第二章 バラバラ男

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 死体をわざわざバラバラにするやつなんて、生来気が狂っていると思っていた。

 死体を弄ぶために分解するような変態は言うまでもなく、死体を隠したいために全身を切り刻むなんて、正気ではないと。ミステリー小説やドラマ、過去に実際に起きた死体損壊系の殺人事件のニュースを見るたびに、そう思っていた。

 しかし、現実はそうではないのだとわかった。死体をバラバラにする前に、殺している時点で、気が狂っているのだ。そこで初めて気が狂ったからこそ、バラバラにするなんていう選択肢が生まれる。正常な判断なんてできるはずがない。倫理観や道徳意識などという薄っぺらい皮を脱ぎ捨てて、自分が罪に問われないことを一番に優先する。

 作業中、幾度となくそんなことを考えていた。

 今自分が行っていることは、今自分の気が狂っている状態だからできているのだ。すべてが終わりさえすれば、正常に戻れるはずだ。決して自分はいかれた人間じゃない。

 一方で、普通の生活にはもう戻れないのだと、うすうす気付いている自分もいた。

 作業の初めの頃は良かった。自分の行為のあまりの凄惨さに、何度も嘔吐できた。しかし、体内に吐き出すものが無くなったのか、眼前の光景を見慣れてしまったのか――それとも両方か――今の自分は、驚くほど淡々と作業を続けることができている。

 まだまだ春とは言い難い五月の深夜。最低気温は一桁になるらしい。そんな中でも、半袖のTシャツが汗で体に張り付いている。

 こんなに運動したのはいつぶりだろう、という自分に対する皮肉に、思わず口から笑みがこぼれる。

 時間は想像以上にかかったが、ついに作業が完了した。分解した肉片たちを、無造作に黒色のゴミ袋の中に放り込む。

 あとはこれを捨てに行くだけだ。定番だが、山でいいだろう。

 最後の一仕事を終えるため、気合を入れ直して立ち上がった。

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