第33話 きさらぎ駅その後のエクスプロージョン + 現時点までの登場人物紹介 その2
きさらぎ駅の探索話はこれにて終了だった。
僕はテーブルに広げられた数枚の地図と、人物用の駒を改めて眺めた。これら地図は、その当時に描かれた実物だった。
犬先輩を始めとする四人が騒動に巻き込まれ、囚われの少女、さらに一柱の幼女姿の邪神を加え、最終的には当初の四人のうち半数が死に、半数は生還した。僕は最後の最後で倒された二人を悼んだ。
「さて、と。あともう少しだけ話は続くんやが」
「僕もいくつか質問があります」
「うん、そう来ると思っていたし、何を聞きたいのかもおおむね把握済みや。それよりもまずは――おい、どうせ聞いてるんやろ? 出てこいヴェールヌィ」
「今か今かと、ずーっと待ってたのに。やっと呼んでくれたよ」
ヴェールヌィが何もない空間からまるでにじみ出るように姿を現した。
銀髪碧眼。美の黄金比にすべてが祝福された、どこか犬先輩の感性に通ずる幼き姿の邪神。陰陽五行における土属性を持ち、その力は間違いなく最強。混沌の権化にして、眠れるアザトースの従者――のはずなのだが。
彼女は桐生学園ミスカトニック高等学校の、女子用の制服を着込んでいた。
「学園生活はどうよ。脱ボッチの気分は」
「ボッチじゃないし。それに今のわたしは二年生よ。お兄ちゃんの先輩だもーん」
「へいへい、わが義妹にして先輩よ。顛末がどうなったかはお前に任せる」
ちょっと状況が掴めないかもしれないので犬先輩の注釈を。
ヴェールヌィは『放課後の殺人鬼』事件の後、得体の知れない神パワーをゲインさせて自らの戸籍やその他書類を作り出し、転入生としてミスカトニック高等学校の一生徒に収まったとのこと。ちなみに内容は発言をそのままに書いた。
いくらなんでも10にも満たぬ幼女の姿で高校生など無理がある気がするのだが、その辺りは神としての力で上手く誤魔化しているらしかった。
「そもそも
「初めて聞く名前ですが、その方々もひょっとすると?」
「ご明察。でも、もういいの。それよりも成り立ちや顛末、色々ね」
「……はい」
「まず成り立ち。人間の概念で言えば大体500年前、わたしはあなた達の言うところの可能性世界をさまよっていた。するとね、わたし達四姉妹とはまた別の貌が何か一生懸命に世界をいじっていたの。それをなーんとなく眺めていたら、お前も一緒するかって。皆どこかに行って寂しかったし、特に目的もなかったので頷くと、その世界に肉体だけ残して魂はほとんど封印されちゃった」
「あの、犬先輩の論文からすれば、魂なんてものは存在しないのでは?」
「われらが主、アザトースを初めとする外なる神々は例外よ」
「そんな法則があるのですか」
「そうよ。というか、ハーフジェミニちゃんだったらわかるでしょう?」
「こら、ヴェールヌィ。『それ』には触れるなって、さんざん言ってるやろ」
「あ、そっか。ごめんねハーフジェミニちゃん、今のはなかったことにしてね」
いや、そんな。僕は胸の内で呟いた。そんな半端は余計に気になる。
なぜ魂の話で僕が話題に上るのか。
どうして犬先輩はヴェールヌィに情報規制を強いるのか。
そもそも彼は何が見えていて、何を目的とし、何を隠しているのか。
しかし彼女はこれ以上話すつもりはないようだ。義妹だったか、犬先輩の言いつけは守る子であるらしい。その後の自身の顛末を語るだけで終わってしまった。
ただ、これがクセモノで。
結末がついぞ先ほどとは異なり要領を得ないもので、というのもコミュ障が色恋に触れてしまったがための混乱であり、ともかくのところヴェールヌィは大好きな犬先輩と同居するようになったのだった。だいしゅきホールドからの幼女セクロス&ボコ腹、スペルマたっぷり注入ラージポンポン妊娠プレグナンスなど危険な妄言ワードを乱発されたので僕の側で勝手にまとめた次の文章でご勘弁願いたい。
きさらぎ駅での祭祀を無に還し、封じられていた響 (ヴェールヌィ)の魂は解放された。魂とはエネルギーの塊でもあるという。おかげで完全に自我と力を取り戻した彼女は、おはようからおやすみまで犬先輩につきまとうようになった。構ってちゃん系、幼女ストーカーの爆誕である。一部の紳士達は臍を噛んで眠ると良い。
