消えゆく命と大金と…

「私、今妊娠しているんです。もう六ヶ月。結婚を約束していた人は、事故で亡くなってしまって。1人で育てようと思ったのだけど。乳がんが発覚してしまったの」

「乳がん? 」


「ええ。子供を産めば、余命はないと言われたの。でも、私にはこの子を殺すことはできない。愛した人の大切な子供だから。でも、この子を産んだら私は育てられなくなる。きっと治療ばかりで寝たきりになるか、そのまま命を落とすかもしれない。それで、この子の父親が必要なの。だから、貴方に父親になってほしいの」


「そんな…なんで僕なんですか? 」

「今、私が好きだと思える人は貴方しかいないから。悪くない話でしょう? 結納金5000万もらえたら、お母さんも助かるし、お父さんも安心して施設にいられるのよ」


「でも…」

「断ったら、貴方はこの会社にもいられなくなるわよ。それでも、いいの? 」


 まるで脅迫に近いやり方だ。

 どうにでも断れない状況を作り出してしまう。

 これが金持ちのやり方なんだ

 秋斗はそう思った。


 だが母を助けたい気持ちは大きく、父を安心させてあげたい気持ちも大きい秋斗。


「ねぇ、悪い話じゃないでしょう? 将来は安泰するもの。私といるのも、3年もないのよ。3年間の契約結婚を5000万もらってするだけよ、迷う事はないともうの」

 

 5000万で3年間の契約結婚? 


 秋斗の本音はふざけるな! だった。

 だが、父と母を想うとその言葉は言えなかった。


「…分かりました。…その話し受けます」


「本当? 嬉しい! 」


 雪乃は秋斗の手をギュッと握った。


 茜…ごめん…。

 秋斗は心でそう呟いた。


「有難う京坂君。では、これを君に渡すよ」


 郷は小切手を秋斗に渡した。

 5000万の小切手。


 これが運命を大きく変えてしまった。

 この日から秋斗は自分に嘘をついて生きる人生を選んだ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る