永遠を誓う最高のプレゼント

 それから二ヶ月後。


 秋斗と茜は無事に入籍した。

 住まいはタワーマンションにした。

 秋斗は一度、京坂の姓に戻る話も出たが、このまま宗田の籍のままにした。


 将来、宗田ホールディングを継いでほしいという郷の願いでもあった。

 血筋はどうでもいい。

 家族が心から幸せでいてくれればそれでいいと郷は言った。


 結婚式は茜がしたくないと言って入籍だけになった。

 秋斗が茜と入籍したのをきっかけに、郷は霞と一緒に暮らすことにした。


 あれから霞は退院して自宅療養になった。


 住まいは茜と北斗が住んでいたマンションにした。

 郷と霞は籍は入れないまま一緒に住むことになったが、とても幸せそうである。


 幸弥と北斗はますます仲良くなって、保育園で同じ苗字になっても特に気にしていないようである。


 

「ふーっ。姉貴もやっと落ち着いてくれたね、母さん」


 霞の下に遊びに来た颯太。


「私もほっとしているわ」

「俺さ、初めて秋斗さんに会った時。嘘ついてちょっとだけ、後悔してたんだ」

「ああ、茜がアメリカで結婚したって事? 」

「そう、あの時。本当の事を言うべきなのか迷ってさぁ」

「もういいんじゃない? その嘘はバレちゃっているし」

「そうだね。姉貴が落ち着いたら、俺もそろそろかな? 」


 霞と颯太は笑い話をしている。


 秋斗と茜の入籍を知って、バーティスから祝電が届いた。

 ちょっと意地悪で「元夫のバーティスより」となっていて、秋斗も茜も大笑いした。

 バーティスはちょっとブラックユーモア―が好きらしい。

 



 それから数日後。

 茜は事務所を辞めて独立する事にした。

 事務所を介して得た仕事は全て手を引き、宗田ホールディングの顧問だけを引き受ける事にした。


「茜先生辞めちゃうの、寂しいなぁ」


 香枝が言った。


「先生、私、事務員として雇ってくれません? 」

「え? 」


「だって、先生といると。あのイケメン副社長と、会える機会が増えるじゃないですか」

「それが目的なの? 」


「だって、ここにいたら出会えそうもないですから。あんなイケメンに」


 茜はやれやれとため息をついた。




 独立した茜は、宗田ホールディングのタワーマンションの48階に事務所を設立した。

 南向きで日当たりのよい一室がちょうど空いていて、眺めの良い部屋である。

 しばらくはそれほど依頼も来ていないため、1人でもできそうだと茜は言っている。


 北斗と幸弥もまだ小さい事から、仕事よりも家庭を大切にしてほしいと秋斗に言われている茜は、殆ど家にいる事が多い。

 朝、みんなを送り出して、夕方には子供を迎えに行って、仕事から帰ってきた秋斗と郷を「おかえりなさい」と迎える。


 

 ごく普通の温かい家庭。

 茜がずっとほしかった家族ができた。



 

 

 季節は秋になった。

 秋斗と茜が入籍して3ヶ月。


 今日は茜の誕生日で土曜日。

 秋斗はいつも頑張ってくれている茜に誕生日プレゼントとして、金奈ホテルの最上級エステをプレゼントした。


 会員制で一般の人は入れないエステ。

 茜は豪華なプレゼントにとても驚いていた。


「茜にはずっと綺麗でいて欲しいからね。幸弥も北斗も、綺麗なお母さんが良いって言っているよ。遠慮なく行っておいで」

「ありがとう」

 茜は感無量だった。



 落ち着く空間の高級エステは、とても丁寧な出迎えをしてくれる。


 エステなんて考えた事がなかった茜。


 全身をマッサージしてもらって、顔も綺麗にしてもらって、ずっとたまっていた疲れもいっぺんに吹き飛ぶくらいリラックスできた茜。



 お肌もすべすべになり、すっかり若返った茜。


「お客様。本日は、特別なプレゼントをご用意しております」


 女性エステシャンがやって来た。




 茜は女性エステシャンに連れられて、ホテルの一室へやって来た。


 そこには…


「え? …」

 

