第2話 5年後…元カノとの再会…
5年後。
金奈市は変わらないままだった。
ただ変わったのは…。
雪乃は言った通りあれから3年経過する頃に闘病の末亡くなった。
そして雪乃の子供の幸弥(ゆきや)が産まれて今年で5歳になる。
男の子の幸弥はちょっと変わった子で、子供にしてはとても冷静で大人びていた。
秋斗にすごくなついて慕っている。
顔立ちは雪乃に似ているようだ。
宗田ホールディングは現在も郷が社長のままで、秋斗が副社長として動いていている。
雪乃からは3年の契約結婚と言われたが、幸弥がいる事で未だに契約は続いている。
秋斗の母アキ江は無事手術を終えて現在はリハビリ病棟で頑張っている。
そして父の優斗は現在は介護施設で安泰した生活を送っている。
30歳になった秋斗は変わらずイケメンのままであるが、ずっと本当の笑顔を見せないままいつも作り笑いをしている。
いつものように仕事をしている秋斗。
一息ついて休憩のため、カフェへ向かう為部屋を出る秋斗。
エレベーターへ向かう為歩いていると。
「ん? 」
前方から茶色いスーツに白のブラウスに黒いヒールを履いた、ショートボブのキャリアウーマン系の女性が歩いて来た。
スーツの襟元には弁護士のバッジがついている。
エレベーターの前でボタンを押す秋斗の後ろを、その女性が通り過ぎた。
その瞬間。
秋斗はハッとして振り向いた。
一瞬だけ顔が見えて、秋斗は驚いた。
女性は振り向くことはしないでそのまま歩いて行った。
「まさか…茜? 」
女性は社長室をノックした。
「失礼します」
そのまま社長室に入っていく女性。
「あの声は間違いない、茜だ。どうして…」
茫然と見つめたまま、秋斗は驚きのあまり頭が混乱していた。
カフェで一息ついて、秋斗が戻ってくると丁度、郷とさっきの女性が歩いて来た。
「秋斗君。ちょうど良かった。君に紹介するよ」
近くで見る女性は…茜だった。
5年前よりほっそりとしてキャリアウーマンになってしまった茜の姿に、秋斗は見惚れていた。
「こちら、顧問弁護士になってもらった。笠原茜さんだ」
笠原茜と聞いて、秋斗は茜がまだ結婚していない事に気付いた。
「君も会った事があるかもしれない。笠原先生は、5年前まで我が社にいた社員だ。退職して弁護士になったそうだ。我が社の事も良く知っているから、安心だ」
秋斗は茜をじっと見つめた。
茜はそっと目を反らしたまま、秋斗と目を合わそうとはしなかった。
「笠原先生は3年間アメリカで修業して、国際弁護士としても活躍している。我が社のアメリカ支社の顧問でもあるんだ」
「そう…なんですね…。初めまして、宗田秋斗です…」
秋斗の目が潤んだ。
養子として雪乃と結婚した秋斗は名字が変わり宗田になっていた。
茜に宗田と名乗るのは初めてだ。
「初めまして。笠原茜です。よろしくお願いします」
淡々と挨拶をする茜。
だが…左手の薬指に指輪がはめてあるのを秋斗は見た。
結婚指輪にしてはちょっと違う。
「先生、秋斗君は副社長だ。私の後継者として頑張ってくれているよ」
「そうなんですね、素敵な方で頼もしいですね」
まったく何も動揺していない茜。
秋斗はそっと視線を落とした。
挨拶を交わしただけで、茜は帰って行った。
副社長室に戻ってきた秋斗は、引き出しにしまってある写真を手に取った。
それは5年前に茜と写した写真。
茜の左手の中指には婚約指輪がはまっている。
「茜も結婚したんだ。そうだよね、もう5年。僕の事なんて、忘れていて当り前だ。名字はそのままなのは…もしかしたら、お婿さんをもらったのかもしれないね」
秋斗は引き出しに写真をしまった。
「念願の弁護士になったんだ。夢を現実にしたんだね…。時が止まっているのは、僕だけなのか? 」
窓の外を見て、秋斗はため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます