幸弥と北斗
それから数日後。
秋斗は仕事を早めに終わらせて息子の幸弥を保育園に迎えに来た。
金奈保育園。
幸弥は年中さん。
雪乃に似た顔立ちで、わりと大きな体つきをしていて、しっかりしている。
秋斗が迎えに来ると、他の園児のママ達は秋斗に注目してしまう。
30歳になった秋斗だが、昔と変わらないままのイケメン。
ママ達は秋斗に見惚れてしまうくらいである。
「パパ」
幸弥が秋斗に駆け寄って来た。
「幸弥、遅くなってごめんね」
「ううん、今日はパパが来てくれるから楽しみにしてたんだ」
幸弥は靴を履いた。
「あ、北斗(ほくと)君。僕先に帰るね、また明日ね」
秋斗は北斗と呼ばれる園児を見た。
北斗と呼ばれれる園児は、ちょっと大人びた顔立ちでカッコいい顔をしている。
目元はクールだが全体的に見て可愛い系。
まだ幼い顔をしているが、大人の雰囲気が強く出ている。
幸弥より少し小さい北斗。
「幸弥君、また明日ね」
笑顔で手を振る北斗。
その笑顔を見て、秋斗はドキッとした。
そして何となく秋斗は北斗の事が気になった。
秋斗と幸弥が門から出てくると。
一台の高級車が止まった。
そこから降りてきたのは茜だった。
紺色のスーツに身を包んだ茜は、急いで門までかけてきた。
秋斗と幸弥に気付かず入っていく茜。
「あ、北斗君のママだ」
「え? 」
「北斗君のママ、弁護士さんなんだって。今年からここの保育園に、入って来たんだよ。北斗君は僕より1つ下で、年少さんだよ」
北斗が茜の子供だと聞いて秋斗の胸がざわついた。
その日は、そのまま幸弥を連れて秋斗は帰って行った。
茜の子供の北斗。
言われてみれば目元は茜と似ている。
でも髪は黒くてサラサラだった。
クールな目元で可愛い系。
そんな北斗を見て、秋斗は父親はどんな人なんだろう? と思った。
遅い時間に慌てて茜が迎えに来ていた。
他に迎えに来てくれる人はいなかったのだろうか?
そんな事を秋斗は考えていた。
日曜日。
お天気がいい日曜日は、幸弥を連れて公園にやってくる秋斗。
ラフな格好もイケている秋斗。
「あ! 北斗君だ! 」
ブランコに乗って、男の人に背中を押してもらっている北斗がいた。
「北斗君! 」
幸弥がブランコまできた。
「あ、幸弥君」
「北斗君。一緒に遊ぼう」
「いいよ」
北斗は男性を見た。
「おじちゃん、幸弥君と遊んでいい? 」
「ああ、いいよ」
喜んで幸弥と北斗は滑り台へ駆けて行った。
「こんにちは」
秋斗は男性に声をかけた。
「こんにちは」
男性は爽やかに挨拶を返した。
「幸弥の父親で、宗田秋斗と言います。よろしくお願いします」
「ああ、幸弥君のお父さんでしたか。俺は、北斗の伯父で笠原颯太(かさはらそうた)です」
「伯父さんですか? 」
「はい、姉の子供なんで」
そう言えば茜には2つ下の弟がいた事を秋斗は思いだした。
会った事はなかった。
ずっと海外に留学していて日本にはいなかった。
「幸弥と北斗君、とっても仲が良いみたいです。保育園でも仲良く遊んでいます」
「そうなんですね。俺、最近アメリカから帰って来たんで良く分らなくて」
「あの、お姉さんは今日はどうしたんですか? 」
「姉貴は仕事です。日曜でもボランティア的な仕事しているんです。無料相談って奴ですが」
「そうなんですね。北斗君のお父さんは? 」
ん? と、颯太は秋斗を見た。
「あ、お父さんは今日はお仕事なんですか? 」
「北斗の父親は、アメリカにいます。向こうで仕事をしているので」
「アメリカ人なんですか? 」
「うーん。ごめん、俺も詳しくは分からないんだ。姉貴がアメリカにいた時に、結婚したと聞いただけだから。ほとんど姉貴とは別々で暮らしていて、詳しい事は分からないんです。俺も、詳しく知りたいわけじゃないし」
「そうでしたか」
「俺はずっとアメリカで弁護士やってたんだけど、日本でも活躍したてくて、しばらく戻ってきているだけなんです」
「そうだったんですね」
茜が名字がそのままなのは、アメリカ人と結婚しているからか。
それにしては北斗君は純粋な日本人の顔をしているけど?
