第5話 僕の欲しい物と最後のプロポーズ

 すっかり夜になり。

 夜景の綺麗なレストランで秋斗と茜はディナーを楽しんだ。

 お互いアルコールは控えたくてシャンパンを飲んだ。


「素敵な場所ね。夜景がとっても綺麗」

 窓の外に見える夜景に茜は見惚れている。


「ここは2年前に建ったばかりなんだ。僕も、一度も来た事がなかったよ」

「そっか、2年前じゃ知らないわね。日本にいなかったもの」

「ねぇ茜。食事が終わったら、最上階の展望台に行こう」

「うん」


 最上階の展望台は24時まで営業していて、土曜日夜はオールナイトで営業している。


 ここから見渡す風景は、まるで空の上にいるようで宇宙を飛んでいるような感覚になる。


「すごく綺麗…。プラネタリウムみたいね」


 ガラス一面の窓の外には星が綺麗に輝いている。

 茜はすっかり感動していた。

 茜が外の景色に感動していると、秋斗がギュッと手を握って来た。


 ハッとして茜は秋斗を見た。


 他にはちらほらとカップルが複数いる。

 そんな中、いつもより熱い目で秋斗が茜を見つめている。

 驚く茜だが、鼓動はドキドキとうるさいくらい高鳴っていた。


「茜…」


 名前を呟いた秋斗の目が潤んだ。

 その目を見ると、茜の目も潤んできた。


「…僕のこの先の永遠を、茜に捧げたい…」

「え? …」


「僕と、結婚して下さい」

 

 なに? まさかのプロポーズ?  

 見つめている秋斗の頬に涙が伝った。

 それを見た茜の頬にも涙が伝った。



 そんな2人を通り行くカップルが見つめた。


「私で…いいの? 本当に…」

「なんで? 僕には十分…いいや、勿体ないくらいだよ」


「…この指輪に、ずっと願っていたの。本当は、もう一度秋斗に会わせて欲しいって。愛してもらえなくてもいいから、会いたいって…」

「愛さないわけないじゃないか。宇宙で一番、愛している人だもん」


 ギュッと、秋斗は茜を抱きしめた。


 通り行くカップルが秋斗と茜を見て、感動して泣いていた。


「良かった…」

「おめでとう! 」

「幸せになってね」

「いいな~私はいつなのかな? 」


 見知らぬカップルからお祝いされて、茜は照れていた。


「茜。ごめんね、5年も待たせて」

「ううん…」

「これが、最後のプロポーズだから」

「はい…」

 胸がいっぱいで、茜は何も言えなくなった。


 窓から見える一面の星空が、2人を優しく見守っているようだ。


 


 

 それから。

 秋斗と茜がタワーマンションに戻って来たのは21時を回る頃だった。

 

 茜は北斗に着替えを買ってきて渡した。


「お母ちゃんはと泊まらないの? 」

「お母さんは、帰るわ」

「どうして? 」


 北斗は秋斗を見た。


「茜も泊まって行けばいいじゃないか」

「でも…」


「隣りの部屋を使えばいいよ。幸弥と北斗君は、こっちで寝れるから」


 茜はそっと郷を見た。

 郷は快く頷いてくれた。


 隣の部屋には。

 いつも幸弥と秋斗が寝るだけに帰る部屋は、あまり荷物が置いてない。

 寝室とリビングにソファーとテレビが置いてあるだけである。


 

 結局、茜も泊まる事になって。

 今日は秋斗の寝室で一緒に寝る事にした。


 お風呂も済ませて気がつけば23時を回っていた。


 一緒のベッドに入って、秋斗と茜はギュッと抱き合った。


「ねぇ、まだ幸弥君に話していないけど。大丈夫なの? 」

「心配する事ないよ、幸弥も茜の事は気にっているし。北斗君は大丈夫かな? 」

「北斗は特にお父さんの話しは、一度もしたことがないの。お父さんは? とも聞かない子だから」

「そっか。子供達には、また追々話せばいいよ。反対はしないから」

「そうね」


 チュッと、秋斗は茜の額にキスをした。


「茜…愛している…もう離れないよ…」

 

