26配信目 5年で人はあまりにも変わる

「改めて久しぶり、まーちゃん!」

「は、はい…… どうも……」


 何が何だかよく分からぬまま、我は『暫定ちーちゃん』を家の中に招き入れた。


 ふわっとしていて柔らかそうな、プラチナブロンド色のウルフボブの髪。

 涙袋をぷっくりとさせたメイクに目を引かれるが、ソレ以外は薄めのメイク。いわゆる一部だけを強くメイクする『引き算メイク』というやつじゃろう。元の顔がいいからこそより引き立つナチュラル寄りのメイク。

 片耳だけイヤリングをしておるし、ネイルもバッチリキメておる。


 うーむ、改めて見ると、完全にギャルじゃ。もう、これは紛れもなくギャルなのじゃ。少し前のギャルではなく、今どき・・・のギャルといった感じじゃの。


 ……本当にちーちゃん?

 いや、たしかにドアカメラのモニター越しじゃなくて、実際に肉眼で見るとこやつの顔はちーちゃんの顔なのじゃが…… ちーちゃんの従姉妹と言われたほうがまだ納得できるんじゃが……


「ふふっ、そんなふうにチラチラ見なくてもいいのよ? ガッツリ見ればいいじゃない?」

「ん、いや、その…… 本当にちーちゃんですか?」


「ちゃんと本物のちーちゃんよ。忘れちゃったの? ご飯とかよく作ってあげたじゃん」

「それはそうじゃけど……」


 たしかにちーちゃんにはよくご飯を作ってもらった。

 我の両親が亡くなってからじゃろうか。それより前にもましてちーちゃんは我の家に頻繁に来るようになった。あのときは掃除や洗濯料理なんかをやりに頻繁に来てくれたのぅ。

 我が自分でやるから大丈夫じゃと言っても“まーちゃんカップ麺ばかりだから駄目”とか言われたな。


 うん、そういう思い出は確かにあるのじゃけど、まじで変わり過ぎなんじゃよ。記憶のちーちゃんと外見全然違うじゃん?

 前髪で顔が隠れててメガネを掛けてザ・文学少女。あの頃のちーちゃんは何処へ行ったのじゃ……


「なんで、ギャルになっておるのじゃ?」


「イメチェンよ。イ・メ・チェ・ン。

 高校卒業するときに、大学進学で一人暮らしになるし、大学デビューで吹っ切れようと思ったの。あと、魔ナニカ魔法少女ナナニカ・ニカナに出てくるニカナの相棒もこんな感じの明るい子だったでしょ? その子目指したの」


「そ、そうか。メールでやり取りしてても全然分からんかった……」



 ちーちゃんは“ふふん”と得意気だ。


 実はちーちゃんと高校卒業後もメールでやり取りをしている。

 月1くらいのゆるーいやり取りじゃが、我にとってなんとも心が休まる関係じゃ。


 で、メールでは全然ちーちゃん変わってないのじゃよ。


 なんていうか、大和撫子やまとなでしこしかりというような『たおやか』『おしとやか』の擬人化みたいな感じなんじゃ。めちゃくちゃ綺麗な日本語でメールをくれるもんじゃからギャルになるとは全く思っておらんかったぞ。


