25配信目 誰じゃお主

【悲報】ニーナ・ナナウルム氏、オフコラボまで一週間を切ってしまう。


 我の脳内には某5ちゃんねるのようなタイトルが浮かぶ。


 うん、やばい。

 とってもやばいのじゃ。


 どうやばいかって? そうじゃな…… すごくやばいのじゃ。


「あぁ^~ こんなんじゃいかんのは分かっておるのじゃがのぅ~。六花に天花よ、我はどうしたら良いのかのぅ?」


 ソファでゴロゴロしながら、六花と天花に話しかける。


 あいも変わらず、小奴らはかわいいの~。

 近くに寄ってきた2匹をわしゃわしゃ~っと撫でまわす。


「ニャー」

「ニャッ」


「そりゃ楽しく遊ぶだけでいいというのは分かるのじゃけど~。それができたら苦労しニャいのじゃ~」


 分かる。分かるよ。

 六花と天花が言いたいことはよーく分かる。

 オフコラボと言っても何も特別なことをする必要はない。勇者レイ・ブレイブと天使リリィの両名と楽しくお話をするだけで良い。そりゃー分かっておる。


 でも無理そうなのじゃ~……。


 2週間前、ノリで二人とオフコラボをすることに決めてしまった。

 あの時は行ける気がしたんじゃ。なんて言うのかのう、アイワナをクリアしたものだけが味わうことのできる万能感とでも言おうか。


 で、まあ若干不安になりつつも、オフコラボまで2週間もあるし大丈夫大丈夫と思っていたら知らぬ間に1週間経っていたんじゃ。


 あれ、もしかして我、時間跳躍タイムリープしてる……?


 なんて現実逃避をしてみても現実は非情なわけで、オフコラボまであと1週間の事実は変わらない。


 いや、我も流石にまずいと思って準備してるんじゃよ?

 一昨日amazonesで注文した『コミュ力ゼロのクソ雑魚根暗ヒキニートでも分かる! コミュ障脱却100の方法!』という本は手元に届いておるしな。まあまだ半分くらいしか読んでおらぬが。


 ぶっちゃけね、1週間も経って、我冷静になってきたんじゃよね。

 あれ?オフコラボでまともに話せる未来が見えぬな、ってね。


 そも、まだ一度もリアルで会ったことがない女子おなご二人といきなりオフで遊ぶって無謀じゃね? コミュ力普通の人でも結構きつくない? なんで1週間前の我はそんな約束したの?(静かなる怒り) アフォなの? 死ぬの?


 もちろん、オフコラボは投げ出したくない。

 約束をたがえるなんてことはしたくないし、我とのコラボを待ってくれておるリスナーやあの2人にもむくいたい。


「やばいのよな~」


 ソファに仰向けに寝転びながら天花を手で抱っこして天に掲げる。

 にゃーにゃー鳴いてカワイイのじゃが、我の心は晴れぬ。


 うーむ、どうしようか。

 いざとなったら最終奥義もあるのじゃが……


 とりあえず六花が自分も抱っこしろと我の身体をよじ登ってくるので姉妹まとめて高い高いする。


 “ピンポーン”


「んぁ? なんじゃ?」


 高い高いしていると、玄関の方から訪問を知らせる音が鳴った。

 誰かウチに来たようだ。珍しい。


 amazonesの注文なら玄関前にいくつも設置してある宅配ボックスに入れてくれるし、まあ大方なにかの営業の人か、もしくは宗教の勧誘じゃろう。一応玄関のドアカメラを確認してそれっぽかったら居留守してスルーしよ。


 六花と天花を床にそっとおろし、玄関近くに設置してあるドアカメラのモニターを見る。


「……誰ぞ?」


 モニターに映っていたのは、想像していたどれとも違った。

 プラチナブロンドの髪に、メイクでバッチリ目元を強調した若い女性。簡単に言ってしまえば、いわゆるギャルがそこにいた。


 うーむ…… こんなタイプの訪問者は初めてじゃ。

 なにかの営業、ではなさそうだし、宗教の勧誘…… でもないかのぅ? あーいや、美人局つつもたせ的な何かサムシング


『うーん、居ない……? せっかく会いに来たのに…… サプライズは良くなかったかなぁ……』


 モニターのスピーカーからギャルの声が聞こえてくる。


 うーむ、こやつ間違えて我の家に来たのか?