 お互いの唇が重なる…。

 感じるキスはとても心地よい。

 もう何も遮るものはない。

 本当の気持ちで向き合えるから。


 お互いが産まれたままの姿になっても愛しくてたまらない。

 見つめ合って、微笑み合って、キスをして。

 感じる体温が心地よい。



 すれ違って離れていた5年。

 結婚しているって嘘をついて、ちょっと不倫のふりをしてみた茜もいた。


 だけど。

 またプロポーズしてくれた秋斗。

 夢じゃなく本当に愛する人が目の前にいて感じられる喜び。


「茜、もうこれしなくていいいよね? 」


 秋斗が見せたのは男性用の避妊具だった。


 茜の家では、ちゃんとしてくれていた。

 けど…


「うん。いらない…」

 

 何も遮らない

 そのまま、ありのままを受け入れてほしい。


 ギュッと抱きしめ合ってまた1つになれる。

 その喜びと感動は言葉にならない最高のエネルギーだった。




 翌日。

 茜は朝ご飯を作った。

 幸弥は朝から和食が用意されていて大喜び。

 北斗はお気に入りの卵焼きを食べて喜んでいる。

 お味噌汁も具沢山。


「お味噌汁に、こんなに沢山の具が入っているのは初めてだよ。とても美味しい」

 郷も大喜びで食べている。

「おかあちゃん、のりは? 」

「はい」

 お皿の上に切った焼きのりをだして、北斗に渡す茜。

「あ、焼きのりいいね。これ、こうやって醤油につけてご飯食べると最高に美味しんだ」


 秋斗も喜んでいる。


「お父さん、僕の誕生会だけどね。今日やろうかって、お爺ちゃんと話してたんだ」

「今日? 幸弥の誕生日は来週だよ」

「うん。そうだけど、せっかく北斗君も北斗君のママも来てくれているから早めにやろうか? って話していたんだ」

「そっか。それでもいいな、昨日、プレゼントも買っておいたから」

「じゃあ、朝ごはん食べたら。ケーキ買いに行きたい」

「ああ、そうしよう」


 幸弥と北斗は顔を見合わせてニッと笑った。



 朝食を済ませてから、秋斗と茜、幸弥と北斗、4人で近くの大型スーパーに買い物に出かけた。

 食材を買いながら、茜はケーキのスポンジに目を止めた。


「ねぇ幸弥君。ケーキ、手作りでもいい? 」

「え? 作ってくれるの? 」


「うん。北斗の誕生日は、毎年手作りケーキなのよ」

「わぁー。じゃあ僕も一緒に手伝っていい? 」


「え? 幸弥君の誕生日じゃない」

「でも僕、作る事大好きだもん」


「そう? じゃあ、一緒に作ろう」

「うん。じゃあ、果物も入れて」


 スポンジをかごに入れると、幸弥は茜の手を引いて果物売り場へ連れて行った。




 残された北斗は、秋斗の袖を引っ張った。


「ん? どうしたの? 北斗君」

 北斗はじっと秋斗を見つめている。

 なんとなく、秋斗は北斗を抱っこした。


「どうしたんだ? 何か欲しい物があるのか? 」

 抱っこされると、北斗はまたじっと秋斗を見つめた。

「…お父さんに、なってくれませんか? 」

「え? 」

「僕の、お父さんになってほしいの」


 いつもどこか冷めたような目をしている北斗が、少し潤んだ目で秋斗を見つめて言った。


 そんな北斗が愛してくて、秋斗はギュッと北斗を抱きしめた。


「北斗…大丈夫だよ。僕は北斗の、本当のお父さんだから」

「やっぱりそうなの? 」

「え? 」

「僕、初めて会った時からずっと思っていたんだ。僕のお父さんだって。でも、幸弥君の父さんって言うから、変だと思っていたんだ」

「北斗…」


 愛しくてたまらない。

 秋斗は胸がいっぱいになった。


「お父さん、僕ね。お菓子が欲しいから、買ってくれる? 」

「ああ、何がいいんだ? 」


 秋斗は北斗を抱っこしたまま、お菓子売り場に行った。



 果物を一緒に選んでいる茜と幸弥は大喜びしている。