「そ、そういえば最近忙しいとかメールで言っておったが、きょ、今日は大丈夫なのか?」

「もちろん、大丈夫だわ。ライバーにも慣れてきたし、まーちゃんのために今日一日空けてきたんだから! それに、これからはもっといっぱい会えるわ!」

「な、なるほど……?」


 終始頭に疑問符が浮かびながらも、なんとか状況が飲み込めてきた気がする。

 うん、とりあえずまあ、ちーちゃんがギャルになったことは理解できた。よくわからんが我のために今日一日空けてきてくれたというのも理解した。


 そんなふうに我がちーちゃんとのやり取りに四苦八苦していると、我の隣りで六花と天花が“シャー…”と低い警戒音をだしてちーちゃんを威嚇していた。


「六花、天花。そう警戒せんでもよい。こやつは我の旧友じゃ」


 我の両サイドでちーちゃんに警戒している六花と天花に言う。

 いきなり見知らぬギャルが来てびっくりしておるのじゃろう。2匹とも我のことを心配して両サイドでいつでもちーちゃんに攻撃できるように構えておる。


 我が警戒を解くように言うとひとまず2匹とも構えを解いた。


「ふふ、可愛い騎士ナイトさんたちね。お茶が入ったコップを倒しちゃうお茶目さんとは思えないくらい頼りがいがありそうね。

 ……それよりまーちゃん、何でさっきから私の目を見て話してくれないの?」


 ちーちゃんが少しうつむき気味の我の顔を覗き込むように下から目を合わせに来る。我は目を流すことでソレをしれーっと回避する。


 うぐぅ…… ソレを聞かれるか。いやまあ気になるよね。


「い、いや、ソレはのぅ……

 ……か、隠してても仕方がないのう。我、実はちょーーーーっとだけコミュ障気味でな」


「やっぱりね。うーん…… 私でもそうなんだ」


「……ははっ、情けないじゃろう? メールでは変わらず威勢のいい我がこんなんになって。……嫌いになったかもしれんな?」


 ちーちゃんの前ではなるべくあの頃のままの強いまーちゃんでいたかったのじゃがな。こんな『まーちゃん』に幻滅しても致し方ないじゃろう。


 するとちーちゃんは我の頭を両手でそっとつつみ、ギューっと我を抱き寄せる。


「なっ! なに…んぐぅ!?」


「私がそんなことでまーちゃんを嫌いになるわけ無いじゃない――。

 神様も、ヒーローも。誰も救ってくれなかった私を、突然現れた『魔王』が助けてくれたのよ?」


 春の日差しのような、柔らかい声でちーちゃんが語りかける。

 よしよしと、我の頭を撫で、そっと髪に触れる。


 ――まったく、こやつは……


 しかし、今は少しだけちーちゃんの甘い優しさに身を委ねるとしよう。


「というより、ちょっとコミュ障のまーちゃんむしろ可愛いわ! そんな上目遣いで見られると守ってあげたくなっちゃう!」


 ちーちゃんは我をもっとギューッとする。


 ば、バカもの!?

 や、やめろ、苦しい……! い、息が…!


「や…めんか…! く、くるじぃ」


「あ、ごめんねまーちゃん」


 ジタバタ抵抗してやっと開放された。

 こやつの胸についたたわわな果実のせいで危うく窒息するところじゃぞ!?


「なんじゃ!お主、自分の胸が大きいアピールしたいのか?! まったく……!

 ……というより、なんか高校のときより胸大きくないか?」


「うーん、どうなのかしら? 多少は大きくなったのかな?」


「今何カップじゃ」


「この前測ったときはEカップだったかしら?」


 ふーん…… そうなんだ~……


 我の胸を見てみる。

 自分で自分の胸元を見ても、普通に床が見えるし、つま先見るのも余裕。


 あれ、おかしいな? 見えてないだけかな?

 我の胸は透過性質があるだけで本当はたわたな果実がついているのでは?と思って自分の手で抑えてみても、やはりそこにはシンデレラサイズの胸しかないわけで。


「……チッ」


「やーん! 胸の大きさ気にしてるまーちゃんも可愛い!!!」


 むぐゅぅ…!?

 またもやギューッと抱き寄せられた! ぐるじい!


「やめんか! なんじゃ!? そんなに我に心理的ダメージ与えたいのか!??! まったく……

 ……それで? 今日は突然来てどうしたのじゃ? 胸の大きさ自慢のために来たのなら容赦せんぞ」


「あ! そうだった忘れるところだったのだわ。

 今日来た目的はズバリ! まーちゃんのオフコラボ成功大・作・戦!」


 ……ん?

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