第3話 雪待ちの人
月明かりもなくなる、雪がついに降るのだ。僕は静かに立ち上がろうとした。やっぱり音が鳴ってしまう。もうからだがきしんでいる。仕方ない、でも寒いとは感じないのだ。
海の見える丘で、あなたが言ったことを忘れられずにいる。なんてね。僕は忘れることはできない、あなたがデータを残したから。頑丈なつくりにするもんだから、こんなにボロボロになっても覚えている。
「いい景色だけど冬になったらきっと寒いね、君は外にでちゃだめだよ」
あなたの微笑みと、まぶしい太陽と、輝く海。僕はあなたのことをこんなにも覚えている。
僕はきしむからだを動かして立ち上がった。夜の冬の海の見える丘で、つぶれてしまった懐かしい家のそばで、両手を広げて空を見る。
ほこりのようにも見えたそれは次々降ってきた。白い、小さな粒。だんだんと粒は大きくなる。僕のからだについても溶けることはない。僕にも降り積もっていく。これを待っていた。
冬になる前に僕を改造しなくちゃ、そう彼女が言っていたから、きっとこの雪で僕は壊れてしまうだろう。あなたの望む最期ではないことを許してください。あなたの手伝いをしていた頃に戻りたい。僕はあなたに作ってもらえて、使ってもらえて、こうして生きることができて本当によかった。
できることなら逃げたくなかった。僕は悪いロボットでごめんなさい。でも燃えてリサイクルになるより、どうしてもここに、最期に戻りたかったんだ。あなたのそばに。
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