30配信目 オフコラボ前哨戦 ―エンカウント―
多目的ルームの扉をカチャリと開ける真根さんの後ろに付いて、我も部屋の中に入っていく。
「あら?」
「お?」
そこには既に二人の女性が居た。
部屋に入った我に気が付き、二人ともこちらを振り向く。
一人は少し明るめのブラウンのロングヘアの女性で、ニコニコとしていて、タレ目が特徴的。
透明感のある肌に、色っぽい唇。それと、まあ、大きなお胸。出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。そんなスタイル。一言で表せば大人なお姉さんな感じじゃな。
背も我より高い。というより、我が身長149センチじゃから、たいていの場合皆のほうが背が高いんじゃけどね。目測で165センチ前後くらいじゃろうか?
もうひとりは先程の女性よりも少し暗めのブラウンのショートカットヘア。
背は…… 170以上はある気がする。150もない我からすると結構背が高く感じる。
我の方を向いてニッ、と爽やか?に笑う。なんだかスポーツが得意そうな感じの活発な女性という印象。
「レイさん、リリィさん。ニーナさんが見えました!」
「ど、どうも……」
部屋に入っていく真根さんの後ろに付いて行って、一応挨拶する。まあ、目線はすぐにそらしてしまったけれど。いや、これは仕方ないんじゃて。ある種の生存本能とでも言うべきものなのじゃ。
「あらあら~、やっぱりニーナちゃんだったのね~。チャットではやり取りしていたけれど、こうして会うのは初めてね。勇者レイ・ブレイブよ~」
大人な女性―― レイがこちらにとことこ歩いてきて、挨拶をしてきたので一応挨拶を返そう。うん、会話はキャッチボールじゃ。もらったら返さねばなるまい。……真根さんの影に隠れながら。
「魔王の、ニーナ・ナナウルム…… です。本名は――」
「あぁー! ニーナさんストーーップ!!」
びっくりした!
何ぞ?! 急に真根さんの待ったがかかった。
「ニーナさん、ライバーと話すときは基本的に、相手のことはライバーの名前で読んでください」
「え?」
「配信中にポロッと本名を言ってしまって身バレ、という事態を防ぐためです。
特に今回はニーナさんにとって初めてのコラボですので、万全を期すために、レイさんとリリィさんの本名は知らずに配信をお願いしたいです。後々慣れてきたら本名を教え合うことは別に禁止しませんので、今日はとりあえずそういった感じでお願いできないですか?」
「わ、分かりました」
なるほど確かに配信中に相手の本名を口走ってしまうことは想定されるか。……そういえば、数年前にキラキライブではない別のハコでそういった事件が起こったような気がする。業界全体的にここらへんのことが敏感になっているのかもしれんな。
特に我、頭の中は割と冷静だけど、同時に、めっちゃ緊張してガクブル状態でもあるから危険じゃな。
ナイスストップ、真根さん。
「ぇと、じゃあ、改めて、魔王の、ニーナ・ナナウルムです。よろしく、です」
「こちらこそよろしくね~。
ふふっ。何だかこんな事言うのは失礼かもしれないけれど、真根さんの後ろに隠れているの、お母さんの後ろに隠れる子どもみたいでほっこりするわ」
「我、一応、お酒飲める大人だぞ。……です」
「ごめんなさい、私、思ったことすぐに口に出してしまうの。ふふっ、そう拗ねないで~」
我のことを完全に子供扱いしておるな。
たしかに今世の我は完全にロリっ子じゃが、今に見ておれよ? 前世のダイナマイトボディの我みたく、今世でもボン・キュッ・ボン!な感じになるからの! すぐに我が貴様を子ども扱いしてやろうぞ!
……とは言っても、望み薄なんじゃよね…… 中学からまったく身長伸びておらんし。やっぱりあの時使った魔法があかんかった気がする。
「で、私が天使のリリィだぜ。
……ったはー↑ 何だか、自分が天使って紹介するの恥ずいな!
にしてもアレだな。レイが言うように、ニーナって
「……我大人」
で、もうひとりがリリィか。
リリィは現実でも変わらず男勝りな性格っぽいのじゃな。
にしても二人して我のこと小さい小さい言うが、我、れっきとした大人ぞ? なんなら前世合わせたら千年以上生きてるぞ?
