第7話 大抵の女子は好きな子の前だと猫を被っている(個人の見解です)



「あ、そうだ。凜はやってみたいこととかある?」

 勉強を教えるという約束をした後、昨日の宿題のことを思い出して聞いてみる。


「えっと、今年も健太郎と一緒に川遊びに行くことかな。あ、いっとくけど、別にけんたろーと行くのが楽しみなんじゃなくて川遊びが好きなだけなんだからね!」

 さっきから顔を赤らめっぱなしの凛がこたえる。


 あ、質問間違えた。


 これじゃあ、今、何をしたいか聞いているみたいだな。

 

 それと幼馴染が可愛すぎる。

 俺の幼馴染がこんなに可愛いわけがない。

(ええい、顔を赤らめながら言うんじゃない。勘違いしちゃうだろ。自分で言っているように凛は、”川遊びに行きたい”だけだ。受験勉強があるからそんなことを言ったら俺に怒られると思って不安で顔を赤らめているだけだ。落ち着け、俺。落ち着け、俺。)


「ダメだ。今年は受験生なんだぞ。」


 心の中では血の涙を流しながらも、凛には大人ぶってそんなことを言う。

(俺だって滅茶苦茶行きたいよ。凛の色々な部分の成長度合いもみたいよ。今もチラチラ凛の胸の方に目がいっちゃってるんだよ。思春期男子なんだよ。滅茶苦茶見たい。ああ、行きたい。まじ、行きたい。)


「もう、分かっているもん。そんなに怒らなくてもいいじゃん。」


(凛ごめんな。)


 悲しそうに言う凛に罪悪感も覚える。

 でも、大学受からしてやるって言った以上、凛の教師役としてはそれはダメなんだ。


「健太郎と一緒に川遊びしたかったなぁ。」

 しばらくして、凛が小さく独り言を呟いているのを聞いてしまう。

「ら、来年は一緒に行こう。」

 凛の独り言を聞いたからフォローしてやりたいと思ったけれど、結局、眼をそらしながらぶっきらぼうに言ってしまった。


「うん。そうしよ。約束だよ。」


 それでも幼馴染の凛はそんな俺の低コミュ力に慣れているのか嬉しそうに頷いてくれる。


「その代わり今年は受験勉強に専念しろよ。他の友達とどこかに行くのもダメだからな。」

 

 その言葉は、恥ずかしさを紛らすために言っただけだった。

 だがさっきとは逆に、その言葉を聞いた凛が、俺からすーっと眼を逸らしていく。


「凛、お前予定、立てているんだな?」

「ソンナコトナイヨ」


 凛が、目をそらしたまま言うので凛の顔をのぞくようにジトッと見つめる。


「え~っと、実はうみちゃんとアーリンと海に行く約束が・・・。」


 俺に睨まれて観念した凛は、意を決したというように言ってくる。これで、図らずも、凛の遊びを阻止することができるようだ。


「ダメだ。春休みにでも行けばいいだろ?」


「え~、それじゃあ海が開いていないよ~」


「近くの温水プールにでも行けばいいだろ?」


 不満そうな凛をそうやってたしなめる。


「む~、海の広さがいいのに。」


 だが、やっぱり、不満そうにしている。


 その後もあ~だこ~だ凛は、文句を続けていたがそれが突然ピタリと止まった。

 凛の表情を見るとひまわりのような笑顔になっていった。

 嫌な予感がする。


「ああ、そうだ。なら、来年のプールは健太郎も一緒に行こうよ!それなら今年の夏の海はやめるよ。」

 流石は幼馴染。俺が嫌がることを分かっているじゃないか。


 美少女の水着姿は確かにみたい。凛があげた三人が美少女なのも知っている。

 そして、三人もいればフリル型の可愛らしい水着・肌色のおおいビキニ・恥ずかしそうにする幼馴染。全て拝めるだろう。


 正直、どれもみたい。


 けど、これはトラップだ。一級ボッチストの俺にはわかる。

 女三人の中に男一人で混ざるっていうのは、リア充の中のリア充でないとダメなやつだ。

 リア充の中にポツンといる静かめの奴じゃ無理なイベントだ。精々空気となって気まずい思いをするだけだ。もっとひどければ、アイスクリーム買ってきて~とか、浮き輪借りてきて~とかぱしられるはめになるだろう。だから、そんな場はリア充の中でも真に選ばれたリアルリア充でないと苦労する。


 苦労しないとかいう奴がいたらリアルリア充の言だ。とにかく俺はムリ。

 だから抵抗する。


「でも、凛の一存じゃ決められないだろ?俺、その子たちあんま知らないし。」

「大丈夫、私が押し込むから。それにアーリンは健太郎の志望大学の先輩だから健太郎にとってもいい話だと思うよ。」


 “志望大学受からなかったらどうするんだよ。気まずすぎるぞ。“


 でも、凛は俺が受からないなんて微塵も思っていないようだ。名案を見つけたとばかりに目が輝いている。


「はあ、分かったよ。凛が合格出来たら付き合うよ。」

「やったー!流石は健太郎。」

 ぴょんぴょんその場で胸部を揺らしながら飛び跳ねる凛は眼福であった。

「健太郎ありがとね。」

「あ、ああ。」


 胸のことを考えていたから純粋な眼でお礼をしてくれる凛に言いよどんでしまう。


「やっぱり、嫌かな?」


 言いよどんだせいで凛が心配そうに聞いてくる。

 なんで俺の周りの子はこんないい子ばっかなの?

 俺の罪悪感ゲージが高まっちゃうからこれ以上優しくしないで。胸なんて見ていてごめんね。


「いやじゃない。むしろ、凛といけるのは嬉しい。」


 頑張っていやじゃないことをアピールするけれど、恥ずかしくなって凛がいる方とは逆の方にあった電柱をみながら言ってしまう。


「ありがと!私も健太郎と行けるの、嬉しいよ。」


 その笑顔は誰よりも可愛い幼馴染の笑顔だった。


* 


「凛と行けるの嬉しい」

 って、けんたろーが言ってくれた。

 私も思い切って『けんたろーと行けるの嬉しい』って言っちゃったし、これは両想いってことでいいよね?だって、「凛たちと行けるの嬉しい」じゃなくて「凛と行けるの嬉しい」って言ってくれたもん。…千里さんとかいう美人さんらしき人がきたけど、これでもう安泰だね。まあ、はじめっからぽっと出の女の子にとられることはないしね。


 けんたろーに好きになってもらうために、色々と努力もしてきたもんね。

 スポーツが好きな人が好きだって言ったらテニスをして、優しい女の子が好きだって言っているのを聞いたら(けんたろーの目の前で)困っている人を助けてとか色々と頑張ってきたからね。

これだけ尽くして、好みのタイプになって、好かれないわけがないよね?


 思い切って一緒に登校してよかったぁ。また、断られるんじゃないかってすごく不安だったけど、ほんとによかった。早く告白してくれないかなぁ。けんたろーはいくぢなしだから私から告白しないといけないのかなぁ?でも、やっぱり、男の子から告白して欲しいな。


「ずっと、好きだった。今まで言わなくてごめん。一生大切にする。だから、付き合ってくれ!」

 とか熱烈な告白をしてくれると嬉しい。

 私なんて小学校のあの夏からずーっとけんたろーのことが好きなんだもん。そのくらい言って欲しいなぁ。無理かなぁ。

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