27配信目 オフコラボ成功大作戦
「今日来た目的はズバリ! まーちゃんのオフコラボ成功 大・作・戦!」
「……オフコラボ成功大作戦?」
まるで昔の匂い漂うTV企画のようにフリップでも持ち出さん勢いのちーちゃんに首をかしげる。
なんじゃそれ? もうちょっとまともなネーミングできんかったのか。
まあ確かに、目前に迫った我のオフコラボが成功するよう頑張る作戦、というのは字面から分かりやすいの。ただな、名前が少々古臭くてナウいヤングの我にはちと合わんというか……
……って、そんなの気にすることじゃないわ!
なぜちーちゃんが我のオフコラボの件を知っているのじゃ!? というかそもそも、我がVtuberになったことはまだちーちゃんには伝えてないぞ!?
「そう! まーちゃんのオフコラボが成功するように頑張る大作戦を決行するのだわ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれちーちゃん! その前に、なぜお主がオフコラボの件を知っておるのじゃ!?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたわ。まーちゃんって、Vtuberのニーナ・ナナウルムでしょう?」
にししと、したり顔で言うちーちゃん。
こやつ、我の正体を一瞬で看破しおった。
「な、なぜ分かったのじゃ…… いやまあ、いつかちーちゃんには言おうと思ってたけど…」
「ふふん♪ そして、なんと私もVtuberなの!
えっへんとドヤ顔でちーちゃんは言う。
……? ちーちゃんもVtuberなの? へぁ?マジ?
ん? しかも近野千香って……え? 我と同じキラキライブ?
近野千香。
キラキライブ3期生、高校2年生という設定のギャル属性ライバーじゃ。歴史が好きのいわゆる歴女で、また時折出る頭の良さそうな発言など、遊んでそうなギャルっぽい見た目とのギャップが人気だ。
我もときどき近野千香の配信を見ておるが、え、マジ……?
……今にして思えば、たしかに声質は似てる気がするし、ちーちゃんも近野千香も歴史好きじゃな… 頭もいいし……
「おっと、少し待ってくれ。今、我の脳に搭載しておる最新世代CPUが使用率100%近いのじゃ……」
まてまて。
少し状況を整理しよう。
我はもちろんキラキライブ4期生のVtuberニーナ・ナナウルムじゃ。で、我がニーナ・ナナウルムであることがちーちゃんにバレている。
そもそも、ちーちゃんにはいつか話そうと思ってたし、まあこれは別にいい。たまたま我の配信を見て気がつく、なんてこともあるじゃろう。我はもともとの性格のままニーナをやっていて、キャラを作っていることもないから、気づくことも低確率だが、まあなくはない。
しかし、しかしじゃ。
ちーちゃんも知らぬ間にVtuberになっていた、と。
しかもただVtuberになっただけじゃなくて、我と同じキラキライブに所属し、我の1つ先輩にあたる3期生の近野千香である、と。
……こんな偶然あるぅ?
「ライバー活動にも慣れて色々落ち着いてきたから、今日の来訪はまーちゃんへの報告も兼ねるの」
「こんなことってあるんじゃなぁ……」
「大学進学で遠方に行くことになって離れ離れになっちゃったけれど、こうしてまた会うことができた。しかもVtuberとして同じ場所で二人が出会う……! なんて運命的なのかしら! やっぱりまーちゃんとは赤い糸で結ばれているのね……!」
混乱している我をよそ目に、ちーちゃんはなにやら興奮して悦に浸っている。
「我がニーナ・ナナウルムだといつ頃から気づいておったんじゃ? キラキライブのスタッフにでも聞いたのか?」
「ううん、そうじゃないわ。実際に聞いてみたわけじゃないけど、流石にいくら同じライバーだからってスタッフの人もおいそれと個人情報を渡さないわ。
ただ単純に、私が一人で気がついたの」
ちーちゃんは顎に手を当てて考え始める。
「えっと、最初は後輩3人のプロフィール画像見てたらこの魔王様まーちゃんっぽいなぁって、気になって初配信から見てたわ。
何回も配信見てるとやっぱりまーちゃんに似てるって改めて思ったわ。声も、喋り方も、息遣いも、雰囲気も、間のとり方も。まあただ、高校のときのまーちゃんとは少し違う感じもしたし、1億3千万人もいる日本人の中でまーちゃんと似てる人が居てもおかしくないし、最近まで違う可能性も考慮してたわ。
でもこの前の配信で私とまーちゃんとの逢瀬に関連した話がちょろっと出た辺りでやっぱりまーちゃんだ!って100%の確信に近づいたって感じかな」
たしかに最初の頃は我の身の上話なぞほとんどしておらんかったが、そうか、声とか喋り癖とかでなんとなく分かってたのか。
もしかしたらちーちゃんだけじゃなくて、かつてのクラスメイトの何人かにバレてる可能性もあるのかも、じゃな。
「で、さっそく本題に入るわ!