 不思議と、茜と幸弥の好みは同じだった。


「北斗君のママって、僕と好きな物一緒なんだね」

「そうね、嬉しいなぁ」


「ねぇ、北斗君のママ。僕ね、お誕生日プレゼントに欲しい物が1つあるんだ」

「え? 何が欲しいの? 」


 幸弥はじっと茜を見つめた。


「あのね…。僕、お母さんが欲しいの」

「え? …」


「北斗君のママ。僕の、お母さんになって下さい」


 見つめる幸弥の目がとても真剣な目で。

 茜は一瞬ドキッとした。


「だめ? 」


 少し不安な目で見つめる幸弥。

 茜は胸がいっぱいになって、幸弥をギュッと抱きしめた。


「私がお母さんでもいいの?  」

「うん。だって、初めて見た時からずっと。お母さんになってほしいって思っていたもん」

「ありがとう、幸弥君」


  子供達には追々に話せばいいと言っていた。

 だが、子供の方から言われてしまい。

 茜も秋斗もなんだか不思議な気持ちだった。




 買い物を済ませてタワーマンションに戻ると、茜と幸弥はケーキ作りを始めた。

 スポンジに生クリームをぬって、切った果物を幸弥が好きなようにトッピングしている。


 楽しそうな幸弥と茜を見ていると、本当の親子の様である。



 秋斗と北斗は、お菓子についていたプラモデルを一緒に作っていた。

 北斗は戦隊ものにはまっているようだ。



 出来上がったプラモデルを見て、北斗が大喜びしている。

 秋斗は手先が器用で、プラモデルなどを作るのが得意である。


 茜と幸弥、秋斗と北斗、それぞれ笑い合っている姿を見て郷はとても安心した。


 何も言わなくても自然と引き合ってゆくのは、もしかしたら雪乃が導いてくれているのかもしれないと郷は思った。


 料理もできてケーキもできて。


 幸弥の誕生会が始まった。

 おめでとうと祝福してもらい、幸弥は大喜び。


「幸弥おめでとう。これ、お父さんからのプレゼントだよ」


 秋斗が幸弥に時計をプレゼントした。


「この目覚まし時計を使って、ちゃんと朝起きれるようになるんだぞ」

「有難う、お父さん」


「はい、これは私から」

 茜は鞄をプレゼントした。

「来年は小学生だから。この鞄に大切な本など入れてみてね」

「カッコいい。有難う…お母さん」


 お母さんと呼ばれて、茜は驚いた。

 秋斗はそっと幸弥を見た。


 北斗と幸弥は顔を見合わせてニコッと笑った。


「北斗君のママね、僕のお母さんになってくれるって言ってくれたんだよ。だから、今日からお母さん。そして、北斗君は僕の弟になるんだよ」

 

 秋斗は茜を見た。


「あ、ごめんなさい。さっき、買い物してた時に。幸弥君に、欲しい物があるって言われて。お母さんになってって言われたの」

「へぇー。偶然だね、僕も北斗君にお父さんになってって言われたよ」

「え? そうなの? 」


 秋斗は何となく何かを悟ったようだ。


「そっか。子供達も、ちゃんと受け入れてくれているんだね。安心した」


 秋斗は幸弥と北斗を見た。


「幸弥、北斗君。僕達はね、結婚する事に決めたんだよ」

「え? 本当? 」


 幸弥と北斗は顔を見合わせてニコっと笑った。


「ごめんね。幸弥にも北斗君にも、ちゃんと話してからって思ったんだけど。先にプロポーズしちゃったんだ」

「わぁーい! 嬉しい」

「お母ちゃん、お父さんが出来るんだね。僕も嬉しい」


 幸弥も北斗も大喜びしている。


「これは、これは。おめでたい事が二重になったようだね」


 郷も大喜び。


「今日は僕の誕生日と、お父さんとお母さんの結婚記念日のお祝いだね」

「お母ちゃん、おめでとう」


 どうなるかと心配したが、案外、子供の方が気に入っていたようだ。

 幸弥の誕生日はとても最高の誕生日になった。

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