そんな事を思いながら、秋斗は幸弥と北斗が遊んでいる姿を見ていた。
お昼になり、颯太は北斗を連れて帰ることにした。
「北斗君、お昼どこで食べるの? 」
幸弥が訪ねると、北斗は颯太を見た。
「お昼は、今日はコンビニでおにぎりを買う予定だよ」
「コンビニのおにぎりなの? じゃあ、僕のおばあちゃんが作ってくれた、おにぎり一緒に食べようよ。沢山作ってくれたから、北斗君と伯父さんの分もあるよ」
「え? そんなにいっぱいあるの? 僕も食べたい! 」
「北斗、今日はコンビニで買いなさいってお母さんに言われているよ」
「でも僕、幸弥君ともっと一緒にいたい」
「そうか…困ったなぁ…」
「あの、良かったら家に来ませんか? ここからすぐ傍にある、マンションなんです。コンビニでおにぎりを買うなら、どうせ沢山つくってあるので、是非うちので良かったら食べて下さい」
颯太はどうしようか迷ったが、北斗が嬉しそうな顔をしているのを見ると、甘えてもいいのかもしれないと思った。
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします」
「わぁーい! 」
幸弥は大喜びで北斗の手を引いて歩き出した。
すぐ傍のマンションと言われてやって来たのは、タワーマンソンの最上階で颯太は驚いた。
現在、秋斗は郷と紗矢と同居している。
1人で幸弥を育てようとしていたが、仕事をしながらでは大変だと言われて、幸弥が小学生になるまでは同居する事になっているのだ。
最上階には2室ある。
片方は秋斗と幸弥が住んでいて、殆ど寝るために帰るくらいの部屋である。
片方は郷と紗矢の住んでいる部屋で、一緒にご飯を食べている。
「おじいちゃん、おばあちゃんただいま。お友達連れて来たよ」
幸弥が大喜びで、北斗を郷と紗矢の下に連れて行った。
「お帰り幸弥。お友達ができたのか? 」
郷が笑顔で北斗を見た。
すると、郷の表情が変わった。
「あら、可愛いお友達ね」
紗矢が北斗の頭を撫でてくれた。
「北斗君って言って、同じ保育園で僕より1つ下なんだよ。公園で遊んでいたら、会ったんだ。お昼ごはん、コンビニで買うって言ってたから。連れてきたんだよ、おばあちゃんが沢山おにぎり作ってくれてるから」
「そうだったのね、さっ北斗君。ここに座って」
食卓の椅子にクッションを敷いて高くしてくれた紗矢。
「すみません、お邪魔します」
颯太が挨拶をした。
「おや、北斗君のお父さんかい? 」
「いえ、俺は北斗の伯父です。北斗は姉の子供なんです」
「ほう、お姉さんの? 」
「はい」
「お父さん。北斗君のお母さんは、笠原先生ですよ」
え? と、郷は驚いた。
「前に保育園で、北斗君を迎えに来たのを見ましたから」
「笠原先生の…そうだったのか…」
仲良く幸弥と北斗がおにぎりを食べている姿を、郷はじっと見ていた。
お昼をご馳走になり、颯太は北斗を連れて帰ろうとしたが、幸弥がお部屋で一緒に遊ぼうと北斗を引き止めた。
幸弥の家には、もちゃがいっぱいある。
北斗は電車のおもちゃを気にってしまったようで、何度も遊んでいる。
「北斗君、電車好きなんだね」
「うん、僕のお爺ちゃんが新幹線の運転手だったんだ」
「え? すごーい。お爺ちゃんカッコいいね」
「うん、おばあちゃんは弁護士さんだったんだよ。お母さんは、おばあちゃんの事見てて弁護士になったんだって」
「すごいなぁ、北斗君の家って」
「すごいの? 僕の家」
「うん。そうだ! 北斗君のお父さんは? 何しているの? 」
「お父さん? 知らない」
「え? 」
北斗は電車に夢中になり、それ以上は何も答えてくれなかった。
お父さんの事を知らないと答えた北斗を見て、秋斗は疑問を抱いた。
いくらなんでも父親が、アメリカにいる事くらいは知っているんじゃないか?
疑問を感じながらも、可愛い北斗を見ると胸がいっぱいになった秋斗。
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