しかし犬先輩も多忙な人だった。さらにはストーカーはさすがに勘弁してくれと彼女を避けるようになってしまった。響はそんな犬先輩の態度に拗ねて、構って欲しいがために家出をした。そうして、放課後の殺人鬼事件へと話が続いた。
彼女の代役語りを続けるに、きさらぎ駅の一連にて邪神信仰の村で囚われていたくだんの少女たる水無月は、後ほど封印から解かれた響によって記憶の改ざんと邪神の祝福を受け、痛めつけられた肉体時間を一年ほど巻き戻しを受けていた。
現在は謎の行方不明からの帰還者として普通に生活を送っているらしい。もう彼女に会うことはないし会わないほうが幸せだ、との犬先輩の言葉だった。
極道の妻、能代弓枝は、来年二月に中学生の姪がミスカトニック高等学校を受験する予定で、犬先輩には彼女が合格したら少しでいいので目をかけて欲しいと頼み込んだ。言わずと知れたその姪とは、矢矧文香のことだった。
探索時の仲間、人喰いクロエと嘘つきジョージは、知っての通り最後の最後で亡くなってしまい、飛ばされた可能世界にて土に還った。
「俺にとってはバッドエンドやった。全員生還できなかったってのもあるし、この幼女的な意味もあるし。お兄ちゃんお兄ちゃんて甘えてくるのはまあ……男の甲斐性みたいなもんで別に構わんが、過度のストーカー行為とか、ことあるごとに結婚してとか、むしろセックスとか囁いてくる幼女とかもはや恐怖やんけ、なあ?」
「将来の旦那様が何を言うの。たくさん子ども作ろうね、お兄ちゃん」
「お前とヤっても自慰行為と変わらんわ。つーか、なんでロリっ子やねん。いやお前は可愛いけど、絵面的に犯罪っぽくて俺が社会的に死ぬ。マジでイってまう」
「イクときは、一緒だよ?」
言いながら邪神幼女のヴェールヌィは犬先輩に抱き着いてぶちゅーとキスをした。
美少年と美幼女の接吻。でもぶちゅー。口づけなのに、ちっとも色気がない。
ただ、そんなのお構いなしに彼女は僕に視線を寄越して露骨にウインクしてくるのだった。どうやら所有宣言をしているらしい。キミヒラお兄ちゃんは、わたしのものだから。うん、ちょっと意味が分からない。好きならそれでいいのではないかな。
そんなこんなでヴェールヌィは、まだ部活動の途中だからと空間を歪めて帰っていった。彼女は第七駆逐隊――潮、漣、曙、朧の四人と一緒に本日は薔薇の温室にて園芸部の部活動中らしかった。特に彼女は朧と仲が良いようだった。
「……騒がしかったな。で、だ。茶番みたいなボッチの解説はともかく、ケイが本当に尋ねたい質問の一つはこれと違うか?」
『なぜ南條公平は、宇宙の真理や邪神の正体および知識に触れても平気なのか』
その通りだった。ヴェールヌィが去って落ち着きを戻した部室内、僕は意識して神妙な表情を取りつつ頷いた。しかし実はまだ僕と文香は互いに脚を接触しあって、ぎゅうぎゅうと生足の触感を性的な想いの元に堪能しているのだった。
犬先輩は顎に手をやり、何ごとか思案する表情になった。たぶんこれ、バレている。誰かのスマートフォンのアラームが鳴った。
「あれっ、そうか俺か。もうそんな時間か。すまん、ケイ。その疑問はまた今度機会を見て話すわ。ちょいと今日は夜から西博士に桐生の大学病院に絶対に来てくれ言うて一方的に約束させられててな。あのオッサン人使い超荒いわ。すまんな」
慌てて席を立つ犬先輩。僕は一つだけと声をかけた。
「疑問への答えはイヌガミと少なからず関係がありませんか?」
「ケイってさ、ミステリーとか読んだら序章で大体の犯人像がわかるタイプ?」
「考えに至る方向性は間違ってないって感じですか」
「せやねん。良い感じやねん。俺のことそんなにも理解してくれて嬉しいぜ。頼む、結婚して。一生幸せにするから。たくさん子ども作ろうな」
「あの邪神の妹さんと同じことを……。本当は実の兄妹だったりしません?」
「いやいやアレは無理。そしたらすまんけど後片づけよろしくな。じゃあな!」
