第4話

RPGで『力強さ』を上げても相手に与えるダメージが増えるだけだ。


『賢さ』を上げてもキャラが自動で動いたりはしない。『素早さ』を上げても旅をする時間が短縮されるわけではない。


でも現実なら?


『力強さ』に極振りするなら自動車でさえ片手で持ち上げられるだろう。『賢さ』ならアインシュタインを超えるかもしれない。『素早さ』なら新幹線に勝てるかもしれない。


ゲームでクリティカル率にしか意味を持たない『幸運』は——






10体目のゴブリンが現れる。


リセットと同時に奇襲はしない。式馬はわざと無防備にその姿を晒した。ゴブリンが式馬に気づき襲いかかってくる。


「ああ、気づかれるなんて運が悪い」


隠れる気なんてなかったのに、式馬は残念そうに呟く。


その言葉をきっかけにゴブリンが転けた。ドームにつまずくような段差はないはずなのに、式馬に攻撃を加えようとした瞬間転けてしまった。


紛れもない式馬の『幸運』だ。


無防備なゴブリンの首を踏みつけると、脳内に直接声が響いた。


『レベルアップしました』


式馬はメニューを開いた。


——————————

 お知らせ

*ステータス


レベル3

力強さ:0

体力:0

賢さ:0

精神:0

素早さ:0

幸運:2

SP:1

——————————


「たった2でこの強さか……」


『幸運』はゲーム的な急所攻撃を行うことができるのだが、それ以外にも効果があるようだった。


式馬が不運であればあるほど、幸運が引き起こされる。幸運の種類はランダムで、幸運自体が起こらないこともある。


これまでに何度死んだだろうか。『幸運』を引き出すコツを掴んでからは死ぬ回数も減ったが、結局はゴブリンを倒せるような幸運が出るまでトライしなけらばならない。


しかしステータスが2だったことを考えれば、破格の性能だろう。戦闘以外でも発揮するとするならば余計に。


式馬は手に入れたSPをさらに『幸運』へ振った。


頭から血を流していたゴブリンが消え、リセットされる。いつまで続くのかと辟易していると、ゴブリンが2体に増えていることに気がついた。


「10回倒すごとに増えてくのか……?」


複数対1のテストということだろうか。


このテストに変化が生まれたことは嬉しいのだが、まだまだ続くことに式馬は頭を抱えた。


一度に2体を『幸運』で相手にするのは難しく、あっけなく棍棒で打ちのめされてリセットした。


式馬は『幸運』の感触を確かめながら、着々とレベルを上げていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る