第13話 かび臭い牢獄を抜けて2
第一書庫というプレートが下げられたその部屋には、たくさんの本が並べられていた。
薄暗い部屋の中で、二人の男が、机の上に並べられたエルの私物を並べて一つ一つを確認していた。
「――結局、大したものはなかったなあ」
一人が、ため息混じりにぼやいた。ひっくり返された背嚢に入っていた携帯食料に噛みついた。
「全くだ。これじゃあ、俺たちの取り分はこれだけか」
何度見たかわからないナイフの山を、恨めしく眺めた。
「にしても、あのガキ、どれだけのナイフを持ってやがるんだ?」
「ナイフ専門の商人でも商ってるのかねえ」
「いいや、大尉が言うには手紙屋らしいぜ。ほら、こいつを見てみろよ。もしかすると、俺らもどこかで世話になっているかもな」
手紙の山から一枚をつまみ上げると、それを放り投げた。
「まさか。こんな東の外れの田舎だぜ」
「言われればそうか」
「それにしても、都市の中で手紙を運んでいたほうが金になるってのに、どうしてこんなつまらないことをしているんだ?」
「わからねえ。単なる物好きなのかもな」
「考えたって仕方ねえか。……にしても、故郷が恋しいぜ全く」
「違いねえ。そろそろ白い花でいっぱいになる季節だ、懐かしいもんだね。そういやこの前よ、小隊長から故郷の写真を見せてもらったんだよ」
「今日び写真なんて古いものを持っているとは、小隊長も珍しい人だねえ」
「すっかり色褪せてはいたが、まあ綺麗なもんだったよ。昔のカメラってもんはすごいもんだぜ、まったく」
そういい二人が笑ったとき、部屋の扉がノックされた。
「ん、准将が戻ったか?」
男たちが反応した。
「馬鹿言え、大尉じゃあるまいし、准将がご丁寧にノックなんかするかよ。街の役人か誰かだろ。はいはい、今行きますよ」
一人が持ち場を離れて、扉の方へ歩いていった。残った一人が持ち物検査の続きをする。すると、本棚の奥でガタガタっと物が落ちる音がした。
「おいおいどうした、ズッコケでもしたか?」
奥の男が笑っていた。それでも返事が無いことに訝しむと、
「どうした、何かあったのか」
扉の方に向かっていった。そこに仲間が横たわっているのを見ると、顔色を変えて、駆け寄った。
「どうした!」
男が駆け寄って相手の肩を揺すった。気を失っているらしい。
「おい、一体何があった!」
そのとき、遠くから小さく足音が響いた。
男が何事かと振り向くと、エルが身を低くしながら一気に距離を詰めていた。男がとっさにサーベルを引き抜こうとするよりも早く、その顔に飛び蹴りをお見舞いした。
「ふげっ!!」
品のない声を上げると、男は気を失った。辺りが静かになる。エルはやっと息を整えた。
「ふぅー。お気楽な人たちで助かったぁ」
すっかり起き上がる様子のなくなった二人の男を確認して、部屋の奥へ向かった。本棚に囲まれた空間で、薄明るい光りに包まれて、大きなテーブルが一つあり、そこにエルの所持品が並べられていた。その多くがナイフで、次に食料品、小物、色んな所から預かってきた手紙もあった。
捕まったときに持っていたものがそのままそこにあった。すべてが旅に必要なものだが、それでも今持っていくのは最小限のものだけにしなければならない。まずはナイフ。それに手紙は何よりも大切だ、持っていこう。大きな荷物は後回し。ナイフを一本、二本、三本……、ホルダーごと体の随所に戻すと、そばに放って置かれていた外套も羽織った。二度その場で飛び跳ねる。うん、収まるべきところに収まったって感じ。ひとまずはいつもどおり。
準備は整った。次はリリーだ。
なぜリリーを付け狙うのか。理由は気になるが、兎にも角にも安全が第一だ。リリーを見つけ出して、この街を離れよう。もっと大きな街に行けば、流石のアルガスの軍人でも手出しはできないだろう。
それにしても、路地裏で気を失う直前に見た青白い光が気になる。一体何が起きての光だったのか。
わからないことが多すぎる。
「危険な目に合わされていなければいいけど」
そのとき、建物全体が大きく揺れた。続けて爆発音が城を包んだ。
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