「わぁーってるって。でも、それはニーナの武器だぜ? 私はもとより、世の中のお兄様・お姉様を
あ、そうそう。こうして初めて会ったわけだが、チャットのときと喋り方変える気は私あんまないから、ニーナもタメ口でいいぜ! じゃ、そゆことで今日はよろしくな!」
そう言って、すっと右手を差し出して来るリリィ。
……これは握手を求めているのだろうか
え? マジ?
出会って1分で握手とかコミュ力高すぎない? ――こやつ、さては陽キャだなッ?!
……え、やっぱコレって握手するんだよね? もうちょっとステップ踏まなくて大丈夫?
「ったぁー! なに照れてんだよ!」
「うぇ、えぁ」
「ほら、はい! にぎにぎ。じゃ、よろしくな!」
「ょ、よろしく……」
我が脳内でそんなことを考えていると、しびれを切らしたリリィが我の右手を強引に引っ張って強制的に握手をした。
いや、え、うん? お?
もしかしてお主、コミュ力のステータスカンストしてるな?
いきなりのことで、恥ずかしさや照れで頭からプシューって煙がでてる気持ちじゃ…… っと、いかんいかん。しっかりせい、我。今日のために、我だってレベ上げしてコミュ力のステータス上げて来たんじゃから。
それに、リリィはきっと、我がコミュ障だから自分からアクションしてくれたんじゃ。ちょっと強引ではあったが。
うむ。そう思うとなんともありがたい話じゃ。
よし、我も今一度、活を入れて頑張ろうかの。
――と思っていたのじゃが、握手した後のリリィの方を見ると、自分の右手を見て何やらニヤニヤしている。……変態さんですか?
「はい、じゃぁ皆さんのファーストインプレッションは上々でアゲアゲって感じですね! ささ、立ち話もなんですし、座って話しましょう!」
真根さんの言う『ファーストインプレッションが上々でアゲアゲ』というのはよくわからないが、真根さんに付いて部屋の中央にあるダイニングテーブルの席につく。
「さっきレイさんたちには軽く話しましたが、ニーナさんも来たので改めて詳しく説明しますね。
この多目的ルームはオフコラボで使うことをもともと想定している部屋の一つになります。なので、見ての通り、キッチンとか冷蔵庫、机に、椅子。様々備え付けられています」
真根さんが人差し指を立て、得意気に説明する。
レイとリリィのインパクトがすごすぎて最初はあまり気にしていなかったのだが、よくよく見てみると、この部屋は『普通』の部屋だ。企業が持つ会議室のような場所ではなく、一般家庭の普通の部屋。
リビング、ダイニング、キッチンがひとつになった、少し大きめのきれいな部屋だ。少し違うのは、配信用のパソコンが何台か設置されている点だろうか。
「で、今日は記念すべき4期生の初オフコラボなので、存分にリスナーに味わってほしいと考えています! よって、配信が始まったら、ここの部屋には3人だけです。スタッフという
あ、もちろん何かあるといけないので、私はすぐ隣の部屋に待機して配信をみています。
すぐに私を呼び出せるワンタッチの助っ人ボタンも一応預けておきますね。はい、ニーナさん」
「ぇ、はい。ども……」
「それを押すとBluetoothで信号が飛んで、私のスマホに通知がきます! 私も配信を見ているので、配信を介して私を呼んでも大丈夫ですが、リスナーにバレずに呼びたいときとかに使ってください」
真根さんから渡されたのは、手のひらサイズの小さなボタン。四角い銀色の土台に、赤い円形のボタンが取り付けられたモノで、なんていうか、『ポチッとな!』って押す感じのボタン。
一応赤いボタンに『お助け!』って白字で書いてあるけど、大丈夫これ? 爆発しないか心配なんじゃけど?
「さ、配信時間も迫ってきていますので機材のセッティングの最終確認しますけど、その前に質問とかあります?」
「……あ、ぁの~?」
「はい、ニーナさん! どぞ!」
「冷蔵庫の、近くにおいてある、クーラーボックスは…… なんですか? あの、その…… 何だか生命的なエネルギー感じるんですけど……」
我が消え入りそうな声で真根さんに聞いてみると、真根さんは待ってましたと言わんばかりのドヤ顔で答えてくれた。
「ふっふっふー。さすがはニーナさんです! アレには
「え」
「心配ご無用です! リリィさんは料理の腕がプロ級なので、タコを
「おう、私に任せとけ! ちなみに、生きたタコを提案したのは私だぜ」
「え」
――え?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます