第2話

北アメリカ合衆国 ニューアーク市

ここには、旧世紀時代となりのニューヨーク市に置かれていた国際連合の主要機関が移り、地球合衆国になり、事実上の地球の首都として今も稼働していた。


ここに現在の地球合衆国大統領、ジョセフ・R・ハミルトンが大量の電子書類とともに秘書と話していた。



「火星主義者共ですが、やはり相当な軍事力を備えていたようです、独立宣言と同時に即座に火星方面駐屯の3個旅団および1個宙雷戦隊が投降、反撃する隙すら無かったようです。火星方面隊セルゲイ・ウシャリコフ大将は拘禁され、現在火星静止軌道要塞群のみが残存、群司令のムスターファ・イノニュ少将が動員が間に合った極東第6戦隊、西欧州第2宙雷戦隊とともに死守していますが長くは持たないでしょう。彼からも熱核兵器反応とともに救援要請がよせられています」


「ふむ、火星主義者共にしてはよくやる、中華主義者は?」


「戦艦相当船24、重巡相当船40、軽巡相当船48、駆逐相当船184がこれまで確認された中華系戦力です。未確認や火星独自船舶を敵物流などで予測すると火星方面には戦艦31重巡60、軽巡74駆逐267が、金星方面には戦艦4重巡4、軽巡12駆逐39が、土星方面には重巡6軽巡32駆逐220の敵戦力が予想されます」

「我が方戦力は火星方面に戦艦16、重巡40、軽巡120、駆逐200が、金星方面に重巡12、軽巡30、駆逐64が、土星方面に戦艦4重巡2軽巡40駆逐160が地球軌道に戦艦64、重巡120、軽巡260、駆逐480が、また外惑星系や地球本土、月面予備役艦隊に戦艦120を主体とした580隻が存在します」


「とすると、総合戦力では我が方が上、と」


「はっ、閣下。敵の生産設備から考えましても戦闘による喪失以外での戦力反転は有り得ません。また地上戦力におきましても敵は約80個師団、我が方は最大300個師団とかけ離れております。火星住民の民兵化を考慮しても鎮圧には余裕があります。」


「なるほど…なるほど……ありがとう、では宇宙軍のウィリアム・スミス元帥を呼んでくれたまえ、それと宇宙植民開発局の鎮遼寧首席局長を戦時特例で直ちに捕縛、軍事法廷にでも突き出しておけ」


「はっ、それとスミス元帥なら既にお見えになっておられます」


「スミス元帥閣下、入られます!」


「入れろ、ついでにコーヒーを頼む」


「はっ!」


「閣下のコーヒー中毒は今に始まったことではないが、胃が大丈夫なんですかね?ウィリアム・スミス宇宙軍総司令、ただいま来ました。」


「はっ、よく言うよ。君のコーラ狂いよりはマシだと思うがね」


「コーラはアメリカ軍人のバイブルでしょう、それより火星人共の鎮圧作戦と聞きました。」


「ああ、そうだ。貴官の案を聞かせてくれ」


「はっ。宇宙軍としては各個撃破の愚に陥ることなく戦力を集中、火星軍に決戦を強いるもしくは静止軌道より外に出さない作戦を立てております。」


「静止軌道?それでは軟弱に過ぎないかね?宇宙軍は必勝の心構えを持ち、敵を断固惑星から出させない方がいいのでは?」


「いえ、それではあまりに被害が高くつきます、静止軌道となると地上からの対宙攻撃兵器が有効打たりえる高度です、無闇矢鱈に艦隊を損耗することは避けたいですね」


「ふむ、わかった。してどこから落とすかね?」


「土星でしょう、戦力的な問題もありますが何よりシーレーンの確保を最優先にしなければなりません、護送船団を本国艦隊にて編成、現地駐留艦隊は一程度の警戒をしつつ現状維持、戦力を集積次第攻撃に移るべきかと」


