第18話 ボッチの嫌がらせは地味だけどウザい

 

凛はその後も千里さんの方を見るようにして、楽しめないようだった。

 それから一時間くらいしただろうか?


「今日はもう疲れたし解散にしようぜ。」


 俺の方から声をかけた。


「わかったよ。」


 俺の言葉に幼馴染は力強く嬉しそうにうなずく。そう言う幼馴染は千里さんたちがシャワー室に向かって帰ろうとしているのを俺と同じように見つめている。


「お前はしっかり真っ直ぐ家に帰れよ。」


 なんか行動を察せられているのはムカつくけど、念のために注意をしておく。

 うちの幼馴染はおせっかいだから俺がしようとしているお節介についていくと言いかねない。

「はーい。けんたろーもがんばってねー。」

 笑顔な幼馴染は俺のことなんてやっぱり、お見通しのようだった。



幕間「不安=好き」


 けんたろーの優しいところが好き。鈍感なところも好き。少し意地悪なところも好き。他の人を助けているけんたろーをみるのも好き。この好きがもう私の体には入らないよ。どうしよう。



 けんたろーが、好き。好き。好き。好き。好き。笑っている顔が好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。怒っている顔も好き。泣いているのをみるのも好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。からかってくるのも好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。けんたろーのたれ目が好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。見た目も好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。性格も好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。ヘタレなとこも好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。死ぬほど好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。たまにある男気も好き。好き。好き。好き。好き。不器用な気遣いも好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。何よりも好き。一緒の時間に呼吸しているだけで幸せ。全部、ぜーんぶ好き!

 

けんたろーのためなら一〇人までなら、人だって●せるよ。今日会った千里さんのことも好きになっちゃったけどけんたろーのためなら監禁くらいまでならできるよ。…傷つけるのはムリだけど。

 でも、それ以外なら何でもできる。そのくらいに愛している。だから、ずーーーっと一緒にいて欲しい。


 けんたろーをプールから見送ってから、どうしても溢れる好きの言葉をラインに書きなぐる。

 送信したらどうなるのだろうか?

 こんな私も受け入れてくれるかな?

 それとも、千里さんのことをけんたろーは好きになっちゃったのかな?そんなわけないよね?私と一緒にプールに行けるの嬉しいって言っていたこともあるし、、私のことをけんたろーは好きなんだよね?


 そうに決まっているよね!


 あれだけ、熱烈に一緒にいたいって言われたんだから大丈夫。むしろ、付き合っているって言っても問題はない。

 けれど、不安は募る。だって、両想いなのに未だにキスどころか手すらつないでいない。

 友達とかの話を聞く限り、早いと付き合って一ヵ月で初体験って言っていたし、そうでなくても手をつなぐくらいは一ヵ月くらいで皆やっている。


 書いても書いても、収まらない「好き」の気持ちと、けんたろーの気持ちが自分の方に向いていないんじゃないかという不安。いや、大丈夫なはずだ。…でも、千里さんのところに行っちゃったし。


 私だってあんな人達に私のせいで千里さんを連れていかれるのは嫌だったけど、けんたろーが行くのも複雑だ。


 ラインに告白を書くだけでは埋まらない不安を鎮めるために、けんたろーの絵も描いた。

 我ながら上手くできている。

 ちょっとたれ目で気弱そうな、いじめたくなる、けんたろーの顔をよくかけている。


 けんたろーは気弱なとこもあるけど、私には強い言葉を発するときもある。それもたまらなく快感だ。けんたろーに馬鹿にされると、とっても気持ちよく感じる。身体中がポカポカして鼓動が早くなる。

