24配信目 わたしのまおうさま
「――随分と楽しそうじゃのぅ。何をしておるのか、我にも詳しく教えて欲しいものじゃ」
フェンスの上に座りながら、転校生はこちらをその真紅の瞳で見下ろしていた。
まるでアニメのワンシーンのような登場に私は脳みそが一瞬フリーズしたし、どうやら私のことをイジメている女子たちもフリーズしている。
意味が分からない。
いつからそこに居たのだろうか。全然気が付かなかった。
「……よっと。
これ、何を
転校生はフェンスから軽々飛び降りると、私をイジメているリーダー格の女子に、何も臆することなく言い放つ。
怖いもの知らずなのかこの転校生は。
リーダー格の女子は取り巻きの2人と目配せをしてどうしようか悩んで口を開いた。
「あー…… ■■ちゃん。別に、4人で仲良くお話してただけだよ。
……なぁ?」
なぁ?と言いながら、私をギロリと見てリーダー格が相槌を求めてきた。
もし、私がここで『違う』『喝上げされてる』なんて言おうものなら、このイジメっ子達は
いや、私へのイジメだけならまだいいけれど、この転校生へのイジメに繋がるかもしれない。
転校生が先生にこのことをチクったら、私に加え、転校生までイジメの標的になる。ただでさえこの転校生は目立っているんだ。
……苦しむのなんて、私一人だけでいい。
どうせ先生にチクったところで何も変わらないし、先生にばれないように、イジメはより陰湿なものになるに決まってる。
だから、ここでの答えは一つだ。
「……うん。話してただけだよ」
私の口から出た言葉はあまりにも弱々しかった。泣きそうだ。我ながら情けない。
けれど、これでいい。
助けを求める必要はない。耐えてればいいんだ。
「……そうか。――本当にそうなのじゃな?」
転校生は目をすうっと細めてリーダー格を見る。
こころなしか声も低く、ドスが利いている気がした。
「ほんとほんと。ほら■■ちゃん、下校時間なんだから、お家に帰らないと駄目でしょー」
「そうそう、いい子は帰る時間なんだから」
リーダー格とその取り巻きはけらけら笑い転校生を帰そうとする。
今ここで帰れば何もしない、ここでのことは忘れろ、そう言いたげだ。
そんなイジメっ子達を
「はぁ…… なんて
「は?」
リーダー格は明らかに不機嫌な声で返した。
「陳腐な嘘じゃと言っておる」
「……なにそれ。こいつだってお話してただけって言ってるじゃん。それとも何? 証拠でもあんの? ちょっとカワイイからって調子乗ってない?」
「『5千でいいからさ』『ねえほら早く出してよ』『ウチらも暇じゃないからさー』
こんなことを言っておったのう?」
転校生はまるでミュージカルで歌う俳優のように、得意気に言う。
それは紛れもなく、先程イジメっ子たちが私に対して言っていた言葉。
ニヤリと笑いイジメっ子たちを挑発した。
「ッ! ……盗み聞きとか趣味悪くない?」
「さあ? お主の肩に乗った、小ぃさなおまじないが我に教えてくれたのやもしれんのう?」
ギロリと睨むイジメっ子達を全く意に介さず、転校生は自分の右肩をちょんちょんと得意気に人差し指で叩く。
どういう意味だろうか? 盗聴器でも仕掛けた? でもイジメっ子の右肩にそんな機械はついてなさそうだし、変なものもついていない。そもそもそんなモノつけようとしたらバレるだろうし。
「……で? 何? 先生にでもチクる? チクったらどうなるか分かってる? 誰を敵に回すか」
「……くくく。カハハハハハ! それは脅しのつもりか? この我に? いやぁ、ククク…… 久々に片腹が痛いのう。
別にチクるつもりなど毛頭ない。
我が要求することは簡単じゃ。『帰れ』。そして二度とこのような
「はぁ? なに言って――」
イジメっ子の言葉を遮るように、転校生は言葉をかぶせた。
鋭く、けれども慈愛をもった眼差しで。
「帰れと言っておる。
……悪いようにはせんから帰れ。貴様の境遇に同情せんわけではないが、これは駄目じゃ。
……なんじゃ? 不満か?