人喰いクロエは犬先輩について客観的数値とテキスト情報を読み取っていたはずである。それゆえの呼び名がイヌガミの少年なのだ。
僕はため息をついた。ふと、文香が僕にしなだれてきた。ケイちゃん、と甘く小さな声で耳元に。女の子のいい匂いがした。
「ケイちゃん、わたしのことを認めてくれる?」
「文香さんは文香さんでしょう」
「犬先輩はわたしについては出会った当初から知っていて、その上でずっと黙っていてくれたの。でもなるべくなら早めにケイちゃんには話したほうがいいって」
「その機会を今日作ってくれた、と?」
「うん、そうなの。たぶんケイちゃんは今回、きさらぎ駅の体験話を選ぶだろうからって。それで座学中にわたしの実家についてほのめかしたら、少しモーションをかけてみればいいって。もしこの時点で拒絶するとしたら逃げようと身体が動くだろう、と。……嬉しかった。ケイちゃんは逃げなかった」
「今しがた言ったように文香さんは文香さんですからね。それに……」
「それに?」
「文香さんは性癖というか、独特の面もありますけど、それ以上に心優しいし、信頼できるし、何より可愛い女の子だし。あの、その……」
「うん」
「僕は大好きですから、文香さんのこと……っ」
「ケイちゃん、ありがとう。わたしもケイちゃんのこと、大好き」
僕達は恋人繋ぎになった右手と左手をテーブルに乗せた。手はしっとりと熱を帯び、まるでそこだけが別な生き物のようにドキドキと脈を打っていた。
この手を僕は離したくない、と願った。
外見は凛々しい男性のような文香と、女々しい自分。彼女には僕には持ちえない素晴らしいものをたくさん持っている。僕達は、見つめ合って、唇を交わした。
「その格好のまま、寮のわたしの部屋に遊びに来ない?」
「大丈夫かな。犬先輩のメイクじゃないし」
「今のケイちゃんは並み居る女の子よりずっと可愛いから、絶対にバレないわ」
「じゃあ、行こうかな」
手を繋いだまま協力し合ってきさらぎ駅の資料をファイルに戻し、帰る準備をする。やがて僕らは部室を後にした。その後彼女の部屋で、二人。
お互い磁石のN極とS極のように求め、抱き合って、キスをして、子猫のようにじゃれあい、またキスをしてと、甘い関係を続けた。
つづく
『現時点までの重要登場人物紹介と、判明している内容など(改)』
桐生学園、日本ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校、1年C組。
特徴
双翼の如き双子の妹、恵を愛する。超シスコン。APP16。
彼女を亡くしたことを受け入れられず、双子の自分を妹と見立てて女装する。
普通に話ができて、意思の疎通はできている。だが、正気度は……。
(追加事項)
最近、女装時の自我の混濁が進行している。多重人格の恐れあり。
後述の幼女型の邪神顕現体に妙に気に入られる。ロリっ子万歳。
恋人関係が成立しました。お相手は矢矧文香さんです。爆発すればいいのに。
彼女は2019年3月22日に交通事故で亡くなっている。
特徴
恵一の双子の妹。兄妹であるため二卵性双生児。見た目は兄とほぼ変わらない。
気の強い女の子。APP16。双子の兄を溺愛している。超ブラコン。
贔屓のバンドの夜間ライブに行きたいがために兄と入れ替わりを画策する。
(追加事項)
潜入能力が伝説の傭兵レベル。エルダースクロール系でも暗殺無双できそう。
恵一は自家発電含む恥ずかしいアレコレをすべて恵に握られていた可能性激高。
ミスカトニックのやべーやつ。奇人変人にして、トリックスター。
特徴
紅顔の美少年。ただし普段は道化の如くニヤニヤした笑みを常に浮かべる。
セトという名前の柴犬と常に行動をしている。ちなみにセトの性別は雄。
8つの別称を持つ。名はすべて体を成し、事実から汲み取られている。
重要。ヒロインが愛宕恵一なら、彼はヒーローに当たる。
多重積層する思惑の中、ある信念をもって最善の結果を目指し、画策する。
(追加事項)
一人っ子の癖に義妹がいる。ただし、ナイアルラトホテップの顕現体。
きさらぎ駅を含む探索を過去に13回も乗り越えてきている。
SAN値は大丈夫なのか。KPからクリア特典で回復でもしているのか。
