第12話
崩れ去ったゴーレムは黒くなって消滅してく。
式馬をドームへ連れ去った黒い球体と同じ原理なのだろう。倒されたモンスターがどこへ行くかは知らないが、死体が残らないのは助かる。
ゴーレムならまだマシだが、ゴブリンやウルフなどの腐敗するタイプの死体なら処分に困っていたはずだ。
「これが幸運なんですか……」
素早さの効力しか知らないバハムートが呟く。
「『体力』が高いから普通は倒すのが大変だろうが、クリティカルには弱い」
動きが鈍いので式馬にとって相性の良いモンスターと言える。
ゴーレムが倒されたことで恐怖が薄れ、元気を取り戻しかけてる子供たちを近い親元へ送り届けると、2人はモンスターを探して街を走った。
式馬が危惧していたほどモンスターが氾濫しているわけではなかったが、至る所で煙が上がり、サイレンが鳴り響いていた。
携帯の通信が悪くなっているのは全世界の人が一斉に使っているからだろう。状況が見えないことが恐怖を駆り立てることを、式馬は知らなかった。
「ど、どうしましょう。今の時点で倒せるのは、多分私たちしか……」
「わかってる。だが場所がわかんねえ」
住宅地はダンジョンだ。ゲームのようにマップが開けているわけではない。
「バハムート、いい感じの棒はないか?」
「棒ですか……?」
バハムートは数秒でさっきの公園から、50センチほどの木の棒を拾ってきた。
式馬はそれを地面に立てると、手を離した。棒は南西の方を指す。
「こっちだ」
南西には一軒家があった。不動産屋の看板があるから人は住んでいないはずだと、式馬は勝手にドアを開ける。鍵は空いていた。
「ひみつ道具じゃないんですから、そ、そんなのでわかるんですか? 適当じゃないですか」
「適当だからいいんだろ」
電気をつけずに足音を殺して歩く。
モンスターに先手を取られないためなのに、泥棒している気分になる。ダンジョンを探索する勇者も同じ気分だったのだろうか。
誰も住んでいない家は冷たかった。
玄関から廊下を歩き、リビングのドアを開ける。日はほとんど沈んでしまったから、カーテンがかかっていないのに薄暗い。
友人の家に泊まるときでさえ多少の疎外感を感じるのだ。家の暗闇に押しつぶされるような感じがした。
隅でぎらりと何かが光った。
本来は冷蔵庫などを置く場所が闇に包まれている。そこから双眸が見えた。
「まずい……ウルフだ」
獲物を見据える黄金の目。『素早さ』のウルフは式馬が最も苦手とする相手だった。
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