第24話 少女の大冒険2

 老婆から手紙を受け取ったリリーは慌ただしく部屋に戻った。部屋の扉を閉めると、掛けている外套を身に着け、エルが置いていったポーチを掴み、中に手紙を押し込むと、肩から掛ける。

「よし」

 そうは言うが、準備をするうちに髪が乱れに乱れてしまっていた。乱れた髪を納得できるまで手櫛で整えると、意を決したように静かに部屋から出た。

 足音を抑えながら、エントランスを覗き見る。そこでは、女主人が帳簿を見ながら事務作業をしていた。リリーの存在に気づきもせずに、鼻歌交じりに作業を続けていた。リリーはその様子をじっと見ていた。今度は床板が軋まないように慎重に。女主人が身じろぎをするたびに、おっかなびっくりになって身を隠し、またゆっくりと覗き込んでを繰り返した。

 そんな一方通行のにらめっこを続けてしばらくたった時だった。女主人は突如立ち上がると、

「あ、そうだわそろそろお洗濯物を取り込んでもいいころだった」

 そう言い残し、席を立つ裏の方へ下がっていった。そして、静かになったエントランスで一人、リリーが動き出した。静かに階段を降りると、女主人が見ていない隙に宿を飛び出した。

 外はまぶしかった。一瞬目がくらむが、それよりも先に、小走りで路地を進んで大通りに向かう。そこへ出たとき、

「嬢ちゃんアブねえぞ!!」

 突然叫び声が聞こえて、思わず足を止めた。

 大量の荷物を積んだ二頭立ての馬車が、すぐ目の前を走り抜けていった。

「バカ野郎! 死にてえのか!」

 馬車が、怒号と砂ぼこりを残して去っていった。

 突然のことだった。唖然となりながら、今度は自分に向けられる視線に気づく。

 騒ぎを聞いた通りの人々が、足を止めてリリーを見ていた。ある人はいぶかしむ目で、ある人は冷ややかな目で。そして砂ぼこりが落ち着いたころ、人々は何事もなかったかのように歩き出した。

 リリーがあたりを見渡す。既に誰も、リリーに関心を寄せていなかった。

「あ……うぅ……」

 途端に心細くなるリリー。泣きそうになりながら、肩から掛けた紐をぎゅっと握りしめた。そして、その先のポーチに視線がいった。そこに入れた老婆の手紙を思い出す。

「おねがいされたんだもん……」

 老婆との会話を思い出したリリーは、泣きそうになっていた顔をしっかりと上げ、ポーチの紐を力強く握りしめると、古城に向かって歩き出した。

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リリーホワイト‐そうして僕は世界の終わりと旅をした‐ るどるふ @LUDLUF

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