第4話
地球沖90万キロ 第18国連特別任務部隊
敵艦接近に察し、即時出撃命令が出たシリウス級及びプロメテウス級は軌道上で第18任務部隊を編成、さらに軌道公試中だった日本国防軍艦隊を半ば強引に接収し、最新鋭の長門型戦艦blockⅢを艦隊に含め、一路敵艦隊を目指していた。
旗艦 シリウス級大型指揮戦艦 シリウス
参謀本部はこの艦隊に英国宇宙軍のサー・ジョンストン・ハミルトン中将を司令につけ、月軌道以遠での迎撃を命令した。
「とは言ってもね……参謀本部も人使いが荒い。退役寸前の私を出さんでもいいだろうに。」
「閣下はこのような小規模艦隊運用のスペシャリストじゃないですか。それを見越して司令部は閣下をご指名になられたんですよ。」
「とは言ってもねぇ、いつもは護衛が対艦一辺倒の駆逐で困るんだけど、こういう駆逐が大活躍しそうな時に限ってコルベットだからねぇ……」
「プロメテウス級の対艦兵装は10cm単装砲が5基、対艦対空両用ミサイル発射管16基だけですね。」
「これが駆逐艦なら12.7cm連装砲を初めに対艦兵装がてんこ盛りなんだがねぇ……」
「まぁ愚痴を言っても始まりません、それより敵艦隊の精密な軌道が観測出来ました、対艦機雷戦の開始を宣告ください。」
「しょうがない、やるしか無いなら全力で行くぞっ!電波管制解除!司令部に会敵打電!即時発令!『我敵射程圏内ニ侵入、之ヨリ戦闘ヲ行ウ。我ハ祖国ヲ防衛スル木ノ防壁ナリ、先陣トシテ奮戦ス』全艦戦闘配置!対艦機雷戦用意!」
「了解。対艦機雷戦用意!面舵20!後部格納庫解放!」
「機関出力上昇!コンバータ転換率27%へ変更!速度合わせ、今っ!」
「第三護衛隊、投下開始、続いて第五護衛隊も続きます。」
「本艦レーダに感あり!敵艦隊確認!」
「敵艦補足、本艦射程までのこり180」
「敵艦主砲よりは先に撃てますが反航戦です、一気に仕掛けましょう。」
「わかった、機先を制する、主砲射撃用意。それと敵艦との軌道交錯後、直ちに面舵反転
、同航戦へと移行する。」
「了解、爆雷投射完了。」
「前主砲測定よし、何時でも撃てます!」
「ミサイル発射管室より、第一射装填よし!」
「ではいこうか、撃ち方、初めっ。」
「撃ち方初めっ!全火器使用自由!」
「前部主砲、試し撃ち方、第一射撃てっ!」
瞬間、砲にエネルギーが溜まったかと思うと一瞬で砲身に沿うように放出され、渦を巻きながら敵艦隊へと降り注いだ。
「弾着!修正右3!撃てっ!」
「ミサイル第一射発射、続いて第二射装填。」
「敵艦発砲!」
「そのまま突っ込めっ。」
「敵弾着弾、今っ!」
「艦首第4装甲帯に着弾!されど被害なし!」
「第三護衛隊、はやぶさ至近弾!他被害なし!」
「撃ち返せっ、撃って撃って撃てっ!」
「軌道交錯までのこり180。」
「主砲第6斉射、撃てぇ!」
「弾着!敵戦艦撃沈!」
「よしっ!そのまま撃てっ。」
「敵弾着、今っ! ハレー被弾、大破!」
「下がらせろ!爆沈しなければ帰れるだろう。」
初撃は圧倒的であった。
後々の火星軍側の正式な戦史にて刻まれている言葉だ。
実際に圧倒的であった。
火星側戦艦の2倍近い砲門数と1.5倍の射程の地球側大型戦艦は初撃に全てを掛けたかのように正確に火星側艦艇の装甲を抉った。
地球側の判定は全弾至近弾または外れであったが、火星側の戦闘ログによると初撃だけで駆逐艦4隻の戦闘能力を失わせるという脅威の打撃力を示していた。
「間もなくミサイル第一撃が着弾、機雷と同時です。交錯まで残り45。」
「司令部より、衛星軌道から援護砲撃です!」
「下げ舵45!機関全速!」
そして、衛星軌道からの重光線砲撃による援護射撃が入る。
これこそが地球側が想定していた本土防衛案、「アポロ計画」であった。
艦隊による足止めと衛星軌道の重火砲による援護、これにより敵艦隊の処理を飽和させ、烏合の衆とする。その後主力艦による切り込みにより敵艦を撃滅、制宙権を確保後、小型艦艇及び航空隊による近接戦闘により残存艦艇を撃破、余勢を持って逆侵攻するという単純だがそれだけに簡単には突破できない、厚い防御網を築いていた。
火星側もこの防御網は当然のごとく把握しており、対策も立てていた。
そのための欺瞞行動であり、速度性能の高い艦艇による陽動行動なども行っていた。
だが、地球艦隊のほとんど全力が多方面に出た今、本来ならば最高の環境にも関わらず、敵の大型戦艦による足止めを受けていた。
大型指揮戦艦の名に恥じぬレベルの高性能電波観測兵器により、精密誘導を受けた後方砲兵はその射撃能力を遺憾無く発揮し、最終的に火星側侵攻艦隊の6割はこの1戦で失われた。
だが、それが限界だった。
指揮官や参謀連を連れ行動するという艦艇の目的ゆえ、異常なまでに厚く施された装甲も、万が一の敵艦隊襲撃用の重武装も、押し寄せてくる大規模艦隊に数隻で挑むためのものではなく、護衛のプロメテウス級が1隻、また1隻と沈み、大破して交代していく中、少しずつダメージを蓄積していっていた。
そして不意にそれが爆発する。
「っっっ!戦艦ヴァンガード、爆沈!」
「なに!?最新型だぞ?!」
「ダメです、我が艦ふくめほとんどの船が機関や船体の限界を迎えています!」
「左舷第4装甲帯、脱落!」
「第2砲塔大破!気密全損!」
「目標3071撃破、3072に射撃移行」
「閣下、最早これまでかと」
「っ!金剛決別電!自爆コード受信!特攻するつもりだこれは!」
「金剛増速、敵艦隊に突っ込んでいきます!」
「まてっ!止めろっ!」
「金剛脱出艇射出確認!」
「金剛、敵戦艦と衝突コースに入る!」
「っっっ!金剛、敵艦と衝突後爆沈!」
「……艦長、降伏電打てっ。」
「…………はっ、全艦撃ち方やめっ、白色照明弾射出、全電波帯にて降伏を打電。」
「通信士官はまだいるかね?」
「はっ、どちらへ」
「内惑星艦隊総司令へ繋げ。」
現在の内惑星艦隊総司令官は英国宇宙軍出身のハロルド・ダウディング元帥であり、彼は英国宇宙軍大学にてハミルトン中将の2期上の先輩であり、旧知の中であった。
「おお、ハミルトンか。戦況は……その顔はダメそうだな。」
「ええ、ダメでした閣下。護衛艦は全滅、日本艦隊も1隻を残すのみで戦艦隊は本艦以外は沈みました。」
「で、君はどうするのかね?」
「降伏します、彼らといえども降伏した船まで攻撃する訳では無いでしょう。」
「なるほど、それでなんのために私に?」
「これより戦闘記録を送ります、各自治区艦隊の動員のためにお使いください。」
「君はたったそれだけのために私に通信を送ったのかね?君はそんなやつではないだろう、早く本題を言いたまえ。」
「っ……はい、どうも敵の動きがおかしいです。回避できるような攻撃も食らっていたり、確実に命中が可能な状況で発砲しないような動きが多数あります、まるで士官学校の生徒のような……」
「なるほど、こちらでも調べておこう。」
「ありがとうございます、では。」
「ああ、生きて帰れよハミルトン。」
「閣下!敵艦隊より入電!」
「繋げ。」
「こちらは火星連邦航宙海軍第1艦隊司令、ハインツ・シュタイン中将だ。貴官の降伏を受け入れる。」
「こちらは地球連邦合衆国、宇宙軍第18特別任務部隊司令、サー・ジョンストン・ハミルトン中将だ、降伏の受け入れを感謝する、直ちに友軍救難艇の救助を開始したいがよろしいか。」
「許可されない、本艦隊がこの宙域を離脱するまでは許可されない、またこれより本艦隊より駆逐艦を派遣し、艦を拘束する、最低限の維持要員及び負傷者と救護関係者を除き武装解除の上1箇所に集まるように。」
「なぜ救難活動は直ちに行っては行けない?!彼らの中には負傷者もいるのだぞ!一刻を争う状況だ!」
「本艦隊の進路の妨げになる恐れがある、それが理由だ、では通信を終える。」
「クソっ……!」
「閣下、彼らの言うことは理にかなってます。国際法でも戦闘行為が完全に終了していない場合は救難活動は最優先とは定義されておりません、そして彼らは我が懐のうちにあります、戦闘中として差し支えないでしょう。」
「だがっ……だが……!」
しかし、ここでハミルトン中将を含めた第18任務部隊、旗艦プロキオンの乗組員の思考は途絶えた。
いや、周辺一帯の人間全てだろう。
地球軌道上から再装填を終えた長距離砲の一斉射により、この瞬間第18特別任務部隊は消滅した。
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