第21話 にっちもさっちもいかない状況

 エルは、目的地である郵政局にやってきた。窓口には、すっかり顔なじみになってしまった局員が窓口業務をしていた。

「エルさん、今日もお疲れ様です」

 そう言う局員の表情は、どこか浮かない様子だった。それを見てエルも察する。 

「まだですか」

「はい、すみません」

 城の件があってからというものの、街への侵略行為を否定できないと判断した行政は、街の安全を考えて様々な対策を講じていた。その中でも最たるものとして、街への出入りを、建材を積んだ行商人と公的機関からの推薦証があるもののみに制限していた。さらに、街の外との手紙のやりとりも制限していた。

「エルさんは手紙屋ですから、お渡し出来ないと次の街にもいけないのはわかっています。ですが、上の人間もその、今回は対策しているぞとアピールしたいようでして、火消しに躍起になっていまして……。どうしてなんでしょう、この街でのトラブルなんて日常茶飯事ですし、今さら治安維持なんて妙なこと……」

「いえ、仕方のないことです」

「我々としても業務を通常通りに戻したいのですが、上からの指示ですので、こればかりは……」

 郵政局としても、通常通りの業務ができないのは複雑な心境だろう。エルもそれが分かっているので、それ以上は言わない。

 出発のための推薦状を用意してもらえないかと頼み、断られたのが3日前。こんなに長くこの街にとどまることのなるとは思ってもいなかったので、金銭的にジリ貧だった。次の街へ届ける手紙を受け取れなければ報酬は望めず、そもそも出発のめどが立たない。

 エルが小さく唸る。局員がその様子を見てあたふたしながらも続けた。

「もう一度、推薦状の件を上に伝えてみます。どうなるかわかりませんが……」

「ぜひお願いします。明日もまた来ますが、何か状況が変わったら教えてください」

 エルはそう言い残し、郵政局を後にした。

 リリーのことを考えると、今は街の中に留まっていた方が安全とも言える。だけれどそれは、何の解決にもならない。リリーの不思議な力のことも、それを狙っていたアルガス帝国軍のことも、何も分かっていないままだ。

 そういう時は、とにかく前に進んだ方がいい。

 旅の準備は進めておこう。リリーの分を用意しなければいけない。リリーが背負える大きさの鞄に、外套に、あと靴も新調した方がいいかもしれないな。

 エルは、商店通りへ足を向けた。

「お金、足りるかな。物々交換するにも、いろいろ無くなっちゃったし」

 歩き出したエルのそばを、古城の修理用の石材を積んだ馬車が砂埃を上げて走っていった。普段ならばエルも、何の気兼ねもなく街や村を出入り出来るのだが、今では向こうが羨ましく思える。

「……簡単な仕事でもして、日銭を稼ごうかな」

 汗だくになって石を運んでいる、上裸の男衆をちらっとだけ見て、渋い顔をし、

「いーや、やめよ。僕のガラじゃないや」

 エルはそれ以上考えるのをやめた。

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