無月

 どうにか出来なかろうか。アデールのオルゴールを前に考える。しかし学なきあたしの頭ではろくな案は思い浮かばず。


 昨日アデールはこの小箱は本来音が鳴るものなのだと教えてくれた。今は亡き彼女の夫である魔王様から贈られたものだとも。だとしたらあたしも聞きたい。魔王様がどのような音を好まれたのか。半分は魔族であるからか魔王様への関心は自分でもびっくりするくらい高い。


「うーん、やっぱり開けてみなきゃわからないかな」


 ひっくり返すと底に蓋のようなものが付いているので多分ここを開ければ中がどうなっているのかは見られると思う。でも見てわかるのだろうか。


「開けてみなきゃわかんねえよな」


 えいやと開けると中は小さくて見えにくい。アデールみたいに魔法が使えれば照らせるんだろうけど、あたしにそんな真似はできない。そのアデールは買い物に行ってしまって不在だしどうしたものか。


 しかし振れば埃や小さなゴミくらいは出てくるかもしれない。そう思って振り上げた時だった。


「何してるの!?」


「アデール。え、ちが」


 アデールが物凄く怒った顔をしている。怒りのあまり魔力が漏れ出して、彼女の周りに靄が漂うほどだ。タイミングが悪すぎた。


「それ、私の大事な! 大事なオルゴールよね。なんで床に叩きつけようとしていたの」


「だから違う! そうじゃなくて」


「言い訳は結構!」


 ヤバい。アデールは怒っているのに何故か泣きだしそうだ。


「なんでそんなひどいことを!?」


「だから話を聞いてくれって!」


「うるさい! 謝ることも出来ないだなんて、もう知りません!」


 怒り狂ったままのアデールは、こちらの言い分など何一つ聞かずに飛び出して行ってしまった。入り口には彼女の買ってきたであろう袋だけが残されている。


「……」


 中を開けたらアデールの好きな果物と。あたしの好きな果実入りの水が入っていた。しかもそれぞれ二つずつ。アデールはどんな思いでこれを買ってくれたのか。ドアを開けて大事なオルゴールを振りかぶるあたしを見てどう思ったか。


「直さなきゃ」


 何が何でも。あたしにできることはなんだ。考えろ。


 しかしあたしの頭ではやはりなにも思い浮かばなくて。泣きそうになった時にドアを叩く音が部屋に響いた。

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