10話.[本当に最高だ!]

「千晴、誕生日おめでと」

「うん、ありがとう」


 はぁ、愛ちゃんはやっぱり癒やしだなあ。

 両腕を広げていたからそのまま抱きしめておいた。

 ありがたい、これはすっごく嬉しい。


「そういえば愛ちゃんだけ?」

「ん、とりあえずはそう」

「それでも全然いいよっ、愛ちゃん好きー!」

「んむっ……く、苦しい」

「あ、ごめん」


 一緒にいてくれるだけでいいと考えていた自分。

 でも、当日になにかをしてくれたり、くれようとしたときは拒んだりはしない。

 流石にそこまで畜生ではなかった、特に愛ちゃんに対してはね。

 小学生だからとかではなく、愛ちゃんはこっちを困らせたりしないからだ。

 ある程度大人になってくると極端な思考になってしまうから良くない。

 だから愛ちゃんには是非ともこのまま成長していただきたかった。


「ちっはるー!」

「どこに行っていたの?」

「え、友達と遊んでただけー」


 うん、お姉ちゃんみたいにはならないでほしいと本当に思う。


「大丈夫、めいめいも芽衣も連れてきたから」

「そうなんだ」


 あ、現在は青木家にいるけど祝ってもらいたかったわけではなかった。

 ただ愛ちゃんが来てほしいと言ってきたから従っただけ。

 お姉さんたちといるよりすっごく疲れが取れるからだ。


「千晴さん、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう」

「千晴さんが『絶対になにも用意しないでくれ』と言っていたのでなにもありませんが……」

「いいって、一緒にいてくれるだけで十分だよ」


 試そうとしてそんなことを言ったわけではないから大丈夫。


「お腹空いたー、めいめいなにか作って」

「わかりました、使っていい調理器具とかを教えてください」

「あーい、というか私も手伝うから大丈夫だよ」

「「「え……」」」

「もー! 私だってご飯を作れるんだから!」


 私以上になにもしていなさそうだったから意外だったのだ。

 よし、それなら私は愛ちゃんと遊んでおくことにしよう。

 いや、それよりも大きなお姉さんの相手もしないと。


「なんでそんなに不機嫌そうなんですか」

「それはあなたのせいよ」


 ですよねーという感じ。

 愛ちゃんには足の上に座ってもらって、勝手にソファに彼女を招く。


「そんな顔をしないで」

「ふん、女児趣味」

「愛ちゃんはいい子だからしょうがないっ」

「だからそうやってすぐにべたべたとするの?」


 ご、ご飯ご飯、早くできないかなー。

 安心できたのは約30分後、ふたりが作ってくれたご飯は当然のように美味しかった。


「眠たいの?」

「ん……」


 おねむならしいので望に許可を得てから勝手に部屋に運ばせてもらう。

 おぉ、愛ちゃんの部屋には初めて入ったけど可愛いなあ。


「おやすみ」

「……まだいて」

「あー……芽衣が怖いから」

「ん……おやすみなさい」


 もう可愛すぎてやばい。

 あのとき川に突入して良かったといまなら心から言える。


「あれ、瞑ちゃんもう帰っちゃうの?」

「はい、今日は久しぶりに両親と電話で話をするんです」

「そんなときにごめんね。あと、ご飯美味しかったよ」

「謝らなくていいですよ、私が千晴さんといたかったんですから」


 結局のところ愛ちゃんと同じく瞑はいい子だったなあ。

 なのに疑ってしまったとか……申し訳なさすぎてしょうがない。


「プレゼントはさっきのご飯ね」

「それでも嬉しいよ、望と瞑ちゃんが作ってくれたご飯、美味しかったよ」

「めいめいのことも呼び捨てでいいでしょ」

「あー、そうかも」


 なんか違和感があるから瞑と呼びたい。

 でもそれは鬼娘を説得してからでないとできないから聞こうとしたときだった。


「あー、芽衣もおねむなんだよね」

「それなら連れて帰るよ、今日はありがとね」

「ううん、誕生日おめでとう」

「ありがとう」


 もう11月に突入していて外は寒い。

 それでもこうして芽衣に触れていれば暖かくなるからマシだった。

 あとは単純にあれ、夜にひとりじゃない時点で最高だ。


「芽衣、あともうちょっとだから歩こうよ」

「……千晴?」

「うん、千晴だけ……ど!?」


 外で私たちはなにをしているんだろう。

 愛情表現が過剰すぎる、そんなに必死にならなくても私は結局いるのに。


「ふぅ……ごめんなさい」

「……いや、謝らなくていいって」

「私、あなたのことが好きなの」

「それは良かった」


 好きでもないのにキスしてきていたら驚くし。

 あまり過剰なのはいらないから優しく抱きしめて勝手に癒やされていた。


「私は好きじゃない、だって大好きだから」

「ありがとう、それと誕生日おめでとう」

「ありがとう!」


 なにもしてくれなくていいとか言っていた自分はもういなかった。

 最高のプレゼントを貰った気分になって、本当に最高だ!。

 語彙力がなさすぎるのは誕生日の日ぐらいは置いておく。


「帰りましょうか」

「うんっ、帰ろっ」


 これからもこうして一緒にいられればいいと思ったのだった。

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14作品目 Rinora @rianora_

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