メイドを地球の真ん中に
神立雪花
第1話 窓辺のチューリップ
カランカラン。古びたドアベルが鳴れば異世界へワープする合図だ。客の入店を知らせる。少し恥ずかしそうな顔が、店内の装飾やスタッフを興味深げに探っている。客は駆け寄ったスタッフに「おかえりなさいませ、ご主人様」と告げられ、奥の席に案内されて行った。座ってもキョロキョロするのは止めない。僕もさっきまであんな顔で辺りを見渡していたのだろう。今も緊張のまま口角が固まっている。
「ご主人様、お待たせいたしました! 『にゃんにゃんおむらいしゅ』と『あまあまぶらうにゃー』でございます」
この店では客は「ご主人様」と呼ばれる。そしてスタッフは、フリフリのワンピース、レースをあしらったシンプルなエプロンを着て、猫耳カチューシャを被っている。ここはいわゆるメイドカフェというところだ。僕が注文したのはオムライスとブラウニーなのだが、ここでは『にゃんにゃんおむらいしゅ』『あまあまぶらうにゃー』と言うらしい。
「わたくし、子猫のみぅなと申します! よろしくにゃん! おむらいしゅとぶらうにゃーがもーっと美味しくなるように魔法をかけに来たにゃ」
「あ、よろしくお願いします……」
萌え文化に慣れてない僕は思わず口ごもってしまった。
「じゃあ、両手の人差し指をピンッとして【美味しくにゃあれ】と言いながら大きくハートを描きます」
「はい」
「その後両手でハートを作って【萌え萌えにゃーん!】と言いながらビームをお料理に放ってください!」
案外物理攻撃な魔法に笑いそうになりながらもみぅなさんと一緒に魔法をかける。
「あの、子猫って言うのは新人さんって事ですか?」
「んー、猫メイドとして生まれたてって事です!」
「なるほど」
メイドを地球の真ん中に 神立雪花 @kandati_sekka
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