 溢れる恋心。私は恋しているんだって心から思える。

 その絵を抱きしめて、絵の中のけんたろーに向かって愛の告白をして自分を慰める。

「けんたろー好きだよ。愛している。ずっと私だけのけんたろーでいてね。」


 この言葉が幼馴染の部屋では最近、日常的に呟かれるのを健太郎はしらない。


***********************************************************************************************


 係員に注意されながらも小走りでプールの袖口を駆け抜けていく。

 シャワーもそこそこに、男性更衣室に向かう。


 あの四人組に見つからないように静かに更衣室の扉を開ける。


 扉を開けて左の方を見ると四人組がくちゃくちゃと喋りながら髪を乾かしていた。静かに扉を開けたのが功を奏したのかこちらに気付く様子もない。

 更衣室は学校の教室くらいの広さだ。

 プールからの扉を開け、右手の方が着替えや貴重品を入れるロッカー、左がドライヤーと鏡が並ぶ構造になっている。

 そして、右手前が出口となっている。

 俺は急いで右のロッカーから荷物を取りに行く。そして、ドライヤーのあるところの近くに荷物を置き直して、着替えながらも四人組の話に耳を傾けられるようにする。


「流石っすね。風間さん。前の彼女よりも上物の女じゃないですか?」

 モブキャラ君が短髪黒髪のイケメンに声をかける。

「もう少し静かに話せよ。どこに耳があるかわからねーからな。それに、ああいう女は最初が肝心だからな。今日抱くことはできねーよ。」

「じゃあ、いつもみたいに風間さんがいつまでにあの女を籠絡できるか賭け事でもしますか?」

 ブサイクな男が声をかける。

「一〇日」

「三日」

「一ヶ月くらいはかかるんじゃねーか?」


 最初に声をかけてきた茶髪の男は楽しそうにそんなことを言う。


「じゃあ、健二の予想の一ヵ月を超えるの目標に頑張りまーす。」


 チャラそうな黒髪の男は髪の毛を自前のワックスで整えながら、他の三人に向かって宣言する。


「ってか、なんて言ってあの二人から千里ちゃんを引き離したんすか?」


 モブ一号(普通の顔)が質問している。それは俺も気になっていたことだった。


「ん?ああ、あの二人お似合いだから二人にしてあげたら喜ぶんじゃないかって言ってやったんだよ。そしたら、ほいほい釣れた。優しい女は、誰かのためとか恋愛のためとかにはよえーからな。まあ、あいつはいい女だぜ。」


ははは。と笑ってイケメンは狩りを楽しむ。獲物は俺の大好きな先生。


「流石、風間さん女心を分かっていますね。」


 モブ二号(ブサイクな方)だかが風間とかいうイケメンをたてる。

 くそっ。うぜー。「あいつ」呼ばわりしてんじゃねーよ。あんな奴らが一時でも千里さんと一緒にいたとか許せねー。身体が熱い。怒りで沸騰しちまいそうだ。

 とはいえ、四対一でつっかかっていっちゃだめだ。冷静になれ俺。


すーはー。


深呼吸をして何とか突っかかるのをやめられた。


 『でも、マジで許せん。』


 ここは、ボッチの根暗な嫌がらせの真骨頂を見せちゃろう。


 しばらくすると早速その機会がやってきた。荷物を取りにロッカーの方へ行くのに、イケメンがワックスを鏡台の前に忘れているのを見つける。チャンスだ。

 そのワックスに水をすこしだけ入れてやる。

 『イケメンよ。いつもと同じ分量使ってもいつもよりもカッコよく決まらない恐怖という奴を見るがよい。』


 そうして、四人組が更衣室から出ていくのについていく。そして、青いベンチのような椅子が並ぶ広いところに出る。

 そこは、県営のプールがある建物のちょうど入口にあたるところだった。待ち合わせがしやすいように開けた場所になっている。そのため隠れる場所が少なくて困る。

 仕方がないので二階から四人の様子を見る。声までは聞こえないが仕様がない。


 千里さんが女子更衣室から出てきた。濡れた髪が艶めかしさを感じさせる。


 “千里さん、あの格好であんな下心満載の男どもの前に現れるなんてダメだ!”