――これは命令じゃ。貴様らに拒否権はない。帰るのじゃ」
そのとき転校生のきれいな瞳が
本当にあの小さな転校生と同一人物なのか疑いたくなるほど、目の前の少女は威圧感が増していた。
いや、威圧感と表現するのは少し違うかもしれない。
私の語彙力では上手く言い表すことが出来ないが、オーラのようなものを感じた。
従わざるを得ない、絶対強者のオーラ。
「――ッ! チッ、いくよあんたら」
「え、おい」
「おい、置いてくなって! おいってば!」
そんなオーラに当てられたのか、リーダー格は一瞬ビクッと震えたかと思うと、そそくさ逃げ始めた。
リーダー格が逃げ帰るのと同時に、取り巻きもあたふたとついていく。
あのイジメっ子3人を撃退しちゃったよこの子……
何者なんだ。
イジメっ子3人組が帰っていくのを見届ける転校生をふと見ると、両手を腰に当てて少し寂しげに怒っていた。
「まったく…… このようなことで自己を肯定しても仕方がないじゃろうに。
ほら、文学少女。いつまでそのような情けない顔をしておる」
「……助けてくれて…… ありが…とう」
私の喉から出た言葉は震えていた。
……ははッ、らしくない。大丈夫だと思っていたが、どうやら私は相当怖がっていたらしい。
両目に浮かんだ涙を拭って、転校生を見る。
「ん。それでよい。感謝を言える偉い子じゃ」
「……でも、私を助けないほうが良かったよ…
「ターゲットとはイジメのターゲットか? そんなこと、天地がひっくり返っても有りえんわ。
……それにのぅ、我のクラスからイジメはなくなるぞ。良いか、これは予測じゃない。確固たる未来じゃ」
「貴女は強いね…… 私も貴女みたいに強かったら……」
「■■じゃ」
「え?」
「我の名じゃ。いつまでも“貴女”呼びは嫌じゃしの」
「え、ん? 魔王……?」
「魔王じゃない! ■■じゃ! まあ発音は似ておるが…… いやむしろ魔王で間違いないのじゃが… いやまあ、別に魔王呼びでもいいけど…… まあ主が呼びたいように呼べ。許す」
「じゃあ、■■ちゃん。いや… それだと普通だし、まーちゃんって呼ぶね。……魔王様。ふふっ」
先程イジメっ子3人を相手取って毅然としていたこの小さな転校生があたふたしている様子がなんだかおかしくて、思わずくすっと笑ってしまった。
あんまり笑っては失礼かと思っていると、転校生がフッと顔を近づけてきた。
突然のことで危うく転びそうになった。急に顔近づけてくるのはびっくりするよ……
転校生はその小さく華奢な手を私の顔に伸ばし、まるで娘の成長を慈しむ母のように、転校生はとてもあたたかな笑顔を私に向けた。
「やっと笑ったな。お主はいつも暗い顔をしておったが、主の顔には笑顔が似合うぞ。きれいな顔をしておるのにもったいない」
転校生の手が私の伸びた前髪をさらさらと梳く。
私は自分の顔が熱くなるのが分かった。
まるで恋する乙女のように。
いや、いやいや。
相手は同級生の女の子だし。意味分かんないし!
落ち着け私。
「それで、主の名をまだ聞いておらんかったな」
「……ハッ! んん゛ ……■■。■■■■」
「そうか、じゃあ主はちーちゃんじゃな! 主とは話が合うと思っておるのじゃ。明日のお昼ごはん、我と一緒に食べるように! これは命令じゃ」
「え?」
突然のお誘いに思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「主がブックカバーに使っておるの、アレ、魔法少女ナナニカ・ニカナの4巻初回限定特典じゃろ? 我もナナニカのファンなのじゃ」
まーちゃんは去り際にこちらを振り向いて、まるでいたずらが成功した子供のようにニシシと笑った――。
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