第11話

『幸運』のステータスが消えている。


強すぎたという感覚は式馬にもあった。『幸運』がそのまま実装されればバランスブレイカーになる確信があったので、弱体化ナーフされるかもしれないとは考えていた。


だが存在自体を消去されるとは思わなかった。


テストでレベルアップした分のSPは全て『幸運』に注ぎ込んでいる。その項目が消去されてしまえば、レベルが上がっているのにオール0の無能でしかない。


「キャーッ!!」


ステータスを茫然と見つめていた式馬の耳に叫び声が聞こえる。


声の主は遠くはない。きっとモンスターが現れたのだ。


「バハムート! 先に行ってくれるか!?」


「わ、わかりました」


バハムートが持ち前の素早さを駆使して声のした方へ駆け出した。すぐに後ろ姿は見えなくなったが、式馬も後を追いかける。


「キャーッッッ!!」


「またか!?」


同じ場所から同じ叫び声が聞こえる。先行していたバハムートにも何かあったのだろうか。


叫び声の元は空き地だった。


公園に居たのは子供が数人とバハムート、それに2メートル以上あるゴーレムだ。子供たちは恐怖で動けずにいる。


「大丈夫か」


見たところ怪我はないようだ。子供たちは涙を目に浮かべながらすがり付いてきた。


「助けてっ。ば、バケモノが2人いるの!」


「2人……?」


ゴーレムと——しょんぼりしている魚マスクのバハムート。


「私……バケモノじゃないのに……」


「変な被り物してるからだろ」


2回目に聞こえた悲鳴は子供たちがバハムートに驚いた声だったのだろう。モンスターが目の前にいるのにふざけている場合ではない。式馬は子供たちを守るように立った。


「この魚人間は悪いやつじゃない。味方だぞ」


「ほんと? 顔がお魚だよ?」


「あー、彼女は人魚みたいなもんなんだ。人間にもなれるぞ。ほら」


「ひゃんっ」


魚マスクを鷲掴みにしてバハムートから引っこ抜いた。バハムートは顔がさらされたことを悟ると、素早さで一瞬のうちに式馬の影に隠れてしまった。


「返してください〜っ」


バハムートが超スビードでマスクを取り返そうとしているが、不思議とギリギリ取れない。


だがそんな2人の後ろから、岩で構成された太い腕が迫っていた。


「おっと危ない」


式馬はバハムートに押し倒される。『幸運』にもそれによってゴーレムの腕から逃れられた。


ステータスから『幸運』の項目が消えていようとも、力は残っているのだ。


「ひぇっ! す、すみません。すぐ退きますから!!」


乗り掛かってしまったバハムートが顔を真っ赤にして起き上がろうとするのを押さえつけ、地面に転がったまま空き地の石をゴーレムへ投げつけた。


致命的な一撃クリティカル——。


かつんとぶつかる音がして、砂の城のようにゴーレムは崩れてしまった。

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