第3話

ゴブリンは小さい体によらず力が強い。


乱雑に振り回す棍棒に当たれば一撃死。かすめるだけでも肉が持っていかれる。腕を掴まれればその握力で握り潰される。


ステータスに照らし合わせれば『力強さ』が高いモンスターなのだろう。


だが脅威なのは『力強さ』だけだ。式馬が殴ればゴブリンはよろけるので、攻撃が通らないわけではない。殴れば倒せる。


それが式馬が9度死んで学んだことだ。


「つまり、やる前にやれだな」


9度目のリセット。


棍棒で潰された腹が元通りになり、ドームにはゴブリンと式馬が少し離れた状態で立っている。


リセットされたばかりでゴブリンはまだ式馬に気が付いていない。キョロキョロしてるゴブリンに向かって全力で走り、その顔面にドロップキックした。


ゴキャと骨の音が響く。


先手必勝。真面目に立ち向かっても勝てないなら、リセットに合わせて攻撃をくらわせるしかない。


目論見はうまくいき、ゴブリンは頭から地面に吹っ飛ぶ。


「見たかクソゴブリン! 何回も殺しやがって!」


「……ギッ!!」


まだ命を散らしていなかったゴブリンの腕が式馬の足に伸びる。式馬はそれを避け、入念に顔面を蹴る。


「死ね、死ねっ」


式馬の脳内に声が聞こえた。


『レベルアップしました』


「は……ははっ」


ゲームでモンスターを倒したことはいくらでもある。それとは比べ物にならない感情が式馬を襲った。


「ステータス」


——————————

 お知らせ

*ステータス


レベル1

力強さ:0

体力:0

賢さ:0

精神:0

素早さ:0

幸運:0

SP:1

——————————


レベルが上がっている。


「SPが増えて他はゼロ……SPはステータスポイントってことか」


レベルの上昇によって勝手にステータスが増加するのではなく、SPを自由にステータスに割り振るシステムのようだ。


「極振りするか、満遍なく振るか……悩ましいところだな」


極振りとはほぼ一つのステータスの数値を上げることをいい、その分野のスペシャリストになれる。逆に満遍なく振れば対応力を得られるが、器用貧乏になる可能性が高い。


極振りするにしても、どれに特化するかで役割が変わる。


『力強さ』ならゴブリンのように一撃必殺のパワーを得られる。安全性を考えて死ににくくなる『体力』や『素早さ』も魅力的だ。


『賢さ』と『精神』はゲームなら魔法系のステータスだろうが、現状使えるかどうかわからないのに振る勇気は式馬になかった。


『幸運』はゲームなら致命的な一撃クリティカルやモンスターのドロップ率に影響するのだろう。


だがゴブリンから何かドロップしたわけではないから意味がないし、ランダム要素のある運に頼るのは怖い。


「ゲームなら……でも現実的に……」


式馬は呟きながら考える。


このドームは死んでもリセットされる。でも現実なら?


「……よし、決めた」

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