第17話
「式馬さん……と、泊まるところどうするんですか? 家はいれなくなっちゃいましたよ?」
「どうすっかなぁ」
自宅の枕が恋しい。ただただぐっすりと眠りたいだけなのに。
「わ、我の家なら止めてやらんこともないこともないぞ!」
「まだ捕まりたくねえ」
式馬は携帯を開くと、有道に電話した。有道の家には何度も泊まったことがある。いつもなら早朝ランニングをしている時間だから、きっと起きているだろう。
案の定、ワンコールでつながった。
『それは無理だ!』
バッサリと夢は絶たれる。
「なんでだよ。お前のねーちゃんでも来てんのか?」
『いや、もう姉貴はこれないだろうな。何せ、家がない』
「は?」
『アパートの一室に火のモンスター……エレメントだっけ? が現れたんだ。木造だからよく燃えてなあ……綺麗さっぱり燃えちまった。どうすればいい?』
「それはご愁傷様としか言えねえよ」
モンスター火災でも保険は下りるのだろうか。式馬は有道に幸運を分けてやりたくなった。
「じゃあ有道も宿なしか?」
『知り合いの家に泊めてもらうさ。式馬の分も聞こうか?』
「いや、いい。くれぐれもモンスターには気を付けろよ」
『あん時は疑って悪かったな。お前の言うことは本当だった。じゃあな、神の使徒サマ』
プツっと通話が途切れた。
家が燃えたというのに、ヘラヘラしたやつだ。でもそれが有道らしい。
式馬がどこに泊まろうか思案していると、バハムートが袖をちょんと引っ張った。
「う、後ろ……尾行されてます」
「へ……?」
反射的に後ろを見ようとして踏みとどまった。携帯の内カメラで確認してみると、男二人組がかなり後方を歩いていた。
尾行という風には感じないのだが。
「式馬さんの家で同じ人を見ました。上着を変えていますが、顔とズボンに見覚えがあります」
式馬は感心した。バハムートは飛び抜けた観察力を持っているらしい。
「曲がったら、走るか」
「はい」
尾行されるのは初めてだ。手が汗ばむのを感じながら、平然を装って角を曲がる。すぐに2人は走り出した。
「式馬さん、早く!」
「バハムートが早過ぎるんだって!」
世界記録より速く走るペースについていけるはずがない。焦れたバハムートは式馬の下まで戻り、手をとった。
「もうっ、いきますよ!」
ぐんと体が加速する。
バハムートの『素早さ』に引っ張られて、式馬はステータス以上の素早さを得た。目まぐるしく景色が流れていく。
ジグザグに角を曲がってようやく停止した場所は、魚原と表札のある一軒家だった。
「わ、私の家です。あがってください。……親はいないので」
式馬が拒否する暇もなく、玄関へ引っ張られてしまった。
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