第3話

地球合衆国 ギアナ高地

はるか昔、20世紀の終わりに築かれたこの宇宙港は、領土とする国家こそ何度も変われど、赤道直下という宇宙港としては最適な環境により変わらず発展をとげ、現代では国連宇宙軍の総司令部を始め、宇宙軍施設が集まる大規模軍港としての側面ももつ地球一の港湾として名を馳せていた。

そして、そこから地球合衆国最大の戦艦シリウス級に率いられた数十隻の船が、軌道上に待機している各艦隊に合流すべく、合衆国大統領と各自治地区知事、五軍長官の訓令と共に宇宙空間へと飛び出した2週間後、軍港区画の中央付近に存在する統合指揮参謀センターの中の1つ、戦前からの計画に従い500名以上のオペレータを配置、備えていた区画からアラートが出る。

「ダメです!戦闘衛星射程外!」

「バカが!衛星軌道ではないんだぞ!誰が戦闘衛星を出してきた!」

「統合軌道統制センターより、予測結果出ました!約2週間後に軌道バッティング!」

「機動予備と月面総隊の予備、モスボール艦艇をありったけ出せ!総力戦だ!」


この区画の名前は内惑星軌道早期警戒管制システムオペレーティングルーム、地球軌道へ接近する物体を把握、警戒度を振り各組織へと命令を下す機関である。だが本次戦役においては火星、金星両惑星の早期警戒システムは敵地情報統括管制部が管理し、また土星及び木星の各プラント防衛線警戒システムは外惑星艦隊総司令部が管轄していたため、内惑星早警センターは前線が敗北した時、要は本土決戦の場合のみ稼働する、現在の国連宇宙軍にとっては最も暇な組織とされていた。だったのだ。


第1報は地球=火星往還軌道監視衛星で友軍艦艇の観戦をしていたとある技術士官だった。

既存艦艇とは違う艦艇を発見したその士官は違和感を上官に具申、それを受け遅滞なく付近の高度情報収集衛星を指向し観測した。

それによって分かったことは

・火星方面にいた敵艦隊のほぼ全てが地球軌道へ遷移しており

・ウラシマ効果による被害が深刻になる寸前レベルの速度で接近しており

・土星へと進発した友軍艦隊とはかけ離れた軌道を取っている。

ということだった。

驚愕と恐怖により失神した上官に変わり、その技術士官は即座に緊急事態警報を発令、即座に内惑星艦隊全体に警報が鳴り響き、その技術士官は少尉待遇から大尉に戦時特進、上官に変わりそのセンサー群の司令として就任し、内惑星早警センターは戦場へと変わった。


当時の内惑星早警センターの司令はニュージーランド航空宇宙軍から出向していた。ウィリアム・トール空軍大佐であった。

彼は警報による大音量で叩き起され、副官による簡易的な情報説明の後即座に指揮を引き継いだ。

「各残留艦隊の状況は?動員可能か?」

「国連直轄艦隊は優良艦艇のほぼ全てを遠征に持ってかれました。現存してるのは多少の予備艦、練度が低い艦、または退役寸前のモスボール艦です。」

「各自治領の艦隊はまだマシです。国連指定の予備艦隊として極東日本自治区の国防航宙軍の近衛艦隊、第一艦隊及び北アメリカ合衆国航宙海軍第182任務部隊、EU統合宇宙軍第2艦隊を初めとしてまとまった戦力を維持しています、ですが……」

「ですが、国連の政治状況的に厳しいでしょう。遠征軍に艦隊を供出させるだけで相当の譲歩を行ってます。本土決戦下ならともかく、現状では国連軍の怠慢とすらいわれかねません。」

「国連直轄戦力としては月面総隊がまだありますから、これを出せと言われるでしょう。」

「くそっ、一体何を上に報告すればいいんだ!何も戦力が出せませんじゃ通らんぞ!」

「とは言っても遠征艦隊はとっくに帰還不能点まで到達してます、月面総隊の殆どは旧式艦艇です。モスボール復帰だけでただでさえ吹っ飛んでる予算が冥王星軌道まで吹っ飛びます。」

「司令部総予備のシリウス級とアステロイド級……ちと厳しいな……」

「ですがやらねばどの道地球に来襲します。彼らの艦隊が数世紀前のカミカゼのように、現在の加速度を維持したまま地球交差軌道に入るだけで、運良く全艦艇が直撃から逃れても衛星軌道は数十年はデブリ回収によって塞がれることになるでしょう。直撃したら恐竜絶滅レベルの大災害です。」

「それはなんとも……重いなぁ……なんで私が任期の時にこんなことが……」

「大佐殿、嘆いていても始まりません。中央の残存及び総予備で叩く作戦を立て、実行し本土決戦に備えた漸減邀撃作戦とするしかないです。」

「わかった、わかったよ。その筋で書いといてくれ、後で私が確認するから……」


地球=火星往還軌道上 連邦艦隊総旗艦 戦艦マーズ


「地球の監視衛星は?」

「今のところ静的監視のみです。機雷投射も動的接触も見受けられません。」

「なるほど、第一撃は上手くいったわけだ。敵の火星要塞の方は?」

「何とか上手く欺瞞出来ているようです、しかし一部艦が損傷激しく離脱、戦力的には長くは持たないと。」

「まぁ、そんなもんだろう。軽巡の船体に戦艦並の主砲だからな」

そう、本来火星艦隊の足止めを行うはずだった火星の地球側要塞群は本来の役目通り、敵戦艦と『思われるもの』に対して全力での戦闘を行っていた。

しかし、火星側は後にバチカン級モニターと呼ばれるモニター艦を運用、質量や光学偽装を施しあたかもそこに主力がいるように偽装、オリンポス山の奥深くに埋没させてあった主力艦隊を隠蔽していた。地球側は隠蔽した艦艇自体の数は掴んでいたものの、通信ラグもありどこにどの艦隊がいるかという情報が比較的不明瞭であった。

そこに連邦軍が大量のデブリによる要塞機能麻痺を狙った作戦を決行。把握出来ていた全ての観測拠点への攻勢と共に、超超大型電磁カタパルトによる艦隊の投射により一気に火星軌道を離脱、地球への軌道遷移を行っていたのだ。

これにより地球側への情報的な奇襲を強い、本土への一撃離脱的な攻撃を仕掛けそのまま内惑星軌道、金星へと抜けるというのが今回の火星側の主だった作戦だった。


「前方を警戒中の情報収集艦ゴリアテより入電、『ワレ、敵艦隊ヲ発見』以上。」

「ふむ、予想外に早いな。予想される戦力規模は?」

「事前予測ですと敵の総予備艦隊のみが出撃してるはずです。多少の誤差を含めると大型戦艦6 戦艦4 駆逐20です。」

「はっ、たったそれだけしか戦力を出せないのか、地球側は。」

「ですが敵大型戦艦は脅威です、こちらの戦艦相手なら数隻相手でも単独で対峙できる高い性能とその巨体に見合わない機動性を確保されており、武装部はともかく司令部はとにかく硬いと。」

「なるほど、それで、その船が我々の障害たり得るとでも?」

「数が少なすぎます、有り得ません」

「なるほど、ではこのまま行こうではないか。」

「了解!進路そのまま!」

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