41配信目 ライブの練習

 3Dモデルの試着の日から数日後。


 今日はライブの練習のためにキラキライブ本社へお呼びがかかった。

 一応3Dモデルの日以降も真根さんや他のスタッフさんとも打ち合わせが何回かあった。以前までの我なら全部文字のチャットでなんとか済ませてしまうところだが、なるべく音声による打ち合わせも入れるようにしている。

 直接会って打ち合わせをするわけではないが、これでも我にとっては大きな1歩だ。


 キラキライブに入る前と比べたらだいぶ成長したな、我。

 さすが我。略してさす我。


 しみじみと思いを馳せたいところではあるが、現実に戻ろう。



 打ち合わせを重ねていくごとにライブでの我の役回りも決まってきていて、我は異世界3人組で歌うのと、あと、なんと! 白月ノゾミちゃんとのデュエットも任されたのだ! ぐへへ、ノゾミちゃんとデュ、デュエットとか…… 考えるだけで垂涎ものだ。


 ノゾミちゃんとはまだお互いの配信でコメントを残したり、ツイッターでお付き合いをする程度ではあるが、このライブを機にぐっと距離も縮まって、あんなことやこんなことも……

 うへぇへぁ…


 その分緊張も凄まじいがな。


 で、でも、ら、ライブが終わったら、こ、コラボとか誘ってみちゃったり?!


 うーむ…… 冷静に考えたら色んな意味で死亡フラグになりそうじゃの。

 ノゾミちゃんとコラボとか心臓を3つくらい用意しないともたないな。……イカかな?



 で、今日はライブの練習だ。

 Vtuberのライブの練習と聞けば、現実のアイドルのライブ練習となにか違うことをやるのかも?と思われるかも知れない。しかし、3Dモデルがお客さんの前に出るとはいえど、踊るのは中身である我なので、結局のところ、ダンスと歌のレッスンになる。


「よろしくお、お願いします」


「うし、いっちょやるか!」

「お手柔らかにお願いするわ~」


 上下赤色のジャージを着て、レイとリリィと一緒にトレーナーさんに挨拶をする。


 なんていうか最近レイとリリィと一緒にいることが本当に増えた気がする。

 オフコラボがきっかけになって、ゲームでもちょこちょこ一緒に遊ぶ。まあ配信外でだけど。なんていうかまだリスナーの皆に見せられるような代物しろものじゃない気がするからのぅ。どもりまくりで挙動不審のフルコースじゃ。


 でも、そろそろオンラインコラボしても良いかも知れない。


「はい。じゃあまずは3人のリズム感をみるから軽いステップからですね。

 私がお手本を見せるから、そこで見ててくださいね」


 そう言ってトレーナーさんが曲に合わせてステップを刻む。


 むむ。

 簡単なステップと言っていたが、存外難しそうな気がするが?


 え? 何その足さばき?


「はい。じゃあ、とりあえずやってみましょうか」


 とりあえず見様見真似でやってみた。

 トレーナーさんの指導を受けつつ、何回かやってみる。……結構難しいな…



「うーん…… そうですね。結構3人共筋は良いと思います。

 ただ、リリィさんはちょっと振りが大雑把すぎで、ニーナさんは振りが小さいです」


 た、たしかにちょっと気恥ずかしくて振りが小さかったかも知れぬな。

 うーむ、難しい。



「本番では後ろの方のお客さんにも見えるように、大きな振りが必要ですが、大きく振るにも繊細さも必要です。まあ、結局は練習あるのみです。

 さあ!どんどんいきますよ―!」




***


「ぜぇ…はぁ……」


「はぁ…はぁ……」


 そこからみっちり3時間練習した。


 いやびっくりじゃよ。

 ダンスってこんなにも疲れるんじゃな…… 歌いながらダンスはもっと疲れた……


 優秀な自宅警備員であるこの我に、なんという仕打ち。ぐぬぬ。


「はい。皆さんお疲れさまです」


「楽しかったわ~」


 ぜえぜえと息を切らしている我とリリィを尻目に、なぜかレイは全く息を切らさずにニコニコしている。

 もちろんレイも我らと一緒にみっちり3時間練習していたわけで、なんなら一番キレッキレに動いていたまであるわけだが……


 え? 意味が分からんが?

 何だこのフィジカルおばけ?

 これが世界を救う勇者の体力か――。


「うん、レイさんはさすがですね。動きに無駄がなく、体力も素晴らしいです。

 ニーナさんやリリィさんはもう少し体力をつけてくださいね」


「お、おう」

「りょう、かい、じゃ……」


 これはアレじゃな、自宅でゲームしながら運動できるリングフットアドベンチャーをみっちりする必要があるのう…



 そのまま今日は解散となった。


 我はまだ少し息が上がっていたので、そのまま地面にぺたんと座っていたのだが、隣で座っていたリリィはだいぶ体力が回復したのか、うんしょと立ち上がった。


「ふぁ…あー! つっかれたー! いやあ、ひっさびさにこんだけ動いたわ!

 なあ、帰りにアイスクリーム食べに行こうぜ!」


「あらいいわね~」


「天真駅近くに33-4アイスクリームができたらしいしな! ニーナも天真駅から帰るだろ? 帰りにちょっくら寄ろうぜ」


 今日はテレポートを使わずに来てるからたしかに天真駅から帰るが…

 そんなコミュ強リア充みたいなことできるじゃろうか?


 ……ええい! 思い切りが大事じゃな!


「う、うむ」


「うっし!決まりだな!」



 それに高校生時代を思い出してなんだか懐かしい気持ちがして、悪くない。


 懐かしいのう。放課後に友達と他愛もない話をしながら、夏の暑い日にはコンビニで安いアイスを買って食べたが、アレは格別美味しかったの。

 鬼山先生の出す宿題が多すぎるって文句をみんなで言ったり、アニメの話をしたり……


 ふっ。


「な~にニヤついてんだニーナ?」


「うわっ」


 昔に思いを馳せていたら急に後ろからリリィが抱きついてきた。


「び、びっくりするじゃろう?!」


「いいじゃねーか。ニヤついて楽しそうだったし? なあ?」

「ふふっ、そうね。なんだか楽しそうだったわ。何を考えていたのかしら?」


「いやべ、べつに…… 昔を少し思い出していただけ、じゃ」


「ふーん。ま、そのあたりはアイス食いながらじっくりと聞きますか」

「あら、楽しみね。じゃあ行きましょうか」


「あ、ま、まってくれ。我を置いていくなんてとんだ罰当たりじゃぞ――!」


 地べたから急いで立ち上がり、リリィとレイの背中を追いかける。

 その背中を見てふとあの日々が重なる。


 そしてふと感じた。あの日々と同じくらい、今が“楽しい”と感じている自分がいる。




 ――ああ、悪くないな。

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