 自分のことは棚に上げて心の中で叫び声を上げる。

 じっと見つめていると千里さんと四人組が話しをし始めた。しばらくすると、千里さんを四人で挟むようにして歩いていく。

 出口にむかっていく五人を追跡する。駐車場につくと、彼らは黒い車に乗っていく。後ろの席で千里さんを挟むように座るようだ。いや、その前に運転手らしいイケメンが声をかけて、それに待ったをかける。そして、千里さんを助手席に乗らせる。


 これがイケメンのテクニック。見習わねば。


 って、ダメだ。それじゃあいつらと同じになる。俺は千里さんには真っ直ぐにぶつからなければならない。いや、ぶつかりたいのだ。


 追跡に使えると思って車の写真だけ撮って、とりあえず、駐輪場に行って自転車を取りに行った。自転車を取って戻ってみると、既に車は出発するところだった。急いでその車を追いかける。


 千里さん防衛隊ファイヤー。


 もちろん、どこかの防衛隊とは違って普通に車を見失った。

 仕方がないので、スマホで飲み屋とカラオケ屋を中心に電話をかけていく。


「あの、すみません。こちらに男性4人組と綺麗な女性の集団を見ませんでしたか?」

「そんなこと教えられるわけないでしょ?」

「そこをなんとか。僕を守ってお姉ちゃんが悪い男たちについていっちゃったんです。」


 うそをついた。


 偽計業務妨害とかでつかまる?知ったこっちゃない。


 それでも教えてくれない人が大半だが、教えてくれる人もいた。個人情報、意外と漏洩するんやなと若干残念な気持ちにもなる。だって、冷静に考えて、お姉ちゃんが悪い男に連れられて(普通の)飲食店に行くってどんな状況だよ?ヤクザだってもう少しましな場所にするわ!


 そして、SNSでも一時的に鍵垢を開放して、さっき撮ったカーナンバーも映っている車の写真を「誰か、この車を知りませんか?」という文章とともにアップする。


 個人情報?知るか。ばーか。


 そして、居てもたってもいられず飲み屋やカラオケボックスが多い場所に自転車で向かう。


「やったろーじゃねーかーーーーーーーーーー。」


 周囲から奇特な目で見られながらも俺はハイテンションのままに叫ぶ。

 後で黒歴史認定になったのは言うまでもない。


 どうやら高三になっても、中二病は抜けていないらしい。これ、一生抜けないのかなぁ?禿げたおじいさん(担任)が「やったろーじゃねーかーー」とか叫ぶのを想像してみる。何ともいたたまれない気持ちになる。中二病、完治しないかなぁ?



 知り合いの多い凛がリツイートしてくれたこともあって千里さんが乗った車がどこに行ったのかはすぐに見つかった。どうやら某居酒屋のチェーン店にいるようだ。


 向こうがこのツイートを発見したら困るのでツイートを消して、お礼だけSNSに書いてその店に行き、店の外側で待機する。

 発見した店は意外にも某チェーン店の飲み屋だった。イケメンってお洒落れな店しか行かないんじゃないの?


 本気で自転車をこいでいたせいで全身汗だくになっている。周りから白い目で見られる。我慢。我慢。


 それから2、3時間待っていただろうか?五人がいつ出てくるか分からないので飲み物も買いにいくこともできずに待っていたら、やっと酔った四人と素面のイケメンが出てくる。


「めっちゃ楽しかったですね。千里さんホント面白いですね。」

「そんなことないですよ。」

 少し顔を赤らめた千里さんが微笑む。

「じゃあ、送って行きますよ。」


 イケメンが千里さんの背中に手を当てて、優しく微笑む。

 その言葉にさっきの四人組の下心満載の会話を重ねてしまう。

 俺は居ても立っても居られないで五人の前に出ていた。五人は先ほどのボッチ宣言したガキが突然現れたことにあっけにとられたようだった。


「千里さん。デートの約束守ってください。」


 気づけばそう言って俺は千里さんの腕をひいて走っていた。

 そして、通りがかったタクシーに乗って自分の家の所在を告げる。


「はあ、はあ。」


 俺は息を整える。


「はあはあ。いきなりどうしたの?酔っている人にこんなことしちゃダメだよ。ってヤバい。吐きそう。」

 千里さんがげんなりしたように口に手を当てて気持ち悪そうにいってくる。


 ああ、失敗した。


 これでは千里さんの気持ちも考えていない。

 凛との会話から何一つ成長していない。これは相手を思いやらない優しさだ。陰キャだからって言い訳できない醜さだ。


 だって、あの四人組よりもひどいことを千里さんにしているではないか。

「すみません。」


 タクシーの中で、俺は千里さんの背中をさすりながら、小さく呟いた声が虚しくこだまするのを聞いていた。



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