 当然我にはこんなイケイケギャルの知り合いなんぞ居ないし、そもそも知り合いそんなに居ないし……


 もしかしてアレか? ここらへんに住む友達の家に初めて遊びに来たはいいけれど、友達の家の外観を詳しく聞いてなくてそれっぽい家でとりまインターホン鳴らしてみた、的な?

 ……ありうるのぅ。こんなイケイケな感じなんじゃ。そんな感じでテキトーに間違えて我の家に来てしまった説はある。


 うーむ、映像のギャルは表札の位置をちらりと確認しておるし、もしかしたら此奴の友達が我と同じ苗字かもしれんな。

 ……しかし、この辺りで我と同じ苗字のやつなんていたかのぅ?

 まあ引きこもりしてるから最近引っ越してきた者とか知らんし、同じ苗字のご近所さんがいるやもしれんな。


 ほれ、気がつけ。

 ここはお主の友達の家ではないぞ。



 ……少し待ってみたが間違えに気がつく素振りはないのう……


 可哀想じゃし、ドアホンに出てみるか……?

 ……そうじゃな、ここで臆していてはいかん。これもオフコラボの練習の一環と考えれば良い。うん、出てみるぞ。よし、出るぞ。ほら、出るぞ我。


 んん゛。


 意を決して、我はモニター付きドアホンの通話ボタンを押した。


「ぁ、あのぅ~…… たぶん、家、間違えて、ます。よぉ~……」


 うっそじゃろ?! なんでこんな震え声なん?!

 1週間後オフコラボのやつの第一声がこれとかマジ?! やばい。余計オフコラボ不安なんじゃけど?!?!


『あ! よかった居た! 久しぶり!!!』


 我が自分の震え声に驚いていると、モニターの中のギャルがパァッと弾けるような笑顔になった。

 え? いや、久しぶりっていうか、たぶんはじめましてこんにちはじゃけど。


「ぇ、と、たぶん人違い、です……」

『ううん! 人違いなんかじゃないわ! 久しぶり、まーちゃん!!』


 ん? まーちゃん?

 え、まーちゃんと我を呼ぶやつなんて限られておるが…… ぱっと浮かぶのはちーちゃんじゃが、ちーちゃんでは絶対ないしな…… アヤツは眼鏡かけた、ザ・文学少女じゃし……


『ほら、私だって! ちーちゃん! 貴女の大親友、ちーちゃん!

 ……んもう、疑り深い! ほら、これ見て!』



 ギャルが取り出したのは、一冊の本。

 魔法少女ナナニカ・ニカナ4巻初回限定特典のブックカバーをまとっている本だ。ちなみに、このブックカバーは現存数が少なく、ファンの間でプレミアがついているモノ。まあもちろん我は持っておるが。


 え? ていうかソレ持っておるって……


 マ?

 え? ちーちゃん? マジでこのギャルがちーちゃんなの……?


「マジでちーちゃん…なのじゃ……?」


『そう言ってるでしょ。まったく、まーちゃんってば疑りすぎなのだわ…… ふふっ』


 やっと信じてくれたのが嬉しいのか、ギャル―― 暫定ざんていちーちゃんは嬉しそうに微笑んだ。


『とりあえず、中に入れてほしいわ』

「りょ、了解なのじゃ? ?????? 今カギ開けるのじゃ?」


 我は自分でもよく分からぬまま、暫定ちーちゃんを家に招き入れた――。

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