第9話 ライブ
表では大きな音が鳴り響いている。
僕たちの出番は次だから4人でスタンバってます。
「何、緊張してきてんのこのこの」
僕の頬を突っつくこの子には本当にイライラする。
それ本当に緊張してたら怒られんぞ。
「緊張してないよ。僕はやれることをやるだけだから」
「うっざ」
そこの君最近さらに加速して僕を嫌ってないか。
「こら、そういうこと言わない女の子なんだから」
彼女の注意にツンっとそっぽを向いている。
「お前はかなり大物になりそうだな」
「そうでもないですよ。あなた達のリーダーこそ大物でしょ」
「あなた達ってお前もチームじゃねえか」
彼女は僕からしたらそんなにリーダーって位置の感じがしないんだよな。
どうやら表の方での演奏が終わったみたいだ。
「私達の番みたいだね」
彼女の表情が一瞬にして変わる。
今まで見てきた顔とはまた違う新しい顔。これが真剣な時の彼女か。
「さあ、今日も楽しんでいくよ」
そして彼女の背中は頼もしい、そして光がある方に歩いていく。
「ほら行くぞ」
僕は強面の声で我に返り、僕は数秒遅れて歩き出す。
ステージに立つとあたり一帯に人の数がひしめき合っている。
路上ライブでこんな景色は見たことない人の数と歓声である。
「今日はまず新メンバーを紹介します。レッドウィングの新メンバーのベース君でーす!」
この紹介コールで打ち合わせ通りに僕はベースを鳴らす。
「「「うおおおおおおおおおお」」」
僕のベースでこの歓声がさらに強いものになる。
「まあ、紹介も手短にってことで今日は新曲もあるから早めに行くよ!」
彼女の言葉にさらに歓声が強くなる。
「では早速一曲目。テンション上げていこうよ!」
このチームでの代表曲である一曲目。
周りの歓声は一層強いものになり、僕たちの演奏は始まっていく。
いつもと変わらずに隣に彼女は歌っているはずなのに遥か彼方で歌っているように遠い。
路上ライブでは味わなかった。うるさい歓声。
それが周りにいて、引っ張られてしまいピッチが速くなったりしそうになる。
多分ベースは一番簡単で一番難しい役職である。
ベースの音を出す工程なんかを考えると楽だが、なので一人の時なんかはのびのびできる。だが、これが団体になるとそうもいかない。ベースは大体の音の抑え役だ。ベースのテンポがおかしくなることで、後ろの方との兼ね合いが狂い一気に崩れてしまう。
なのでギターみたいに気持ちで弾くことはほとんどない。
常に冷静に後ろの奴との連携をしっかりするために練習道理を崩さないようにする。
(でも、これがライブか。……思った以上にこれは持っていかれるな)
何回か他の所でベースを合わしてきたが、こうも興奮する舞台ではなかった。
僕は、隣で歌っているであろう彼女を目で追う。
彼女はますっぐ前を向き、歌っている。
(本当に楽しそうに歌っている。それに練習よりもさらに凄い)
彼女は本番に強いタイプなのか、もしくはノリで上がるタイプなのであろう。
彼女は今まで見た中で一番天才の片りんを見た。
ここのオーナーと挨拶した時もそうだ。プロになると太鼓判をなんで押したのかの説明してきやがった。
でも、わかる。
これは押したくなるし、凄い。
本当に金の生る木だ。僕はこれに付いていかないといけない。
凡才の僕が天才に見せる方法は常に冷静でいることだ。
(しがみつく!僕の人生を楽にするために!)
でも彼女はどんどん進んでいく。
☆☆☆☆
私は今日という日を忘れないだろう。
今日は彼が入っての初めてのライブにして私達が出航する門出だ。
お母さんたちに元気いっぱいに挨拶をして、家を出る。
ライブ会場はいつものようにすごい熱気で溢れかえっている。
彼の背中を見るとそこにはチームの証の黒と赤を基調にしたジャケットがあり、男性という目印に右側に片翼の翼をあしらっている。
彼が本当に私のチームの一員だと思わしてくれる。
彼はベースの調整なんかをしてて構ってくれないのでちょっかいをかけてしまい、ちょっと怒っているようだ。
それに夏希もあんな事言わなくてもいいのに、二人にはできるだけ仲良くしていって欲しいのにそうもいかないのかな。
それに男の子にあんなに突っ掛かる夏希も珍しいんだけどね。
どうやら色々やっている間に前の人が終わったみたいだね。
私はみんなと一緒に歩きだす。
彼のベースはやっぱりすごい。
自分の中でもいつも以上にテンションが上がってしまって、ギターの方がちょっと荒くなってしまう。
これは後で彼に厳重注意が来るかな。
でもやっぱりギターにはボーカルでしょこれだけは手放せないな。
(さっきから彼が私を見ているね。タイミングを計っているのかな)
さあもっと私達は行くよ。皆付いてきて。
私は今日のボルテージを最大まで上げていく。
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