第7話 ~Ⅶ~

 その後、生まれ育った風凪町を離れ、都心に出た俺は、大学時代からアルバイトでずっと働かせてもらっていた設計事務所に、そのまま就職する事となった。


 ある日の朝方、部屋で流していたラジオから、東京都での桜の開花情報が知らされた。そのラジオを聞いた瞬間、俺は、体調不良の連絡を職場にメールした。

 もちろん、本当に体調が悪い訳じゃない、今日は他にしなくてはいけない事が出来たからだ。


 簡単な余所行きの恰好に着替え直し、最低限の荷物だけを持って、俺は最寄りの駅から、新宿駅を目指した。時間は10分程だろう。

 新宿駅には問題なく着き、そこから飛び乗った乗り換えの電車は、平日のせいもあり、割と空いていた。仕事をサボった不届き者を乗せて、中央線はゆっくりと走り出す。空席が視界に入ったが、俺はあえて入り口のドアに身体をもたれかかせ、電車の移動と共に変わる景色を眺めていた。


 毎年、この桜が咲く季節になったら、俺はあの風凪山に向かう。


 大事なモノを想いだす為に。


 大事な人に会うために。


―完―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法 小林快由 @k_kaiyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