第15話 決着後、自宅 + 現時点での登場人物紹介 その1

 夜、自宅。


 僕は夕食を一人で済ませて食器を洗い、恵の部屋にて彼女そのものに変装した。恵はこの瞬間より、僕の記憶と精神の中から、現実の世界に蘇るのだった。


 この日の服装は、スレンダーな長袖チェックシャツと、チェーンアクセサリーがついたスキニーパンツ、ダイヤ柄のハイソックスというシンプルなコーデだった。


 一見すれば男子の恰好となんら遜色はないが、それは恵が男装に興味を持っていたためで、インナーにブラと胸パッド、ユニセックスショーツを着用した上で着るといかにも活動的な女の子の服装に様変わりするのだった。


 ナチュラルメイクを施し、男子にしては長すぎる髪の髪留めを解く。


 ああ、見よ。僕を通して、双子の妹、恵がそこにいる。


 そうしてその格好で、今や僕は恵でもあるため、彼女の自室にて学生の本分を果たすべく本日の授業内容の復習と明日の予習をきっちりこなすのだった。


 自由な校風のミスカトニック高等学校は、国内では一二を争う進学校の側面を持っている。いや、本当は進学校がメインで、自由な校風がサブなのだろうけれども。いずれ、どちらがどちらでも、僕は構わないし興味もない。


 22時に父が帰宅してきたので、僕は用意していた夕飯を整える。明日は四勤二休の休みの日に当たるというので、父の好きなビールも出した。


 本日のメニューは白ご飯、チンジャオロースと春巻き、ワカメと卵のスープ、中華ドレッシングの春雨サラダ、デザートに杏仁豆腐だった。


 父は僕を必要以外に見ないようにしていた。目が合うと、父の瞳の中には憐みと悲しみが決まって漂っていた。


 気持ちはわかる。僕が父でもそうせざるを得なくなる。わかっている。


 この突きつけられた現実、男親としてはどういう反応をしていいのか戸惑いを隠せないだろう。息子が、娘になっている。あまつさえその息子は、亡くなった双子の妹そのままに変装しているなどと。


 それゆえに父は僕に何も言わないし、何も行動を起こさなかった。


 事実上の、黙認だった。


 しかしそんな父の想いを踏みにじってでも、幼いころ母を亡くし、仕事で不在がちな父に代わって兄妹が手を取り合って家事を頑張ってきたあの日々。


 同志、戦友、双翼の片方。もう一人の自分、失われた半分。


 そう、自分自身。


 恵の残滓にすがらないと、僕が僕であると保てる自信がないのだった。


「ごめんね、お父さん」


 恵の声で僕は父に謝った。何が何にという理由もなしに。


 父は、そんな僕に目を伏せた。それだけだった。でも、それで、十分。僕は席を立ってシャワーを浴び、恵のパジャマを着て、念入りにスキンケアをする。


 そうしていつの間にか足元にまとわりついてきた黒猫姉妹のケイトとラゴと一緒に、僕は就寝した。


                             次話につづく




『現時点までの重要登場人物紹介と、判明している内容など』


愛宕恵一 本作品の主人公 16歳 男 

桐生学園、日本ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校、1年C組。

特徴

双翼の如き双子の妹、恵を愛する。超シスコン。APP16。

彼女を亡くしたことを受け入れられず、双子の自分を妹と見立てて女装する。

普通に話ができて、意思の疎通はできている。だが、正気度は……。


愛宕恵 回想シーンにのみ登場 享年15歳 女

彼女は2019年3月22日に交通事故で亡くなっている。

特徴

恵一の双子の妹。兄妹であるため二卵性双生児。見た目は兄とほぼ変わらない。

気の強い女の子。APP16。双子の兄を溺愛している。超ブラコン。

贔屓のバンドの夜間ライブに行きたいがために兄と入れ替わりを画策する。


南條公平 本作品の裏主人公 17歳 男

ミスカトニックのやべーやつ。奇人変人にして、トリックスター。

特徴

紅顔の美少年。ただし普段は道化の如くニヤニヤした笑みを常に浮かべる。

セトという名前の柴犬と常に行動をしている。ちなみにセトの性別は雄。

8つの別称を持つ。名はすべて体を成し、事実から汲み取られている。

重要。ヒロインが愛宕恵一なら、彼はヒーローに当たる。

多重積層する思惑の中、ある信念をもって最善の結果を目指し、画策する。

その行動原理・理由は、物語が進行することでやがて明らかになる。


矢矧文香 恵一くんラブの残念変態少女 16歳 女

桐生学園、日本ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校、1年D組。

特徴

ポニーテール。女性剣士。阿賀野流戦国太刀と呼ばれる介者剣術を修める。

見た目は寡黙でイケメンな王子様キャラ。女の子達の求めに応じて演じている。

その本性はお腐れさま。男の娘が大好き。恵一の女装が彼女的にドストライク。

いつか組み伏せて、イタズラから始まる逆レに持ち込みたいと考える。

重要。BLな妄想をしている間は、いかなるSAN値チェックも無効にできる。


初霜優美 ネームド『幸運ラッキーガール』 17歳 女

桐生学園、日本ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校、2年E組。

特徴

某国民的アニメ、サザエさんに登場する花沢さんを彷彿とさせる少女。

わりとフリーダムな性格で、精神的な間口が広い。チャーミングな女の子。

後述の初春晶子と仲が良い。それはもう、仲が良い。

重要。自身が認めた上で触れる者に対し、物凄い幸運をもたらす異能者。

ひと言でいうなら、あげまん。死神駆逐艦雪風の対極にいる者。

曽祖父の故郷は、さびれた漁村だったインスマスであるらしいが……。


初春晶子 初霜優美の親友兼…… 17歳 女

桐生学園、日本ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校、2年E組。

特徴

昭和時代の古き良き女学生が現代に蘇ったかのような、お嬢様系少女。

前述の初霜優美と仲が良い。それはもう、仲が良い。

特殊技能は持たない。ただし、唯一初霜優美をコントロールできる凄い人。


桐生葵 ネームド『姫君プリンセス』 17歳 学園の実質的支配者

桐生学園、日本ミスカトニック大学付属、ミスカトニック高等学校、2年A組。

超巨大企業桐生グループの、次期最有力総帥候補。

裏設定では無政府資本主義を掲げて世界を呑み込み、世界征服を果たしている。

組織の目的は、現時点では開示できない。

ちなみに桐生は、きりゅうではなくきりうと読まないと不幸があなたを襲う。


朏正義、朏正直 17歳


イケメン一卵性双子兄弟。外見の区別はほぼ不可能。ネームド『近衛騎士ロイヤルナイツ


注意。物語が進行するにつれ、情報が増減したり内容が書き換わったりします。

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