第12話 准将と大尉
コーサスの街の中央にそびえる古城は、今は行政の中枢が入っており、街長が住んでいる場所にもなっていた。
城の中央の上階、街長室と書かれた札が下げられた部屋の扉が開いた。准将が出てきた。
「言われなくてもそのつもりです。では失礼」
准将は中の人物につまらなさそうに言うと、踵を返し、部屋を出ていった。部屋を出てすぐのところに兵士が構えていた。ハンマー使いの、大尉と呼ばれていた男だ
「准将、もう少し自重なさってください。行動が目立ちすぎています。このような越境作戦、他国に知られてしまうと、事です」
大尉が物申すが、 准将はつまらなさそうに吐き捨てた。
「気にすることはねえ。あの街長にべらべら言うほどの度胸はねえよ。……それで、どこまで調べは進んだ?」」
歩き出した准将の背を、大尉が追った。横柄に歩く小柄な准将と、律儀に姿勢良く歩く大柄の大尉の組み合わせは、得も言えぬ不釣り合いさがあった。
「持ち物を調べてみましたが、あの旅人、他二国との関わりを示すものは持っていませんでした」
「本当にただの旅人だっていうのか?」
「おそらく。多くの手紙を持っていたので、これを届けることを生業にしているのだろうと推測されます」
「油断するな、手紙がなにかの暗号を記しているって可能性がある。確認が終わったら手紙は捨てちまえ。……他の持ち物は、そうだな。欲しがっている兵士がいたらくれてやればいい。帰国までのいいガス抜きになる」
「旅人はどう扱いますか」
「意識が戻ったら尋問する。知っていることは洗いざらいだ。くたばっても構わん。むしろその方があとが楽だ」
二人はしばらく歩いた先に見えた階段を降りていった。一階、もう一階と降りていき、やがて地下へとやってきた。そこには、薄明るい光の中で機器を操作する多くの技術者と、中央のベッドで眠っているリリーがいた。リリーの体には、いくつものケーブルがくくりつけられていて、それらから得られるリリーの心拍、血圧、筋肉活動、神経活動、様々な情報を、技術者たちが記録していた。その様子は、さしずめ研究施設の様相だった。
「状況はどうだ」
准将が言うと、白衣を着た技術者の一人が敬礼を返して答えた。
「所詮は子供です。ぐっすり眠っていますよ。このまま、すんなりデータが取れれば簡単な仕事です」
「欲しいのは本体だけだ。これが上手くいったら“ガワ”は捨てていく」
准将は憎らしく笑みを浮かべた。
「準備、整いました」
「よし、共鳴を始めろ」
機器が順次起動を始めた。緑色の光が、鼓動するように瞬き、それが徐々に大きくなる。
いくつもの機器の駆動音があたりを鈍く包んでいた。電子音が、一定のリズムを刻む。
「……何も起こりませんね」
大尉が訝しげに言ったが、准将は違った。間もなくリリーの胸元が鈍く光りだした。
「素晴らしい……、素晴らしいぞ!」
光は徐々に明るさを増し、瞬き、その感覚が短くなっていき、薄暗かった地下室が眩しいほどにまでなっていた。
「周波数を合わせろ。同調させるんだ」
「やっているのですがその……」
技術者の顔に汗が流れていた。別の技術者が叫んだ。
「あまりにも不規則で、捕らえられません!」
「馬鹿を言っているんじゃねえ。さっさとやれ」
「出力、不規則的になおも増大していきます! 駄目です!」
「ちぃっ、ならばさっさと無力化しろ!」
「こちらのデータにない波長です! 抑えられません!」
大の大人たちが慌てふためく。どこかの機器がエラー音を響かせた。警告灯が瞬く。
そのとき、リリーの瞳が、
「……………………。……」
虚ろに開いた。
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