09話.[昨日はごめん!]
「ごちそうさまでした、美味しかったよ」
「ふふ、お粗末でした」
なにもしないのは申し訳ないから食器洗いぐらいはさせてもらった。
美味しいご飯を作れるって素晴らしい能力だと思う。
だからこそ普段はしようとしないお手伝いをさせてもらったわけで。
「千晴さん、芽衣さんに聞いてみたらどうでしょうか」
「聞いたところで教えてくれる感じもしないけど」
「芽衣さんはよく行動しなければ変わらないと口にしていました」
確かになんでもしてもらっちゃいけないと芽衣ちゃんは言っていた。
けれど露骨に遠ざけた私に教えてくれるとは思えない。
それに瞑のおかげでちょっとすっきりしたから大丈夫だ。
なにかがわかるまで待てばいい。
「とにかく今日はありがとね、瞑のおかげで落ち着けたから」
「こちらこそ誘ってくれてありがとうございました」
それでもそろそろ帰らなければならない。
単純に夜道を歩くのが好きじゃないからというのが大きい。
それにしても、私がいるとなにか不都合なことがあるということなんだよなあ。
芽衣ちゃんにしてはやり方が下手くそだと思う、あれではなにかがありますよと言っているようなものだから。じゃあ瞑が言ったように動くべきなのだろうか。
「待っていたわ」
「え゛」
「瞑から教えてもらったの、だからここで待っていれば会えるだろうと思って」
「危ないよ、時間を考えなさい」
それなら瞑の家に突撃してくればいいと思う。
そうすればすれ違いになる可能性もないし、なにより万が一もないから。
「大丈夫よ、こうして無事にあなたに会えたもの」
「はぁ、なにかがあったら嫌だからもうしないで、連絡してくれれば私が行くから」
「ええ、わかったわ」
なんのためにと考えていたら手を掴まれて勝手に移動開始された。
あのときは私を遠ざけたのに今回は連れて行くってどういうことだ。
もう彼女がどうしたいのかがまるでわからなくて困惑しかない。
先程まではせっかく瞑のおかげで良かったのにまた……。
「ご飯は食べたのでしょう?」
「うん、瞑が作ってくれたの、美味しかったよ」
「瞑、ねえ」
「ほら、被ったらわかりづらいから」
「それなら私を呼び捨てにしなさい、瞑はちゃん付けでいいでしょう?」
お昼のやつがなかったら良かったのに。
それを言っても「気にしなくていいわ」と。
「芽衣、望のことが好きなの?」
「変なこと考えない、大体望はあなたのことが好きなんじゃない」
「だって……あれから付き合い悪いし」
「大丈夫よ、ちょっとあなたには内緒にしなければならないことがあったの」
「言ってっ、こそこそされるのやだ!」
無意味なことをしない方がいい。
そういうことをしないのが芽衣なのに。
「11月と言えば?」
「冬、寒い、温かいご飯が美味しい、温かいお風呂に入れる」
「はぁ……誰かさんの誕生日でしょう?」
「あ、忘れてた……」
なんだ、それなら言ってくれればいいのに。
なにかを考えてくれたのかもしれないけど、一緒にいてくれる方がいいから。
「避けたりしないでよ」
「わかっているわ、もう意味もないから」
「今日いられなかったから一緒にいたい」
「あなた、最近泊まりすぎよ」
「それなら家に来てくれればいいじゃん」
手を握られているのをいいことに引っ張って止めた。
そのまま抱きしめる、手際が良さすぎて内で笑ったくらい。
「今日の言い方、傷ついたんだから」
「事実、あなたには用がなかったもの」
「そうかもしれないけどさあ……普通にないって言えばいいじゃん」
体を離してひとりで歩く。
結局のところお昼休みの彼女と変わらない。
「それじゃあね」
誕生日だからとなにかをしてほしいとは思わない。
誰かに負担をかけて自分だけは楽しむなんておかしいだろう。
だから両親にもなにもしなくていいと言っている。
「待ちなさい」
「むぅ」
「拗ねないの、ちゃんといてあげるから」
「じゃあ……芽衣の家に行きたい」