現時点ではすべてが謎。敵か味方か。大切なことは笑みの裏に隠すタイプ。
桐生学園、日本ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校、1年D組。
特徴
ポニーテール。女性剣士。阿賀野流戦国太刀と呼ばれる介者剣術を修める。
見た目は寡黙でイケメンな王子様キャラ。女の子達の求めに応じて演じている。
その本性はお腐れさま。男の娘が大好き。恵一の女装が彼女的にドストライク。
いつか組み伏せて、イタズラから始まる逆レに持ち込みたいと考える。
重要。BLな妄想をしている間は、いかなるSAN値チェックも無効にできる。
(追加事項)
阿賀野一家は兵庫県は神戸に根城を置く武闘派極道ファミリーである。
介者剣術、阿賀野流戦国太刀には四派があり――、
まず、阿賀野。次いで能代。そして矢矧。最後に酒匂となっている。
酒匂派は極道一派から離れた堅気の一派である。でも実戦派なので色々ヤバい。
苔の一念。念願の、愛宕恵一を恋人としてゲット。やったぜ。エクスプロー(ry
もはや妄想無双。彼女を止められるものは、たぶんそんなにいない。
ヴェールヌイ・ウラジミーロヴナ・ナボコワ ボッチ邪神顕現体 女
改名前は響という。実は四姉妹。すなわち、暁、雷、電、響である。
見た目は10歳にも満たぬ美少女。アリス・コンプレックス垂涎。
銀髪碧眼の美しい幼女でもある。ТRPGの法則に則ってAPPは18
放課後の殺人鬼事件の真犯人。目的は『冷静な狂人を作る』こと。
極東の三愚神なる新ワード。
彼女は『目覚めたアザトース』なる新世界の宇宙神のために動いている。
ボッチボッチとからかわれる彼女。空気が読めず、コミュ力はほぼゼロ。
人見知りも激しく、登場しても姿を見せるのは事件解決後という筋金入り。
興味のないものは存在しないものと扱うきらいがある。
好きに喋って、好き勝手に行動する。人の迷惑など元から考える能力がない。
きさらぎ駅のあの村で500年間もチョメチョメされていた不幸な幼女。
特記事項。彼女には悪意がない。もっとも邪悪なのは無邪気を地で行く幼女。
桐生学園、日本ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校、2年E組。
特徴
某国民的アニメ、サザエさんに登場する花沢さんを彷彿とさせる少女。
わりとフリーダムな性格で、精神的な間口が広い。チャーミングな女の子。
後述の初春晶子と仲が良い。それはもう、仲が良い。
重要。自身が認めた上で触れる者に対し、物凄い幸運をもたらす異能者。
ひと言でいうなら、あげまん。死神駆逐艦雪風の対極にいる者。
曽祖父の故郷は、さびれた漁村だったインスマスであるらしいが……。
(追加事項)
後述の初春晶子とは恋人同士。密やかな百合カップルである。ネコ。
桐生学園、日本ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校、2年E組。
特徴
昭和時代の古き良き女学生が現代に蘇ったかのような、お嬢様系少女。
前述の初霜優美と仲が良い。それはもう、仲が良い。
特殊技能は持たない。ただし、唯一初霜優美をコントロールできる凄い人。
(追加事項)
前述の初霜優美とは恋人同士。密やかな百合カップルである。タチ。
桐生学園、日本ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校、2年A組。
超巨大企業桐生グループの、次期最有力総帥候補。
裏設定では無政府資本主義を掲げて世界を呑み込み、世界征服を果たしている。
組織の目的は、現時点では開示できない。
ちなみに桐生は、きりゅうではなくきりうと読まないと不幸があなたを襲う。
イケメン一卵性双子兄弟。外見の区別はほぼ不可能。ネームド『
仕様。物語が進行するにつれ、情報が増減したり内容が書き換わったりします。
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