じましたし。」

 ということは…もうあの兵達は、追っては来れないのね

「ありがとう狸さん」

「はい。どういたしまして」

 静かに去っていく

「あ、言い忘れてたことがありました」

 と振り返り、もう一度近づいて来てきて、ワクワクした顔で、こう言った

「三日後にこの国で女装大会が行われるんです!優勝商品は天空宮への招待状です!出てみませんか?人間から妖まで数多くの男性が女性になりきります!」

 天空宮とは、この国の王が住まう家。私の住んでいた宮殿と似たような所だ。

 それにしても…女装大会、楽しそう!

 ワクワクしている私に気づいたのか、芹に

「ぜってー出ないぞ」

 と言われてしまった…つまらない!王様に会える機会だよ!

 もしかしたら鵺に会えるかもよ!

 と期待を抱く私に負けたのか

「なぁその女装大会、優勝候補とかいるのか?」

「はい!毎年出場する方でとても可愛らしい方がいます!」

「じゃあ、優勝は無理だな」

「いえ…実はその方、優勝しても商品は貰わないで行くので二位に選ばれれば招待状が貰えます!」

「へぇ、そりゃ凄いな」

「芹、出てくれるの?」

「まぁ、この国に来てまだ情報は何もないからそういうのもアリかなと思っただけだ」

 やったー。と子狸と二人でハイタッチ

「お兄さん化ける妖だから大丈夫だよ」

「力使って良いのか?」

「ううん。でも化ける妖は普段から化ける事をしてるから、女性になりきるのは他の人よりは簡単でしょ?それに参加者は妖が多いんだ」

 子狸はすっかり芹が大会に出るのだと楽しんでいて、さっきの仕事をしていた口調とは大違いで敬語が取れている。この子可愛い。

「僕は司会をやるんだ!」

「なるほど、なら出てみるか」

「エントリーは明日まで受け付けてるよ。中央の広場に会場があるからその近くだよ」

「ありがとーう」

 もうすでに小走りで去っていってしまっている子狸にお礼を言いつつ、中央の広場に行ってみることにした


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