第7話 傲慢ちきな主従関係

 リリーの家――正しくは家だった場所――に、多くの大人たちがいた。

 半壊した家を隅から隅まで探っており、棚や机を容赦なくひっくり返していた。全員が全員、小銃を背負っている。外套を羽織っており、中には肩が凝りそうな真っ赤な制服が見えた。

 そこに、一台の車両が森を割って姿を表した。大きな車両だった。所々に装甲をまとっており、それ以上に、華美な装飾が施されていた。運転席の窓は小さく、車両の後部からは、鈍く青白い光が漏れている。その車両が、一般的なものではなく、戦うことを想定されて作られたものであることは一目瞭然だった。

 車両が停止した。男たちが車両に向かって敬礼を行うと、車両脇の扉が大きく開き、若い男が降りてきた。車に負けない、派手な制服を身にまとっていた。

「准将、ここには何もないようであります」

 男の一人が、その人物に答えた。その人物はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、

「やはりあのガキか」

 男たちを束ねるにはずいぶん若く見える。准将と呼ばれたその人物は、見た目相応の乱暴な言葉を吐いた。

「女中の姿が見えないが、あいつはどうなった」

「わかりません」

 男が素直に答えると、准将はギロリと男を睨みつけ、腰からサーベルを抜いて男の首元に突きつけた。

「ということは、あれか、ガキを取り逃した上に女中まで見失ったのか? お前舐めてんのかアァ?」

 えらく装飾の華美なサーベルが、男の首元で鈍く光る。

「も……もうしわけありません。ですが、邪魔が入りまして……」

「テメらは、ちょっとした横やりに手も足も出ねえほど怠けた軍隊なのか?」

「それが……想像以上に手練な子供でして……。虚を突かれた形となってしまいまして……」

 准将はしばらく睨みつけたまま何も言わなかったが、やがてサーベルを下げた。

「まあいい。もうふざけたことを言うなよ。最終的にガキが見つかればこっちのもんだ。とにかく探せ」

「かしこまりました。……その、女中はどうましょう?」

 男が尋ねると、准将はサーベルを男の足に突き立てた。

「っがぁぁ!?」

 刃が足の甲に突き刺さり、男が悲鳴を上げる中、

「女中のフォーチュン・セルごときでどうにかなるとでも言うのかよ。車両の燃料にでも使えってか? ふざけたこと言ってんじゃねえ」

 准将は、刺さったサーベルを抜くと、そこについた血を男の頬で拭った。震え上がる周りの男たちをよそに車両に踵を返す。

「おい大尉!」

「こちらに」

 歩きながら准将が怒鳴ると、大柄な男がそばにやってきた。いかにも軍人らしい、質実剛健な雰囲気を漂わせる男だった。

「適当に兵を連れていけ。あのガキを逃がすなよ。例の邪魔があるようなら容赦はするな。わかったな」

「はっ」

 准将は車両に乗り込む直前に振り返って言った。

「あのガキを国に連れて帰ることができれば、俺はこの世界の王で、お前らはその名誉たる配下だ。楽しみにしているがいい」

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