第14話 後一週間
コンテストが今週に差し迫って来た。
今日もこうして練習をしている。
いつものように練習をしている気がするのに少し違和感を感じる。
「何か体調が悪いのか」
音合わせが終わり休憩をするタイミングを聞いてみる。
「え!何で!」
彼女は驚いたような顔をしている。特に体調は悪くなさそうではある。
「いや、なんだか今日はいつもの力強い声じゃなかったような気がしてね。まあ気のせいなら全然いいんだけど」
そう、杞憂だな。もしかしたら近づく本番に緊張しているのかとも思ったが彼女が緊張するような人でもないだろう。
「ほらタオル」
「あ、ありがとう」
彼女はいつも全力で歌うため汗をかくことが結構あるのだが、今日はいつも以上に汗を流していた。
だが、その割にはあまり歌声に力を感じなかった。ギターを間違えることはいつもの事なのであまり気にはならなかったが歌声に関しては目を瞑れない物がある。
「小言も言わないんだな」
いつもだったら僕が用意したタオルなんかを渡すともしかしてこれでエロいことをしようとか考えているとか言われそうなものだが、それが今はない。
僕がこんなに違和感を感じているのに僕より長く一緒にいる、彼女達が気が付かないはずはないんだが、何故かそれを指摘をしようと言う素振りが見えない。
「今日そういえば用事があるから、今日は悪いけど帰るわ」
特にこれと言って用事はないが、このまま練習をしても悪くなっていく未来しか見えないので切り上げを提案する。
「えっでも今週にもうコンテストが始まっちゃうよ」
呼吸があまり整ってない状態でそう言われても練習しようとは言われんだろうが。
「だから悪いっていってる。用事があるから僕は上がるってだけ、後もうちょっと体調を整えてからそういう事言え」
ちょっとイライラした口調になっていた。なぜかはわからない。
「明らかに体調が悪いんだ。今週コンテストもあるんだ休息も大事だって言ってるんだ」
僕は自分の荷物を持ってこの場から足早に出ていく。
出た後、二人に今日あいつが体調が悪いのを知っていたのかの連絡をする。
帰って来た返事は知っていたという事。
まあ、ある程度分かっていた答えである。僕が気付いて長年一緒にいた彼らが気付いてない訳がない。
まあ、止めたけど彼女は無理やりにでもやると聞かなかったという所だろ。あの二人は彼女に強く来られると断れない傾向があるからそれだろう。
僕も抜けて練習する意味は薄れるだろう。僕が入ったことにより練習をするところが増えているだけだ。
それに体長が悪いのがわかっているならこの後どうするのかもある程度決めてはいるので安心である。
後は僕だ。もちろん用事なんてものはない。なら僕は久しぶりに噴水に行くことを決めた。
「まず今週のコンテストに向けて技術の向上と音の合わせ」
合わせの方は一人ではできないのので感覚でこう来るだろうなというイメージでやらないといけない。
人の前でやる事への慣れを意味を込めて噴水広場でやる。
「でも今回は少し残念なのがおこずかいを稼ぐのはできない所だな」
この曲は彼女の曲で僕の曲じゃない、本当にただ純粋な練習をしないと技術は上がらないような気にもなる。
置いていくつもりもないが置いて行かれるつもりもない。
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