 綺麗な純白のウェディングドレスがあった。

 妖精のようなふんわりしたデザインのドレス。

 胸元はレースで覆われて、綺麗な宝石がちりばめられている。

 襟の部分は丸くなっていてそこにはパールがついている。


 綺麗なドレスに見惚れる茜を、エステシャンがそっと椅子に座らせた。


「ドレス、気に入って頂けましたか? 」

「え? 」

「あのドレスは、奥様にと。旦那様が特別にオーダーしてくれたのですよ」


 嘘…。

 茜が驚いていると。


「結婚式、まだお済でないと伺っております。今日は、奥様のお誕生日プレゼントに結婚式をご用意して下さっているのですよ」


 結婚式はやらないと茜は言った。

 五年前に、秋斗と結婚の約束をした茜は、結婚式を翌月に控えた日に別れを告げられた。

 式場は全て茜がキャンセルして、キャンセル料も全て支払った。

 そのトラウマもあって、結婚式をするとまた別れを告げられてしまうのではないかと思った茜。

 そしてもう、子供もいる事だから今更、結婚式なんてしなくていいと思ったのだ。

 でも本当は。

 一生に一度、純白のウェディングドレスに身を包んでみたかったのはあった。

 入籍だけで結婚式はしないと決めて、もうあきらめていた茜。


 だが目の前に夢だったウェディングドレスがある。

 胸がいっぱいになって茜は何も言えなくなった。



「本日は、最高のスタイリストとメイクアップアーティストを連れてきています。旦那様より、世界で一番、綺麗な花嫁にしてほしいと言われておりますので」


 

 世界で一番。

 まるで夢のようである。





 ホテルのチャペル。

 祭壇の前にシルバーのモーニングに身を包んだ秋斗が、神父と一緒に待っている。


 参列者は幸弥と北斗そして霞と颯太がいる。

 みんなきちんと正装して。

 幸弥と北斗もお揃いの蝶ネクタイをして正装している。



 チャペルの扉に介添人と一緒に茜が歩いてくると、そこには黒のモーニングに身を包み正装した郷が待っていた。


 純白のドレスに頭には綺麗なダイヤのティアラをつけて、レースのヘッドドレスをつけた茜の姿に、郷は見惚れて涙ぐんだ。



「茜…」


 郷と目と目が合うと、茜は照れて視線を落とした。


「とっても綺麗だよ茜。バージンロードを、私と一緒に歩いてくれるか? 」

「…はい…」


 郷と茜はそっと腕を組んだ。



 チャペルのドアが開いて、郷と茜が入って来る。

 