まーちゃん、近々レイさんとリリィさんの2人とオフコラボやるんでしょ?」
「う、うむ」
「でも、コミュ障患ったから上手くできるか不安なんでしょ?」
「う、うん……」
「私はコミュ障克服を一生懸命に頑張るまーちゃんの手助けがしたいと思って、居てもたっても居られず、こんなのを準備してきました!
というわけで、はい、コレ!」
ドンッ!っとちーちゃんがかばんの中から取り出したのは紙の束。
図などが入りつつも、びっしりと文字が書かれたA4の紙が何枚もある。
「これは……?」
「私がまーちゃんのために独自で調べ上げた、勇者と天使の情報をまとめたものよ! 『敵を知り己を知れば百戦危うからず』。兵法で有名な孫子の一節!
戦いに勝とうと思うならば、まずは相手を研究して知る。そして、知った上で、自分の得意・不得意を知り、フォローする。これこそ、オフコラボ成功大・作・戦、なのだわ!!!」
「な、なるほど……」
たしかに、戦いにおいて情報というものは極めて重要じゃ。
先代魔王が情報部局を強化して戦況を大きく変えた話はセバスから耳にたこができるくらい聞かされた。
戦いにおいて、純粋な戦闘力もさることながら、情報も大事、コレに異論は我もない。
なるほど、この理論を今度のオフコラボにも活かそうというわけか。
「コミュ障と一口に言っても様々なコミュ障があるわ。まーちゃんの全配信をかかさずチェックしている私が思うに、ある程度相手のことを知っていて、
たとえば、ここ! 勇者は犬を2匹飼っていて、天使は猫を1匹飼っているわ! つまり、まーちゃん含め、3人には『動物を飼っている』という共通点がある! 会話デッキとしてコレほど優秀なものはないわ!」
「……!」
我はハッとした。
これぞ天啓!
そも、オフコラボの成功とはなにか。
今回のオフコラボの成功判定はシンプルじゃ。楽しくオフコラボができたか。もっと言い換えれば、楽しくお話し、遊ぶことができたか。
つまり、会話が重要だ。
その点において、会話で使う話題、すなわち『会話デッキ』を用意しておくというのは有用だ。
ちーちゃんに言われるまで全然考えが及ばなかった!
あまりに弱気になって、我はただ漠然と『楽しくおしゃべりしようと』しか考えていなかったのだ。何たる不覚か。
もしこのまま当日を迎えていたら、我は『天気デッキ』というただ1枚のぺらぺらカードで勇者と天使に挑まねばならなかった。そんなの魔王にひのきの棒で立ち向かうアホと一緒じゃ。
ちーちゃんの言うように、相手のことを知り、共通の話題があれば楽しくおしゃべりができる! ……はず!
なにせ我は前世も今世も魔王じゃ!
そう! 今でこそすこーーしコミュ障だが、かつてはブイブイ言わせていた魔王なのじゃ!
「ちーちゃん、ありがとう……! 我は暗雲立ち込める茨の道に、今、一筋の光を見た!」
「まーちゃん! 今日はまだまだ長いわ! 一緒に敵勢力の研究しましょう!」
「ああ――!」
さあ、頑張るぞ――。
我はようやく登り始めたばかりじゃからな……!
この果てしなく遠い魔王坂を!
我らの戦いはこれからじゃ!!
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