第16話
「くぁ〜っ」
式馬が大きく欠伸する。
流石に集中力の欠いたこの状況で戦うのは危険だと判断し、2人は帰路についていた。
空には日が昇っており、徹夜明けには辛い眩しさを振りまいている。
モンスターが出現しても働かなければいけない人はいるらしい。郵便局の赤いバイクが式馬の横を通り抜けていく。
そんな清々しい朝だが、異様に人が集まっている場所があった。車が路上に数台止まっており、誰かの家の玄関を張っているようだ。事件に集まる野次馬のように。
「な、何かあったのでしょうか」
「なんだろうな……って俺の家じゃねえか」
「えっ、何やらかしたんですか? 今の状況はまあまあ犯罪的ですけど」
女子高生を連れ回して朝帰り。犯罪的だがこれほど人が集まる事件ではない。今はアップデートというもっとホットなネタがあるのに、わざわざ式馬の家で出待ちするは不自然だ。
式馬とバハムートの姿に数人が気がついたようだった。スーツを着た1人の男が近づいてくる。
「シキマさんかい? メノトラ出版の青井と申します。お話伺っても?」
物腰の柔らかな男だった。青井は背が高く、見上げなければならなかったが威圧感は全くない。
「そうですけど……出版社の人が何のようですか?」
「こちらの投稿に関してお伺いしたいのですが」
青井が見せてきた画面には、式馬がSNSに投稿したモンスターの情報があった。
まずいと式馬は思った。
携帯のSNSを開く。昨日までは誰も興味を示さなかったのに、いつの間にか幾つもの返信がついていた。
そういえば戦闘中に通知がうるさかったので、オフにしていたのだ。
後ろから覗いていたバハムートが小声で「バズってますね。よかったじゃないですか」と呟いた。
「良いわけあるか」
「げ、現代のジョンタイターですよ」
「……そちらのお嬢さんは?」
青井がバハムートを興味深そうに尋ねる。
バハムートは脇に抱えていた魚マスクを被った。
「よくぞ聞いてくれた。我が名はバハムッッッ!」
式馬が魚の口を塞ぐ。
「こいつはモンスターに襲われているところを拾ったんです。恐怖で変になってるみたいで」
「それは素晴らしいですね。今までずっと戦ってらしたんですか?」
「ええ、まあ……いや、何でもないです。すみません。疲れてるので今は何も答えられないです」
危うくのせられて喋ってしまうところだった。疲れているのは本当なので、それを理由に逃げることにした。
疲れた頭で質問に答えるのが危険なことであることは式馬にもわかる。
青井は断られても意に介してなさそうに、名刺を取り出して式馬のポケットに忍ばせた。
「でしたら後日、お時間のあるときに」
式馬は軽く頭を下げると、バハムートを連れて家の反対方向へ離れていった。
あの家は、当分使えないだろう。
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