42配信目 ライブの練習2

 今日はやばい。

 とってもやばい。


 何がやばいのかといえば、今日は、なんと!

 ノゾミちゃんとの合同練習だ!


 ノゾミちゃんには何度かコラボを誘われたりしたのだが、我の心が持たないので今までちょっと遠慮していた。お互いの配信のコメントで交流したりトゥウィッターで交流したりは最近は割とあるがの。


 それがいきなりノゾミちゃん本人とオフで会い、かつ一緒にライブの練習なんて……!


 楽しみがやばすぎるが、緊張もやばたにえんの無理茶漬け状態じゃ。


 ……落ち着け、我。

 何事も第一印象が大事じゃ。初めて現実でノゾミちゃんと会うわけじゃが、ここの対応が今後の我とノゾミちゃんとの関係性の構築へ多大なる影響を与えることは火を見るより明らかじゃ。


 ……んんっ゛





「きょきょきょ今日はよよおおおろしくお願いしマス!!」


 90度腰を折ってした挨拶がこれだよ……


 え?あ? 第一印象? 

 彼は遠い旅にでたよ……


「ニーナちゃんってば緊張しすぎだよ~! ふふっ。今日はよろしくね!」


 緊張しまくりの噛みまくりの挨拶をして、顔を上げれば、そこにはこの世の「善」と「かわいい」を詰め込んだように微笑み、我を気遣ってくれる聖母ノゾミちゃんの姿。

 ああ、ここが天国ですか? え?違う? じゃあノゾミちゃんは現人神あらひとがみかなにかかな?


「なんだかんだ、ニーナちゃんとこうしてお話するのは初めてだね~! ニーナちゃんってばイラストそのまんまみたいにカワイイ!」


「か、かかっかかカワイイなんてそそそれほどでもないでございますのですのじゃ」


 ノゾミちゃんにかかかカワイイと褒められたぞ!

 おいおいおい、今日の我大丈夫か? 帰り道で交通事故にでも遭うんじゃないか?


 というよりカワイイのはノゾミちゃんなのじゃ。

 ノゾミちゃんこそイラストと遜色ないくらい、というかそれ以上にカワイイのじゃよ。低身長の我より少し背が高くて、お目々パッチリ、肌はきめ細やか。サラサラの髪に思わず指でツンとしたくなる柔らかそうな頬。

 おいおいおい、神は、こんなところに至宝を落としてしまったようじゃな!


 はぁ~…、好き。


 うーむ、というかマジで天は二物を与えずとかまっぴら嘘じゃね。間違いない。

 これほどまでにカワイイのに、ASMRでおなじみのあま~い神ボイスも合わさりまさに最強。ニコニコと人懐っこそうな表情にグッと来る男子諸君は多そうだ。


「お二人とも、そろそろ時間ですのでレッスンの方始めてもよろしいですかー?」


「あ、はーい!

 じゃあ、ニーナちゃん。今日はよろしくね! 一緒に頑張ろう!」


「ひゃ、ひゃい!」


 うぇっへっへへ。

 ノゾミちゃんまじかわいいなぁ。はぁはぁ。ノゾミちゃんはマジprpr。


 あれ? ていうか、我、意外とノゾミちゃんといい感じで話せていないか?

 具体的に言えば100点満点中、300点くらいのコミュニケーションできてるな?


 我、成長したな――



 自分の成長具合と、今日この日を迎えられたことに感謝しつつ、トレーナーさんのところへ向かう。


 今日のレッスンは、本番でやるノゾミちゃんとのデュエット曲の練習だ。

 特に振り付けの細部を詰めつつ練習するのが今日の目標だ。ある程度振り付けは決まっているが、我やノゾミちゃんらしい振り付けをもうちょっと増やしたものにしたいとのことらしい。


 なので、一回通しで練習してみる。

 ノゾミちゃんとやる曲はカッコカワイイ曲調で、少しテンポがはやいが、振り付け含め、デュエットの資料は事前にもらっていたし、ある程度予習もしてあるから大丈夫だ。



「うーん、ここってさ、あんまり動きないよね~。ニーナちゃん、二人でなんかここにポーズ入れない?」


 ノゾミちゃんが事前の配布資料に指を指しながら提案する。


「ぽ、ポーズなのじゃ?」


「そうそう! たとえば…… トーテムポールとか!」


「と、トーテムポールな、なのじゃ?」


「ニーナちゃん! トーテムポールっぽいポーズお願い! 3・2・1・キュー!」


「え、え、え、こ、こうなのじゃ?!」


 突然のノゾミちゃんからのフリに、とりあえず頭にパッと浮かんだ鳥のトーテムポールをイメージして、両手を広げて立ってみる。

 ……トーテムポールというより「T」の字みたいじゃな…


「いいね! じゃあ、私はここだね!」


 ノゾミちゃんは満足そうにうんうんとうなずくと、Tの字で立っている我の前に座って、我と同じように両手を広げる。


「うん、完璧っ!」


 ノゾミちゃん的には完璧らしい。


 ノゾミちゃんってば、結構配信でも天然なところがあるからのぅ。

 ま、そこがカワイイんじゃけどな!


 謎ポーズをしつつ、大層満足そうな顔をしているノゾミちゃん、ギザかわゆす!


「うーん、あとはそうだなぁ~……」


 配布資料を手に、ノゾミちゃんは他にアレンジできそうなところをうーんと唸りながら探してる。

 その眼差しは真剣そのもの。


 配信と変わらない、ふわふわとした雰囲気も似合うノゾミちゃんだが、真剣に取り組むその姿は、「かっこいい」という言葉がまさにふさわしい。自然なギャップ萌えに思わず惚れる。


 ――っと、我もいつまでもミーハーな気構えでやっていてはいかんな。今一度シャキッとせんとな。


 ノゾミちゃんのキュートさに浮足立っていたが、今一度気を引き締め直した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る