第10話 満月
「おつかれ~」
ライブも終わり僕の初ライブという事で食事に来ていた。
「いや~それにしても今日はいつも以上に盛り上がってたね」
そう言いながら彼女はジョッキのジュースをゴクゴク飲んでいく。
「それでこれからどうするの」
「ご飯を食べる」
「それはボケで言ってるの」
「もうそんな怒んなくても」
「怒ってない」
怒ってなんていない、ただの疑問である。
この先は、ただ漠然と進むわけにはいかない。もちろんすぐに売れるわけでもないから遠回りにはなるが確実にこいつはボーカルの天才だ。それに僕たちがどこまでついていけるかだな。
「あんたは黙って食ってなさいよ!」
「なんでだよ。疑問も口にしちゃあいけないのかよ」
なんでこの女はこんなに絡んでくるのか、疑問である。また疑問ができてしまったまあこれはどうでもいいんだけど。
「それと後なんで一人酒飲んでんの」
あのいかつい男さっきからグビグビ酒をからにしていく。
「いいじゃねえか。俺は大人だから酒も飲めるしこうやって夜にお前らが飯食えてるのも俺のおかげだぜ」
「わかってるから肩に手を回して近づくな酒臭い」
僕は今心底嫌そうな顔をしているだろう、臭いがきつすぎて困る。
「ああ、ずる~いやっぱり私も抱き着く~」
「あっこらいきなり立たないで凛音」
「君は酒も飲んでないのに酔ってるのかバカ」
彼女が席を立つのを止めているきつめの女に隣は酒に飲んだくれたおっさん。地獄だな。
「帰りたい」
この一言に尽きる。初ライブ最初の打ち上げにしての気持であった。
このバンドでやっていけるが気しないな。
☆☆☆☆
今後の話もあまりないまま騒いで店を出た僕らは別々の帰路で帰っている。
「今日のライブは本当に熱かったね~」
一緒の帰り道という事で彼女とまた一緒に帰っている。
「それにしても本当にこれからどうするのこの先」
「もうそればっかりだね君はリーダーは私だよこの先もちゃんと考えてます」
彼女は胸を張っている。
「ない胸はらずにサッサと言えよおバカ」
「ない胸とはなんだー!脱げば凄いという言葉を知らんのかー」
「脱いでも凄くないのが見て取れるな」
「じろじろ見るなー変態!」
見るなというのはこの話題を出した時点で無理だろうなと思いながら流していく。
「それでこの先の予定って奴は」
「ライブしてライブしてコンテストに出る」
「コンテストっていつ」
「今月末!」
「早いわ!」
さすがに今月末にすぐコンテストを受けるのはいくら何でも早すぎる。
「さすがに早すぎだろ。組んでまだ一月そこら音もまだ完璧にあってるとは僕は思ってない」
「でも早くて何が悪いの挑戦しないは悪だよ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら僕の前に出る。
「君は臆病者かな」
その言葉は僕の心にずきんときた。
「臆病者じゃない。ただ、現実的に考えてまだ早いと思っただけだ」
僕が早口にまくし立てているのを見て彼女は笑いながら言った。
「わかってるよ。じゃあコンテストに向けて突き進んでいこうか」
僕は少し納得できない気持ちでいっぱいになったが口から息を吐き出すことによって心を落ち着けた。
「それで他の二人には話しているのそのことは」
また彼女はない胸を張りながら笑っている。
「当然伝えているよ」
「知らなかったのは僕だけって事か」
まああの子より先に知っていたらそれはそれで怒られそうな気がするのでまあいいのかな。
「まあ新参者は最後って事でね」
「まあたしかにそうだね。 それでも彼らは僕と同じように異を唱えなかったの」
彼女はまたにぃっと笑う。
「当然だよ。 何年一緒に居ると思ってるの私の事は何でも知っているよ」
それはあの子たちは知っているから諦めるしかなかったてことかな。
「まあ決まった事を言ってしょうがなくはあるのか」
「そうそうしょうがないしょうがない、むしろこの行動力の良さを誉めてもらわないと」
彼女は悪びれる事もなく言っている。
彼女のこういう所がどこかほっとけなく周りに魅力的に映るのかもしれない。
僕では絶対にできない芸当だろう。彼女はとても人を惹きつける魅力を持っていてこれが人気者になるものの才能なのかもしれない。
「天は二物を与えずか」
「どうしたの急に?」
いや、聞いてんなよ。難聴系主人公をでもやっておけよ。
「いや、別に君はやっぱり才があるんだろうなって」
「お、もしかして褒められてるんですか。 嬉しいですね~きっと明日は雨ですね」
失礼な奴である。
ただ嫌ではないのが不思議だ。
「まあ、明日からもまた練習だな。 次の目標はコンテストで入賞かな」
「やる気が出てきたね。 きっと入賞するよ」
彼女は何にそこまで自信を持てるのかわからないながらも自信をもっていっている。
僕はそう思いながら上を見上げる。
「今日も月はきれいだ」
綺麗な真ん丸の月を見ながらそう僕はつぶやいた。
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