45配信目 BARキラキライブ

 女の子は自分のスマートフォンに映された7桁の数字と、当選番号が映された会場のモニターを何度も何度も目線を動かして確認する。


(あああああぁぁあああ当たった――!?)


 嬉しすぎて小躍りしそうになるのを必死に抑えるが、女の子の口元は嬉しさを隠しきれず緩んでいた。


 女の子が当選した番号、それは“BARバーキラキライブ”の当選番号だ。

 キラキラフェスティバルで前半のライブが終わり、後半の部が始まるまでの間にこの“BARキラキライブ”というイベントが開催される。


 キラキラフェスティバルのチケットを買うと無料で各種イベントへの参加申し込みができるのだが、当日発表される番号と見事一致していればそのイベントへ参加することができるというものだ。

 女の子が申し込んだ“BARキラキライブ”は、バーテンダーとして働いているという設定のライバーと話すことができる。


 そして女の子が申し込んだのは、当然、一番に自分が推している魔王さまこと、ニーナ・ナナウルムだ。

 特徴的な“のじゃ”口調と、コミュ障ながら尊大に振る舞うというかわいいギャップに一目惚れして以来、配信を欠かさず見ている。


 かく言う女の子もコミュ障をわずらっており、なかなかうまく人と話すことが出来ないのだが、憧れの魔王さまと話すために今日のイメージトレーニングに抜かりはない。数分間のおしゃべりだが、有意義なものにするんだと自分を奮い立たせる。


(ウヘヒヒ…… 魔王さまとお話できる! ウヒヒ……)




***

 

 

 イベント開始の時間――。



「魔王さま、コミュ障でこのBAR大丈夫? やってける?」


「大丈夫に決まっておろう! 我は魔王じゃからな!

 まあ、実は言うと昨日まではこのイベント若干というかめっちゃ不安じゃったけど、ライブ終わってからなんか吹っ切れたのう! 画面越しなら饒舌になることいと易しじゃ!」



「もうすぐ自分、大学受験で…… 元気がでるような励ましのお言葉いただけたら嬉しいです」


「いやもうお主受験する時点でめっちゃ立派じゃよ。我なんて高校卒業したら進学もせず就活もせずにニートやってたからのぅ。

 ただそうじゃな…… 励ましの言葉か。

 お主はきっと勉強中はスマホを封印したり、ゲーム時間やラノベを読む時間を減らしたり、頑張ってきておるじゃろ? だから主ならきっと大丈夫じゃ」



 ついにイベントがはじまった。

 順番に番号を呼ばれ、ステージの上で当選した人たちが思い思いの話しを魔王さまとしている。


 一人あたりに割り振られた時間は数分間。

 これを多いと見るか少ないと見るかは人によって違うだろうが、ここにいる多くの人がもっとライバーと話したいと思っているだろう。自分もその1人だ。


 いつもモニターの中で見ていた人と直接――もちろん魔王さまは透明なスクリーンに投影されているのでそういう意味では直接ではないが――話すことができる。こんなにも胸が踊ることもそうないだろう。


 魔王さまことニーナに話す内容は考えてきてある。

 あぁでもないこうでもないと時間のない中で必死に考えた内容だ。


「では2434114番の方ー! ステージにお上がりください」


「!」


 来た。

 ついに来てしまった!


 ドキドキと鼓動を早くする心臓を感じながらステージに上ってバーカウンター風の席に座る。

 緊張している自分を察してくれたのか、目の前のスクリーンの魔王さまがニコリと優しく微笑んだ。


「そう緊張せんでもよいのじゃぞ。取って食ったりするわけじゃないからの」


「は、はい」


「いやぁ、我が他の人に『緊張するな』とか言うの違和感ありまくりじゃの。

 ……それで、お主とは何を話そうか。

 励ましの言葉が欲しいとか、今日のライブの感想やら世間話やらを話したり、前の奴らは色々な話題を持ち込んできたのじゃが、お主は何か話したいことはあるかの?」


 ――よし、言おう!


 女の子は息を小さく吸った。


「あ、あの! これは私じゃなくて、友達・・の話なんですけど、その子、Vtuberがとっても好きで、Vtuberに出会って人生が変わったとかも言っていて、魔王さまが大大大好きで……」


「うむ」


「その子、Vtuberが好きすぎて、自分もあの楽しい空間に行きたいって思って、Vtuberの企業に応募しようとしてます。

 あ、まだライバーとして応募するか、スタッフとして応募するか決めてないんです・・・・・けど、あ、決めてないらしいんです・・・・・・・・けど、いまいち応募する勇気が出なくて……

 実はその子も少しコミュニケーションを取るのが苦手で、そんなんで応募して良いのかなって…… 社会人としてどうなのかって……」


 言ってしまった。

 言っちゃった。


 女の子はいざ言ってみると少し後悔してしまっていた。

 いきなりこんなにまくし立てて言ってしまうし、Vtuberになりたいとかその企業でスタッフとして働きたいとかいきなりこんな事話されて、きっと魔王さまは困ってしまうだろう。


 ――もっと無難な話にすればよかった。

 

「ふむふむ」


 少し憂鬱な気持ちになってしまった女の子とは対象的に、魔王さまは真剣な顔つきになった。(魔王様は3Dモデルだから仔細まで表情はわからないが。)

 魔王さまは顎に手を当てて少し考えると、優しい眼差しで答えてくれた。


「そうじゃな…… その“友達”はきっと本当にVtuberが好きなのじゃろう。

 “友達”は日々の抑圧された生活に嫌気がさしておった。やりたいことも目標も特に無くただ惰性で過ごす日々。毎日毎日同じことを繰り返す日々はどんどん色が落ちていった。

 そんな折、Vtuberというコンテンツに出会い、日々がどんどん色づいていった」


「え?」


 『なんでそんなことまで分かるんですか?!』と思わず口にすると、魔王様は『我は魔王じゃぞ?』と得意げに笑う。


「Vtuberというのは見た目をいくらでも『創る』ことができる。だからこそ、創る事ができない『魂』が魅力的であることが必要じゃ。まあ、これはある人の受け売りじゃが……

 もちろんライバーだけではない。スタッフになるにしても、『魂』を込めて共に世界を『創っていく』という情熱や想いが必要じゃ。

 つまりその点、“友達”は充分魅力的じゃな。性格も良いし、可愛い声もしておるおなごじゃ。Vtuberのことがとっても好きなようじゃし。少なくとも、我には魅力的に視える・・・の。

 我の人を視る・・目はたしかじゃ。

 もし、その“友達”が自分に自信がないとか言っていたらもっと自信を持っても良いほどお主は才に溢れておると言っておけ」


「は、はい…!」



 魔王さまは一呼吸おくとニッと笑った。


「なにせ超絶コミュ障の我がライバーになって、こんな大きなイベントに来れたんじゃからな! 不可能だと思って可能性を潰してしまうのはもったいないぞ――!」



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