最後に愛し合って終わろう…
その後。
秋斗が自宅に戻ったのは23時を回っていた。
一人で考え事をしていた秋斗は、暗い公園で1人ベンチに座っていた。
ぼーっとしていて気づいたら23時を回っていたのだ
秋斗の自宅は住宅街にある3LDKのアパート。
3階の端。
玄関はおしゃれなドアで、鍵はカードキー。
鍵を開けて玄関に入ると、黒いパンプスがあった。
茜の靴だ。
「茜」
秋斗は急ぎ足でリビングに向かった。
リビングでは茜がソファーでウトウトしていた。
「茜! 」
声をかけられると茜はハッと目を覚ました。
もう入浴も済ませてパジャマ姿の茜。
「秋斗、大丈夫? 随分と遅かったのね? 」
心配している茜に秋とは歩み寄ると、ギュッと抱きしめた。
「秋斗? どうしたの? 」
返事もしないで、秋斗は茜の唇にキスをした。
息継ぎもできないくらい激しい深いキスを繰り返され、茜は驚いてキョンとなった。
「秋斗? 何かあったの? 」
尋ねる茜に返事もせず、秋斗は茜を抱きかかえ寝室へ向かった。
シンプルなシングルベッドに枕が2つ。
秋斗は茜をベッドに寝かせると覆いかぶさり、また深いキスを繰り返した。
言葉よりキスを…
そして茜の服を脱がしつつ、自分も服を脱いで行く秋斗…。
「茜…愛している…」
茜の首筋に唇を滑らせながら秋斗は言った。
いつも以上に激しい秋斗に、茜は言葉が見つからなかった。
何度も、何度も茜に「愛している」と言って秋斗は激しく茜を抱いた。
茜は黙って秋斗を受け止めてくれていた。
だが秋斗からいつもと違う何かを感じるとは思っていた。
その夜。
秋斗は茜をギュッと抱きしめたまま眠った。
茜も秋斗に寄り添って眠っていた。
このまま時間が止まってしまえばどんなにいいか。
この気持ちにこれからは蓋をしていかなければならない。
そう思うと秋斗は苦しかった。
翌日の土曜日。
秋斗は約束通り茜に婚約指輪を買った。
茜の気にった可愛いダイヤの付いた指輪だ。
婚約指輪だが(永遠の愛を秋斗)と英文字で入れてもらった。
(この指輪に、僕の本当の気持ちを封印しよう)
秋斗そうは決めた。
茜の好きな物を食べて、行きたい場所に連れてゆき。
楽しい時間はアッとあいだに過ぎてゆき。
気づいたら夕方になっていた。
綺麗な夕日が見る橋の上。
水面に夕日が写てキラキラしている光景を見ると気持ちがホッとさせられる。
「茜」
夕日を見ている茜に秋斗が声をかけた。
「なに? 」
いつもと変わらない笑顔で秋斗を見る茜。
秋斗は茜をじっと見つめて意を決した。
「茜。僕達…別れよう…」
はぁ? と、茜はポカンとした顔をしている。
「ごめん。他に好きな人ができたんだ。だから、茜とは結婚できない」
茜は信じられない顔をして秋斗を見ている。
「今日買った指輪は。婚約破棄をした慰謝料代わりに、受け取ってほしい。僕の家は、お金持ちじゃないから。茜に満足するお金を支払う事は、できないと思うから」
まっすぐに茜を見つめている秋斗。
だが、その目はどこか遠くを見ているようだった。
「秋斗の心から、愛せる人なの? その人は」
以外にも茜は冷静に言った。
「ああ…心から愛せる人だ」
秋斗の遠い目が更に遠くなったのを、茜は見逃さなかった。
「そう。分かった。秋斗が心から愛せる人なら、安心した。今までありがとう」
冷静なまま茜は微笑んだ。
その微笑みは夕日に照らされてとても美しくて。
秋斗はズキンと胸が痛んだ。
「ねぇ秋斗。1つだけ約束してくれる? 」
「え? 」
「秋斗の事を、世界で一番幸せにできるのは。秋斗だけだよ。だから、これからも自分を大切にしてくれるって約束してね」
自分を大切に…。
そう言われると秋斗の心に迷いが走った。
「じゃあ、私は行くね。これからも、秋斗の幸せを祈っているから。本当にありがとう」
そっと微笑んで、茜は去って行った。
「茜…」
行くな! と叫ぶ秋斗が居る。
でも立ち止まったまま秋斗は動けなかった。
本当の気持ちに蓋をするために、自分で足かせをつけたのだ。
別れを告げても泣かなかった茜は強い女性だからなのだろうか?
それとも笑顔の下に涙を隠していだのだろうか?
遠ざかってゆく茜が見えなくなると
秋斗の頬に涙が伝った。
「ごめん茜。…茜を愛する気持ちには、蓋をして生きてゆくよ…」
そう呟いて秋斗は反対側に歩いて行った。
夕日は変わらず輝いている。
この夕日の下で辛い別れをした2人がいるのに。
時は変わらず流れてゆく… …
秋斗から別れを告げられてから、茜は会社に来なくなった。
初めは病欠していると言われていたが、しばらくすると退職したと聞かされた。
その後の茜の行くへは誰も知らないままだった。
秋斗はトントン拍子で雪乃との結婚を進められていった。
幸せそうに見える秋斗と雪乃の結婚。
結婚式は行わず入籍だけ済ませる事にした秋斗と雪乃。
秋斗は養子に行くことになり京坂から宗田に名字が変わった。
そして3ヶ月すると秋斗は副社長に昇格した。
周りは驚いていたが雪乃と結婚したなら次期社長は約束されていると納得はしていた。
雪乃と結婚して。
秋斗は心から笑う事がなくなった。
自分の気持ちに蓋をした秋斗は、表情を表に出さなくなり。
口数も少なくなっていった。
秋斗が副社長になって少しして雪乃の子供が産まれた。
元気な男の子で幸弥(ゆきや)と名付けられた。
秋斗と雪乃と幸弥の三人で写された写真。
そこに秋斗の笑顔はなかった。
契約結婚と言われた家族ごっこがこれから始まろうとしている… …。
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