第19話 コミュ障は言わなくていいことを
自己嫌悪に陥っていると、自宅についた。
千里さんの家の位置は分からなかったため、タクシーには俺の家の場所を言っていた。
酔って吐きそうな千里さんを腕に抱えて自宅に入る。トイレで背中をさする。
「おえ、おえー。」
千里さんが気持ち悪そうにえずいている。ほのかな酸味が匂う。言いがち
背中をさすりながらも俺は罪悪感に苛まれていた。母は旅行。父は海外勤務のために家には今、誰もいない。これでは俺の方が送り狼だ。千里さんに嫌われた。何より大好きな人を傷つけた。我ながら自己中の酷い奴だ。
「ごめんね。こんな醜態をさらして。」
なのに、こんな時でも千里さんは俺を気遣ってくれる。
「いえ、俺の方こそ酔っているのに走らせてごめんなさい。」
「いいよ。未成年なら酔っている時に走らせちゃだめなんて知らなくて当然なんだから。」
千里さんは気持ち悪さで青白くなった顔を向けて優しく微笑みかけてくれた。
ピ~ンポ~ン
間延びしたチャイムがいつも通りの音を奏でる。
急いで玄関に行く。そこにいたのは凛だった。
「助かった。」
タクシーの中でこっそり凛にラインをうっておいた。自己嫌悪に陥りながらも、千里さんの現状と自分がやっちゃったことも何とか伝えてある。四人組がどういう奴らだったかも伝えた。
「はいはい。お水も持ってきたよ。」
そう言って凛は2Lの水を差し出す。
*
水も飲んで千里さんは落ち着いていた。とはいえ、一人で帰らせる訳にもいかず、千里さんには親に連絡だけしてもらった。だが、どうやら千里さんの家の人は忙しいらしく迎えにはこれないらしい。
そして、今日はこの家には俺しかいない。ここで泊まってもらうわけにはいかない。
その時、
「よし、じゃあ私も泊れば千里さんも安心だね。」
凛が明るく提案をしてくれる。
ホワイ?ジャパニーズピーポー。
お前、なんて提案してくるの?むしろ、ダメだろ。美少女率が高すぎる。俺の方の理性がもたないよ。いや、幼馴染よ、確かに恋愛感情はない。でも、こう俺も男としての劣情は出現しちゃうんだよ?分かっている?
前、凛と二人きりの密室で俺がどんな思いをしていたか言ったろか?
「う~ん。じゃあ、そうしてくれるかな。送り狼されそうだし。」
からかうようにこちらをジトッと見ながら千里さんも言ってくる。いや、怒られたり嫌われるよりいいけど。まじ?
・・・
やったーーーーー
じゃない。理性よ。働け。仕事しろ。今度こそ同じ過ちは犯すな。千里さんのための優しさを見せろ。
「いや、それよりも凛の家に泊まってもらった方がいいんじゃないか。凛の家なら近いし可愛いもの好きな紗栄子さんも千里さんほどかわいい人なら喜んでとめてくれるだろうし。」
「あの~、健太郎君。それはホントに素なの?」
酒のせいか少し顔を赤らめながら千里さんは聞いてくる。
「どういうことですか?」
「けんたろー。それ、間接的に千里さん可愛いって言っているようなもんだよ。」
“緊急事態だから今は追及しないけど後で覚えておけよ。”的な目線が凛から感じられる。わーい、ついに目線だけで人の言葉を理解したよー!…嬉しくねー。
怖いから、ここはフォローだ。フォロー。正直、何に怒っているかは分からないけど、思っていることを言おう。人の気持ちを考えて、しっかり自分の考えを伝えよう。
「いや、だって誰の眼からみても千里さんが可愛いのは事実だし。婉曲的に言っているんだしよくないでしょうか?」
「「はぁぁ」」
二人揃ってため息をつかれた。あれ?前は、俺が主観的に可愛いって言ったから気持ち悪がられたんだよね?今のは客観的な話だからセーフじゃないの?もしかして俺、成長していない?
