③ ほら見ろ、壁が道になる
「追っ手が来ます!」オルドビスがうしろを指さす。たくさんの白虎に乗った白紙たちが街の屋根を飛び越えながら、追いかけてきていた。先頭を駆るのは白紙たちのリーダー〈上質紙〉だ。「逃がさないシ」
「諦めのわるいやつらだぜい! その諦めのわるさ、嫌いじゃあねえ! だがな、世の中には諦めなきゃならねえときってのがあるもんだ!」そう言ってデボンはウドイカッホの速度を上げる。地球は強風で前が見えない。
上質紙がさけんだ。「印刷機をつかえシ!」
「印刷機! いえっさ!」白紙たちは〈印刷機〉と呼ばれる特殊な機械を胸にあてた。ドギューン! なんと白紙人間が量産された。
「おい増えたぞ! 白紙人間が!」地球が叫んだ。
「我々、白紙人間はいくらでも替えがきく平凡な存在シ! だから、こうやって己をコピーして数を増やすこともできるのだシ」上質紙が部隊に指示を下した。「野郎ども! 紙飛行機を放てシ!」
「さーいえっさ!」白紙たちは荒れ狂う白虎にまたがりながら、手提げかばんから紙を一枚取り出して、さっと紙飛行機を折り、狙いを定めて、ぶん投げた。弾丸の速度で向かってくる。
「あれに当たるとおしまいです」オルドビスはさっきの台詞「追っ手が来ます!」から【!】を引き抜いて、紙飛行機をはじきかえした。「拙者がここで防御します! デボンはウドイカッホを操縦して、全速力でここから離れてくれ! 長くはもたない」
「援護するぜ」地球も「おい増えたぞ!」の【!】を構えた。
「あたしも戦うわあ。武器をちょうだい」
地球は「白紙人間が!」の【!】をエンヘドゥアンナに渡した。「こっちはわたしたちでなんとかする。著者。おまえは前方のオーロラをたのむ」
わかった。武器をやる。つかえ。{↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑。
「これはなんだ」地球が武器を装備しながらいった。
括弧弓だ。矢印は一〇本。無駄にするなよ。
「おうけい。Time to action. さあ、アクションシーンだ」と地球{↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑。「おらあっ!」
三人体制で紙飛行機を弾く。
ウドイカッホは古代文明レーマンのピラミッド群のうえを縦横無尽に飛び回りながら、上手に紙飛行機をかわす。眼下に広がる高度なピラミッドたちに紙飛行機が当たり、風穴があいていた。そのピラミッドをドドドっと駆け上り、空中のウドイカッホに飛びつこうとする虎がいた。
地球{↑↑↑↑↑↑↑↑↑はすばやく一矢つがえ、ぎりぎりと弦をのばし、放った。虎の目に命中した。ギャオッという鳴き声とともに虎は真っ逆さまに落ちた。
「はじめてにしてはやるわね!」
「ありがとよ!」また一矢つがえて、追っ手めがけて射る。
飛んできた虎を地球{↑↑↑↑↑↑↑↑が射る。背中に乗った追っ手をエンヘドゥアンナが斬る。真っ二つだ。こんなふうに。
追|手
「斬れ味がおちてきたわねえ」エンヘドゥアンナは「はじめてにしてはやるわね!」から新しい【!】を、そして先ほどの地球{↑↑↑↑↑↑↑の台詞「Time to action.」から【T】をとって、両手に構えた。「おっしゃ、こいやぁ」
「陛下! 矢印はあと何本ですか!」オルドビスがいった。
「見りゃわかるだろ!」と地球{。敵はまったく減らない、むしろどんどん量産されていく。「数が多すぎる」
一瞬の隙をついて虎がウドイカッホを切り裂いた。「ウドイカッホ!」悲痛の声をあげるウドイカッホ。追い打ちをかけるように無数の虎が屋根を飛んで、ウドイカッホの巨大な翼に噛みついたり、爪でひっかいたりした。ウドイカッホは徐々に下降しはじめた。「ウドイカッホがやばいぜよ!」デボンが地球たちに言った。虎たちに追いつかれた。
上質紙が言った。
「世の中には諦めなきゃならねえことがあるんだろう? 逃げるのを諦めたらどうなんだ。おまえらの夢も、この物語の行く末も」
デボンがそれに応えて言った。
「世の中には諦めなきゃならねえことがある。だが、それでもなお諦めきれねえこともある! 吾輩はッ! そう信じている!」
その叫びに鳳凰が呼応した。ふたたび両方の翼を大きく羽ばたかせ、空を舞った。
「よし! 離したせよ!」
歓喜もつかの間、目の前には天の果てから地の果てまで伸びている到底超えられそうにない無敵の壁、オーロラが立ち塞がっていた。地球はぞっとした。だめだ。向こう側へ行く隙間すら見当たらない。ここから逃げられない。
「著者! オーロラを消してくれ!」もうそれしかなかった。
やってる! でもビクともしない!
「著者! あんた少しは役に立ちなさいよ!」
そう言われてもぼくの制御がきかないんだ! 壊せないし、高さや横幅を変更することもできないし、なに一つ介入することができない! きっとぼくじゃない何者かが作った存在なんだよ! ぼくにはどうすることもできない!
「行き止まりですぜえ! どうしやす!」デボンが追っ手を確認しながら叫んだ。
オルドビスはさすがにこのときだけは平然とすましてはいなかった。「くっ! 万事休すか!」
虎の足音がすぐうしろまで到達している。オーロラがどんどん迫ってくる。手が届く距離にまできた。このままじゃぶつかる! まえは壁で、うしろは追っ手。行き止まり。まさに大ピンチ。
「とどめだ」追っ手たちが紙飛行機をいっせいに投げた。ドスドスドスドスッ……! 「ギャオッ」ウドイカッホに全弾命中し、地球たちは背中から振り落とされ、宙を舞った。
「ウドイカッホ!」デボンが叫んだ。そのときだ。地球は宙に飛ばされて、オーロラに激突するのではというとき、走馬灯をみた。後期重爆撃期、著者の茶室、モホロビチッチの夜市、オルドビスの手料理、デボンたちとの温泉、壁画、それからなんといってもエンヘトゥアンナとの出会い。強烈な第一印象だったな。二人で乗り越えた台風、砂丘の山、感動した一本松。ん? ん? おや?
地球は閃いた。ここから抜け出すとんでもないアイデアを。
「著者っ!」地球が叫んだ。「諦めるなっ!」
仲間たちが全員、地球をみた。
地球! 壁が立ちふさがっている!
「世界を傾けろ!」
そうか! さすれば壁が道になるっ!
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世界はもとに戻ったが、そこに地球たちの姿はなかった。
「やつらはどこへいった!」上質紙があたりを見回すが無駄。
そこへオックス・シュメール。
「このままではまずい! やつらに知られてしまう! この世界の秘密を!」
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