「わかったわ、だからもう拗ねないで」
今度はちゃんと家に帰ってお風呂に入ってから出てきた。
家に帰ってお風呂に入ってまた出ていくってよくわからないけど。
彼女の家に着いたらご両親に挨拶をして部屋に突入。
「なんでそんなに端っこにいるの?」
「別に遠慮しているわけじゃないよ、ただ過剰にべたべたしないようにしているだけ」
「遠慮じゃない、いつものあなたからしたら有りえないことよ」
確かにそうかもしれない。
本当なら私だってもっといちゃいちゃしたいところだった。
でも、一方通行の可能性も否定できないから。
「来なさい」
「うん……」
自分の横をタップして誘ってきたから座らせてもらう。
それから今日初めて彼女の方から抱きしめられた。
「今日はごめんなさい、望と仲良さそうに話をしていたからむかついたの」
「別にそういうつもりじゃなかったのに」
「ええ、そうだとはわかっているわ」
私は常にもやもやを感じているからなあ。
同じ思いを味わってほしいとかではないけど……。
「だからごめんなさい」
「もう謝らなくていいよ」
「ありがとう」
一緒にいてくれればそれでいい。
日中は無理でも夜になったらとかでもいいから。
「お風呂に入ってくるわ」
「うん、じゃあ待ってるね」
さて、その間こちらはどうしよう。
ベッドではなく床に座り直して、勝手なこともできないからじっとして。
彼女は長風呂派というわけでもないから退屈な時間は少なくて済むだろう。
寂しさだってすぐに癒える、彼女が来てくれたらすぐに。
「ただいま」
「おかえり」
ただの部屋着も語彙がないから詳しく言えないけどおしゃれだった。
私なんかはそういうところが凄く適当だから少し羨ましい。
一朝一夕で身につくような能力ではないから諦めているけど。
「そろそろ寝ましょう」
「うん」
望が好きなんじゃないかという考えは違かったことがわかった。
私の誕生日のときのためになにかをしようとしてくれていたのもわかった。
で、私たちはまたこうして一緒にいられている。
私たちの関係ってどうなっているんだろう。
「ねえ、なにかをしようとしなくていいからね? 一緒にいてくれればそれで」
「少しはなにかさせなさいよ」
「一緒にいてくれているだけで十分してもらえているって」
暗闇でも彼女が凄く不満そうな顔をしていることがわかった。
けれど特に変えようとも思えなかった。
「昨日はごめん!」
「謝らなくていいから」
望に今朝からずっと謝られていた。
何度も謝らなくていいと言っているのに聞いてくれない。
ちなみに理由は芽衣が怖かったから、らしい。
曰く、千晴は多分見たことがないぐらいの迫力だったよ、と。
「だからこそこそと仲良くするね!」
「そんなことをしたら怒られちゃうよ」
それだけは容易に想像できる。
私にはダダ甘というわけではないから雷が落ちるだろうし。
「やっぱり千晴といられないと嫌だ」
「私だって友達として望といたいよ」
友達になってくださいと頼んだのはこちらだ。
それなのに恋人ができたら切るなんてことはしない。
あ、いや、まだ芽衣は恋人じゃないんだけど。
「むぅ、いちいち友達としてとか言わなくていいから」
「あはは、ごめんごめん」
「とにかく昨日はごめんね、圧をかけられてももうやめないから!」
「うん、そうしてくれるとありがたいよ」
急に冷たくされたりすると傷つくから勘弁してほしい。
なのでこうして何度でも一緒にいられればいいと思う。
「こそこそしない」
「なんだよー、芽衣ばっかり千晴を独り占めしないで」
「千晴は私のものなの」
「はぁ……やだやだ、すぐ独占しようとするんだから」
それでも来てくれた方がありがたかった。
そうしないと不安になるからしょうがない、1番の寂しがり屋は自分だから。
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