第3話 あの夏の懐かしい遊び
自転車を1列にしてこいで、近くの河川敷に行った。
あいにく、バスケットボールコートは満員御礼だ。
俺たちは顔を見合わせて、残念そうに小さく笑い合った。
その遊びが出来ないなら、別の遊びを始めるのが、あの頃の流儀だ。
河原に下りて、2人で石切りを始める。
「へぇぇ。キョウくん、今でも石切り上手いね!」
「しゃがんで下から覗き込むなよ。その目が、その、その!」
ユウキが上目遣いで俺を見ている光景。昔もあったはずなのに、可愛い女の子の容姿なもんで調子が狂う。
動揺して投げた石は、縦回転でボチャンと音を立てて、すぐに川面に消えた。
2人で腹を抱えて笑った。
これは、他人が言う中二病より、もっと幼い遊びだ。
中二病と隠してしまうこともなく、小学生のように惜しみなく恥ずかしさを前面に出していくスタイルだ。
川面が穏やかに流れる。
白い煙がたなびく。そちらを見ると、遠くでテントを張り、BBQをしている親子連れがいた。
バスケットボールをする中高生らしきグループが、元気に叫んでボールを追いかけている。
「この町は変わらないな。どこまでも自由だ」
「うん、そうかも」
俺はポツリと呟いた。しゃがんだユウキが頷く。
余裕がない男女がセカセカと歩き、車もクラクションをひっきりなしに鳴らす。あの街は何で時間に追われているんだろう。
別に都会を悪く言いたいわけではない。
この町だって、時間にルーズで、あの街に出ると叱られる田舎者がたくさんいる。
でも今は嫌なことを忘れて俺は、太陽と青い空の下、日暮れまで遊んでいたい。
遊んで……あれ……。
眩暈。
田舎の少年の気持ちではあったが、身体はあの頃ほど強くないようだ。俺は石の上に倒れた。
「
作っていた甘い声でなく、青年の声がブラックアウトする視界で聞こえた。
そうだよな。
ユウキだって、もう大人の男性になっているんだ。
何だか、あの夏の魔法が解ける瞬間だとわかっていても、俺は目を閉じたまま、薄らと涙を流してしまう。
もう戻れないあの夏の日だと分かっている。今更、ふざけて、夏休みごっこをして大人げなかった。
都会に負けて帰って来ても、母やユウキは優しく迎えてくれる。
それだけが最後の砦で、心の支えだと、勝手に俺は思っていたんだ。
「魔法……解けるなよ……」
俺が俺でなくなってしまう。
暗闇をさまよっていても、どこに帰ればいいかわからなくなる。
それだけは怖い。
「大丈夫。君の帰る場所は、私が守っているからさ」
黒い闇の向こうから、優しい声が聞こえた。
俺を否定するわけでもなく、俺を昔の、あの頃のようにただ受け入れてくれた。
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