第三章 板滝町のオニ

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 警察がバラバラ死体の捜索を開始したという話を聞いたのが、金曜日だった。

 達成感や興奮というポジティブな感情と罪悪感というネガティブな感情が綱引きのように自分の心を左右に引っ張っていて、その引き裂けるような痛みで土日の二日間はまともに寝ることができなかった。そんな状態であっても、果たして自分が捨てた死体は、どのように報道されるのか、どんな見出しで、どんな推理がされるのかという、まるで自分の作った創作物を世に出して評価を待ち望んでいるような期待や興奮が大きく心の中を占めていた。

 しかし、それがニュースになる気配は、一向になかった。

 休み明けの月曜日に、警察がバラバラ死体を見つけることができていないという噂が耳に入った。

 なんて無能なやつらだ!

 苛立ちのあまり拳を思い切り机に振り下ろした。どんっという鈍い音がしたものの、その衝撃はそのまま自分の手に返ってくる。肘まで痺れるような痛みに顔をしかめたが、その痛みがさらに怒りを助長し、ただただ歯を食いしばるしかなかった。

 日本警察が優秀だって話はどこにいった?それともこんな田舎には使えないやつしかいないってことか!

 手の痛みと怒りにより、自分が涙を流していることに気付いた。痛まない方の手で涙を拭い、深呼吸をして息を整える。

 見つからないというのは、どういうことだ?

 改めて、その噂について冷静に考えてみる。例え警察が有能ではないとして、本当にそんなことがありえるのか?死体は黒いごみ袋に入れて、埋めることもなく板滝山の適当な茂みに捨ててきた。すぐには見つからないとしても、人数をかけて数時間調べればまず見つかるだろう。

 そうなると、実はすでに見つけているのに、まだ見つけられていないことにしているのか。死体の身元など事件性があるかどうかわかるまでは情報統制をしているのか。板滝町はバラバラ死体という言葉に過敏になっているから、その可能性はあるかもしれない。

 逆に、本当に見つかってないとしたら?見つけることが難しくない場所に置いたはずの物が、見つけられていないということはつまり――

 自分の推理に、ゾッとした。

 つまり、警察より先に見つけたやつがいるのだ。そいつが死体を別の場所に移動させた。それはすなわち、自分が死体を捨てに行ったところを目撃された可能性が高いことを意味している……。

 落ち着かせたはずの呼吸が、再び荒くなる。自分の行動を一部始終監視していたやつがいると考えると、何かしなければならないんじゃないかと焦燥に駆られる。

 それでもなお、気分を落ち着かせようと努めた。今はまだ推測の域を出ていない、悪い方向ばかりに考えるべきではないと。

 そうだ、意外と明日には見つかっているのかもしれないのだから――

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