「お母ちゃん綺麗…」

「お母さん、すっごーい」


 北斗も幸弥も大喜び。


「茜…本当におめでとう…」

 霞は感動して泣いている。

「姉貴、やっと夢がかなったんだね。おめでとう」

 颯太も涙ぐんでいた。




 祭壇の前で待っている秋斗は、予想以上に綺麗になった茜に見惚れてしまった。


「秋斗君。…娘を、頼むよ…」

「はい、必ず幸せにします」


 郷は秋斗に茜を引き渡すと、客席に戻った。


「茜、とっても綺麗だよ」

「有難う…こんなに素敵なプレゼントを」


「茜のドレス姿を見たかったし、2人で約束した夢を叶えたかったから。ごめんね、驚かせてしまって」

「ううん…」


 神父が誓いの言葉を読み上げて、秋斗と茜も誓いの言葉を言い合った。


 そして誓いのキスが交わされる。


 チャペルの鐘が鳴り響いて、幸せな2人の門出を祝福してくれる。



 参列者は家族だけだが、最高の結婚式になった。



 チャペルの外に出ると、ブーケトスが行われた。


 ブーケを受け取ったのは…



 なんと幸弥だった。


「え? 幸弥君なのか? 」


 颯太は自分が受け取ると張り切っていたが、幸弥にとられてしまった。


「僕まだ6歳になったばかりだよ。これ、おじちゃんにあげるね」


 幸弥が颯太にブーケを渡した。


「有難う幸弥君」


 颯太はちょっと苦笑いをしてブーケを受け取った。




 全員での集合写真。

 そして秋斗と茜の2人の写真と、幸弥と北斗も一緒の4人の写真。

 みんなば幸せな笑顔に包まれている。



 突然のサプライズプレゼントが結婚式だとは、本当にびっくりした茜。

 でもなんだかこれで、本当に家族になれたような気がすると思った。



 5年前。

 幸せな結婚を目前として、突然別れを告げられた茜。

 両親の為に契約結婚を選んでしまった秋斗。


 それぞれ別の道へ進み離れていた5年。

 しかしまさかの再会から、運命はまた引き合う方向へを進んでいった。

 アメリカで結婚したと嘘をついた茜。

 その嘘もあっけなくバレてしまった。

 契約結婚していた秋斗は、ずっと茜を忘れないまま想い続けていた。

 茜と再会してその想いは膨らむばかりで、抑えられなくなった。


 本当の自分の気持ちに正直になると決めたら。

 2人運命は急加速して、最後には子供達がキューピットになってくれて。

 秋斗と茜は無事に結婚することが出来た。

 そして茜の夢だった「家族」が手に入った。

 心も体も繋がっている強い愛が、本当の幸せを掴ませてくれたのだろう。


 契約結婚の渦中だった、秋斗の母アキ今は退院して施設に入っている。

 施設にいた父は2年前に亡くなっている。

 アキは施設で楽しく暮らしていて、茜との結婚には心から祝福してくれている。



 時々、幸弥と北斗を連れて秋斗と茜はアキに会いに行っている。



 雪乃のお墓は紗矢が護っている。

 年に2回ほどは、秋斗も来てくれて現状を報告してくれている。

 結婚してからは茜も来てくれて、2人で雪乃にお礼を言っている。


 今日も清々しい良い天気。

 部屋の中で楽しく遊んでいる幸弥と北斗。


「寒くなってきたわね。もうすぐ冬が来るのね」


 窓の外を見て、茜が言った。


「ここは冬になるとちょっと寒いよ。暖房とファンヒータつけてても、風が冷たいから」


 茜の隣に来て秋斗が言った。


「ねぇ秋斗。実はね、報告があって」

「え? 何? 」


 茜はちょっと照れたように笑いを浮かべて、秋斗の手をとった。


「あのね、幸弥君と北斗に…妹か弟ができちゃったの…」


 そう言って、茜はそっと秋斗の手をお腹にあてさせた。


「本当? 」

「うん、もう3ヶ月だって言われたの。気づかなくて、ごめんね」

「なんで謝るんだよ」


 秋斗はギュッと茜を抱きしめた。


「今度はちゃんと、出産に立ち会うからね。一人で頑張らなくて、いいからね」

「うん」


「おかあちゃん」


 北斗と幸弥がやってきた。


「幸弥、北斗。来年の夏くらいにもう一人家族が増えるぞ」

「え? 」

「本当? 」


「ああ、お母さん赤ちゃんができたんだって」

「わーい」


「男の子? 女の子? 」

「まだ判らないよ」


 幸弥と北斗は茜のお腹に触れてみた。


「赤ちゃん楽しみだね」

「早く会いたいな」



 喜んでいる幸弥と北斗を見て、茜もホッとしている。



 とっても仲が良い家族。

 その血の繋がりはちょっとバラバラだけど、不思議な絆が産まれた。


 幸弥は秋斗が雪乃に捧げた3年という36ヵ月で、絆が深まった家族。

 そして北斗と茜は、秋斗が捧げる永遠できずなが深まった家族。


 どちらの年月も、とても大切な時間だった。

 新しく生まれてくる子供は、どんな絆を深めてくれるのだろうか?


 これからの時間もとても大切で楽しみな時間である。



 僕から彼女への36ヵ月と僕から君への永遠…


 END

 

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僕から彼女への36ヶ月と僕から君への永遠 紫メガネ @ayasatorin

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