「火星と金星はどうするのかね?」


「金星は現状勢力で抑えきれます、問題は火星でしょう。旧型機関の戦艦群、これを送り固定砲台とし、要塞を主体とする弾性防御方針を選択します」


「して、陸軍は?」


「少なくとも数年は出番がないでしょう、ただ地球でも蜂起の可能性はあります、統合参謀本部にかけあい、憲兵としての仕事を与えた方がいいかと」


「なるほど、なるほど。ではそのつもりで作戦を立ててくれ」


「はっ、了解しました」



この日、地球合衆国連邦軍統合参謀本部は大いに荒れていた。


「月の予備艦隊の充足がおかしい!誰がこんなデタラメ提出した!」

「中佐!船はあれど人がいません!訓練を受けた下士官は本国艦隊が優先です!」


「なぜこんなに部品のストックがとっちらかってる!管理担当者は!」

「あー、それは艦種別ですね、これがサイパン級、あれがZ30級、あれがレインボー級、あれがレ・ミゼラブル級、あとこれは鳥取級ですね」


「アホかあああ!第六艦隊はなぜ出港している!誰だあの突撃バカに出師命令を漏らした大バカは!」

「トラバント宙兵軍胸甲騎兵総監です!」

「あっの脳筋野郎があぁぁぁあ」


「第三艦隊より工作艦の増派要請が」

「住田中将か!なんと言っている!?」

「戦艦2が小破判定、既存の工作艦はモスボール復旧中のため動かせず、追伸、部下がやらかした、すまん」

「どういうことだ!機雷でもあったか!?不味いぞ、こんな内海にまで敵が……」

「いえ閣下、これは衝突による損傷です、戦艦三笠、艦首化学スラスタ全損、戦艦畝傍、前部予備艦橋気密が破れたそうです」

「…………この大バカがあああ!」


「第46港湾地区においてアラート、敵のテロです!」

「何故それを先に上げない!状況は!」

「事前阻止完了、艦隊に支障はないです!」


「事前計画ではあれほど助長性を持たせた輸送船舶が何故こうも足りない!」

「あれは第22次宇宙5カ年拡大計画完了時の予想船舶量を仮定として組み立てたモデルです!現状では予備船舶はそこまでありません!」

「華僑系資本からも船買オペが出てます!今後費用の増大、輸送コスト増大さらに輸送効率ダウンが予想されます!」


「はぁ、あいつらは静かに仕事すら出来んのか……!」

「何分初めての大規模戦闘です閣下、それよりも派遣兵力の最終承認を願いたく」

「よし、読め」

「国連直轄艦隊からいきます。

第一艦隊、司令パウル・ローレンス中将、旗艦戦艦キャンベラ以下ノースカロライナ級戦艦4セオドア・ルーズベルト級戦艦4、パール・ハーバー級重巡blockⅡ型22、シアトル級軽巡blockⅠ型40、blockⅡ型38、ジョン・ポール・ジョーンズ級駆逐168。


第二艦隊、司令シュタール・パウルス中将、旗艦ビスマルク以下バイエルン級戦艦8、ノイブランデンブルク級重巡8ハインツ・グデーリアン級重巡18、ケルン級軽巡10、Z30級駆逐A型40。


第三艦隊、住田吉継中将、旗艦扶桑以下長門型戦艦12、なお2隻が小破、五十鈴型軽巡12名取型軽巡10、陽炎型駆逐艦42


第五艦隊、アレクセーエフ・ムラビンスキ中将、旗艦ニコライ一世以下レーニン級戦艦4、キエフ級重巡10、ナゴルノ・カラバフ級駆逐艦18です」


「また、各自治区からの供出艦隊があります。

欧州管区より、ケーニヒ級戦艦4、ノルマンディー級戦艦4、セント・ヴィンセント級戦艦4、マジェスティック級重巡6、タラント級軽巡10、フェリペ二世級軽巡12、アムステルダム級駆逐12、テッサロニキ級駆逐8です。


南北米州および東アジア管区、アフリカ管区からはありません。


中東管区よりデリー級重巡4、バグダッド級駆逐6、ハイデラバード級駆逐10です。


日本管区からは金剛型戦艦6、那智型重巡16、水俣型軽巡32、不知火型駆逐艦96が参加します」

「なるほど、大艦隊だな。旗艦は?」

「総司令部直轄予備より指揮大型戦艦シリウス級3番艦アンドロメダおよび六番艦プロメテウスが、護衛にプロキオン級軽巡12およびアステロイド級フリゲート22と共に出師します。」

「また、補給関連は第2護衛艦隊および第5護衛艦隊が出ます、総旗艦はパール・ハーバー級航空巡洋艦blockⅤのエリーが」

「また、本部隊を総計して国連第1宇宙統合軍団と命名、軍団総司令にサー・ウィリアム・マクミラン国連宇宙海軍元帥が、副司令にスローク・コロヴィロー米国航空宇宙軍上級大将およびスミノフ・ロッテムスキーロシア宇宙軍上級大将が、参謀長に豊田次三郎日本国防航宙軍大将が、補給参謀にアドラー・ヴィッテルスバッハドイツ国防航宙海軍中将が、通信参謀にシャルル・ダルランフランス宇宙軍中将が、航海参謀がジュセッペ・カンピオーネイタリア航宙軍少将が、戦闘参謀をアム・サム・ヴォロインド海軍航宙艦隊少将が、他に直属参謀団長にキース・ホーランドオランダ航宙海軍准将が就任しております。」


「総艦艇数4桁に達する大事業、か……予算課が発狂するな。」

「彼らはそれが仕事です、そのための防音オフィスでは?」

「よく言うよ、何が防聴だか。」

「戯言はさておき、決裁をお願いします、閣下の決済待ちの書類を印刷したら山ができるほどございますからね。」

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