「もういいや。それとその提案だけどダメ。けんたろー、私の部屋に入ったんだから私もけんたろーの家に泊まってけんたろーの部屋みるし」
あ、なんか許されたっぽい。呆れられすぎて見放された気もするけど。
「ただのお前の欲望じゃねーか。俺の部屋なら見ていいから、さっさとみて千里さん連れて帰れよ。」
「それでもだめ。もうけんたろーの家に泊まるって言っちゃったし。」
この幼馴染は事もなげに言ってくる。
恐らくは紗栄子さんの要らぬ入れ知恵だろう。あの人、凛が俺のことを好きだと勘違いしている節があるからな。
紗栄子さんがニヤニヤしている姿が目に浮かぶ。
「じゃあ、千里さんと一緒にけんたろーの部屋見てくるね。」
「おい、やっぱ泊まるってんならみるな。家主が許可しない。」
こう言っておけば凛が折れて「泊まるのやめるから部屋見せて」って言ってくれると思った。ほんの少し押しつけがましい優しさかもしれないけれど、やっぱり俺なんかの家に泊まって欲しくなかった。それに、俺の尊敬する二人が仲良くなって欲しいって身勝手な願望もちょっぴり入っていたと思う。
う~ん、人のことを考えた優しさって難しい。
ホントの優しさと、身勝手な優しさの違いについて悩んでいると、
「もう、けんたろーのお母さんには許可とったし
と言って凛がラインを見せてくる。
凛 “この間言っていたドラマの録画手に入りました。
p.sけんたろーの部屋に入ってもいいですか?”
けんたろうママ“おけまる水産。じゃんじゃん見ちゃって。因みにエロ本は教科書のカバーで隠されているよ。机の棚の端にあるエロ本が健太郎の好みみたい。”
母さん女子高生言葉つかうんじゃねーよ。しかも、それもう古いよ。
あと、何で息子の性癖知っていてそれを暴露しちゃうの?俺のプライバシーは?もう、テンションがおかしくなりそう。シリアスさせて。
いや、でもシリアスさせてってこと自体が自己満足なわけで、それを否定しちゃうのは身勝手なことなわけで、じゃあ、反省しなくていいかって言えばそうじゃないわけで、ああ、もうわかんなくなってきた。頭がパンクしそう。人の気持ちを考えて行動する(優しさ)って何?
「へぇー。そうなんだ。一緒に見に行こうね。凛ちゃん。」
俺が悩んでいると、楽しそうに千里さんが笑う。
「いや、千里さんは吐いたばかりなんだから大人しくしていた方が…」
「いいの。いいの。飲みのあとに適度な運動は大切なんだから。」
さっきとは逆のことを言いながら千里さんは輝く眼で語る。
「千里さんって意外と、男子の下着姿とかみたら。
“きゃーー”とか言って顔を手で覆いつつも、覆った手指の隙間から下着をガン見してそうですね。」
頭がパンクしていた俺は思いついたことをそのまま言ってしまった。
「健太郎君。そんなことを言う人には年上権限の罰です。健太郎君のお母さんの言うエロ本以外がないか私と凛ちゃんで他のエロ本の探索して検閲することにします。」
ちょっぴり赤くなった千里さんが頬を膨らませる。
ぎゃーーー。尊敬する好きな人と、幼馴染にエロ本を見られるとか恥ずかしすぎる。
なんで千里さんを己は煽っとんじゃい。バカなの?俺はバカなの?
「じゃあ、行きましょう。」
そう言って二人仲良く手をつないで凛と千里さんは二階の俺の部屋に行くのだった。
それを止めるすべはもうなかった。
“本は紙で読むべきだけど、エロ本は電子で読むべきだな。”
どっかの白髪犯罪者が“紙の本で読みなよ”って言っていたのを思い出しながら現実逃避をしているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます