三賞とゲスト審査員特別賞です!
管理人(崇期)が選びました、三つの賞の作品の講評とご紹介をいたします!
【ご注意とお願い】
私たち審査員三名はいずれもカクヨムユーザーです。作品への感想は主観を含んでいますので、一つの意見として受け止めていただけたらと思います。考え方の相違などで苛烈な批判やご意見などはどうぞお控えください。
ネタバレに関しましても当然配慮したいところですが、感想の特性上、内容やオチが知られてしまう恐れもあります。読者の皆様は、まだ読まれていない場合はご注意くださるようお願いします。
◆幻想ユーモア賞◆ (全作品対象のため、こちらが大賞となります。)
ポテろんぐさん作
『尻神輿D』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887301425
幻想 🗡🗡🗡
笑い ❤❤❤❤❤❤❤❤
「2022年秋に舞い降りた私の笑いの天使」
私は「笑いのヒトキワ荘」をはじめてから、「一度でいいから思いっきり下ネタ作品を大賞に選んでみたいなー、一度でいいから!」とずっと願ってきました。ポテろんぐさんの御作は、まさにその長年(?)の夢を叶えてくれた、「真秋のサンタクロース、ここにいる」だと思いました。
「下ネタ」というのは、皆さんもおわかりのとおり、大変恐ろしいブツです。「運営様から消されないこと」という条件を満たさなければ、存在すら認めてもらえないかもしれないのです。
表現の自由とは言えど、法は犯してはならないもの。そして許容範囲内だったとしても、とことん悪ノリしたように「掃き溜め」的に不快さを伴うとなると、「笑えなくなる」可能性も生まれます。そう、デリケートなやつでもあるのですよ。
今回、上限の三作品お寄せくださいましたが、どれも「人間ドラマ」と言える温かさがありますよね。職人であるとか、その道をひたすら突き進む人の情熱というのは、はたから見ると「狂気やん」という笑い。それを決して「バカにしている」という薄ら笑いにはせずに、人としての「かわいさ、どうしようもなさ」が浮かびあがってくるような、キャラクターに対する愛情ある描き方に魅力を感じました。
今作と『コスラ』は、おそらくはそういう(下ネタ)内容なんだろうなぁと想像ができ、開いて読むのにやや勇気が要りました。そして実際読んだら思ったとおりにそれなりなネタが満載でしたが、しかし、ただの「わっしょい下ネタ祭り」というわけでもなかったのです。いわば「レースバトルもの」であり、「ライバル対決」「兄弟愛」という一本筋の通った(?)ストーリーもありました。
>クイッ! クイッ! クイッ!
神輿の手すりに体を預け、ズボンを下ろし、尻を丸出しにして振るという「尻ドリフト」なる秘技が突然出てきて、このコミカルな擬声語ですよ。神輿ということ自体「不謹慎な」と思いますし、そもそも、こういう乗り物が公道を走って道路交通法的に大丈夫なのか? とも思いますけれども、「三コキ」「七コキドリフト」など、まるでフィギュアスケートの回転数を競い合っているようなレース野郎たち、業師たちの燃えたぎるドラマでこの「お下品な笑い」にも意味を持たせましたよね。
そして肛門の豆電球の点滅で「晩、ご、飯、い、ら、な、い」などは、いわずと知れたドリカムの名曲のパロディーで、「五文字なら『さようなら』とも『こんばんは』ともどうとでも取れるやん」という「痛いところ」を突いていて、可笑しい。
またボツキとかチクビとかの登場人物の名前もそうですが、パンツ、ナカデダスベンツ(自動車名ギャグ)……など、「固有名詞」にしてしまえば下ネタも伏せ字なしでいける、という悪知恵。
その他盛り込まれているネタも、牛糞スタンドやらセーラームーンの曲やら、また弾け飛んだ尻にしてもきりたんぽにしても、とことん「くだらない」、しかし笑いにおいては「おバカ」は芸術であり、至高ですから、そういう意味でこの作品には「愛と夢」の輝きがある、と思わされました。まさにいっぱい詰まった玉手箱でした。
全部で一万文字以上ありますしね、ギャグを一つ一つ取り上げたらキリがないのでこれくらいにしておきますが、無敵のつもりであった啓介の前に現れたまさかの強敵「藤原チクビ」と、その戦いに敗れた弟のかたきを取ろうとする「はみ出し涼介」の世紀の対決というストーリーはかなり惹き込まれますし、
>きりたんぽを中心に回転。
このシーンの映像が頭の中に浮かぶと「戦いすんで〜」「兵どもが〜」的な深い感慨に打たれます。こんな乗り物で、こんな内容なのに……。
「幻想」というより、「空想の乗り物によるレースバトル」なんでしょうが、とにかく、男たちの熱い魂、バチバチが最大の魅力であり、それを「下ネタたちが彩った」ということ。映画館で手に汗握ってカーチェイスを見守ったような感じで、大変楽しめる物語でした。
私にとってはこの秋一番素敵で、笑わせてもらった作品。文句なしの優勝です。
◆企画優秀賞◆
七草すばこさん作
『「アテンションプリーズ」』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649263412092
幻想 🗡🗡🗡
笑い ❤❤❤❤❤❤
「磨き抜かれた言葉遊びの鏡を覗き込めば、そこにホラーが」
私は当初、「飛行機の機内アナウンスかな?」と思っていたらしいのですが、「サービス施設」「当館」とありますから、コンサートホールのような建物の中で流れる音声案内をイメージしたものみたいですね。ただ、
>『幸せ』経由、『気苦労』行きでございます。
>「地獄の底」へ墜落いたします。
とありますので、ある程度「運命の道行き」を感じられますよね。もしこれが地上であるとするならば、「地上であっても(空の上のように)逃げ場がない状態」を表しているのかもしれません。
>お客様の中に「お釈迦様」はいらっしゃいませんか?
このようなユーモラスな言い回しの積み重ねでできている今作、「壊れたテープレコーダー的な」と言えば私のような昭和の人間にはわかりやすいのですが、現代風に言うならば、「バグ」を起こした風なガイダンス音声、かもしれませんね。一つ一つは笑いを引き起こすのに、続けざまに聴かされるうちに言い知れぬ恐怖がわきあがってきます。
内容のダークさと機械的であることで「非情な世界」が見事に表現されていますね。ひたすら伝えられる「壊れた現実」は、たしかに「滑稽な作り話」「言葉の上だけの幻想」に見えて、その中の「手痛い指摘」に胸を突かれてしまうことに気づかされます。
>お客様方の「子供・孫世代」はゲームオーバーとなりました。
特にこの一文とかですね。まさに、そのとおりかもしれない世界の状況がありはしないでしょうか。
この作品を読んで、私が好きな詩人・岩田宏の『動物の受難』という詩をふと思い出しました。インターネットでも紹介されているので、ご興味がある方は調べてみてください。また日本のポップスなどでも、「ガイダンス音声」をサンプリングして曲中に流しているものを聴いたことがあります。
『動物の受難』は、戦中、動物園の動物たちが殺処分された事実を下書きにした内容で、「戦争の冷酷さ」を情を排した簡素な文を淡々とくり返すことで表現しています。『「アテンションプリーズ」』は人間世界の欺瞞、危うさを「警告」する内容と受け取れ、ポップスの場合は「都会の喧騒と孤独」を表現したものだったと記憶しています。
たかが「言葉遊び」のように思えて、暗い笑いを積み重ねることで「
◆ショート・ギャグ作品賞◆
羽座日出樹さん作
『妻の料理』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649073296724
幻想 🗡🗡🗡🗡
笑い ❤❤❤❤❤❤
「決して強すぎない『さりげない』ギャグの妙味にやられました」
私の一番好きな作家はトルーマン・カポーティなのですが、カポーティを知らない人でもおそらくは聞いたことがあるのではないかという有名タイトル『ティファニーで朝食を』に、女主人公のホリー・ゴライトリーが作ったとされる珍料理の名前が出てきます。
ホリーは自由奔放な女性として描かれていて、かき卵やサラダといった簡単なものさえ作れないとされているので、どういう料理を作ったんだと俄然興味を惹かれるのですが、紹介された中で記憶に残っていたものがこれです。
それでも一度「タバコ・タピオカ」とかいう甘味をこしらえてくれたことがあったが、それがどんなものだったか、それはいわぬが花ということにしよう。
(新潮文庫、龍口直太郎 訳より)
羽座さんのこちらの作品、主人公「俺」の奥さんは、決して「破天荒」などではありません。ファストフード店でたまたま「お気に召さなかったらしい」ジャンクフードを口にしてから、その忌まわしい記憶を塗り替えるがごとく、突然謎の才能を開花させ見事な料理を作るようになってしまった、というお話。
今回、「幻想」がテーマということで、言葉上は表現できるものの、その実体が「なんだかわからない」という笑いを取り入れた作品が非常に多かった気がします。「言葉は仮象」──つまりは幻想、ということで。
「シェフの気まぐれサラダ」を挙げるまでもなく、料理はたしかに「不必要とも思える情報」を名前に盛り込むことができます。「盛りつけ」も料理の一つとよく言われるように、そういう「彩色」すら全体に含ませているわけですね。
それに創作世界の中でなら、実際に材料を調べたり腕をふるったりする必要がなく、
奥さんが料理に目覚めたエピソードまで丁寧に描いて、この前フリが非常によかったな、と思いました。この作品では「料理名」がギャグで、それが三段階にわたって出てきます。
まず一度目は「泣くほど美味い」という俺の食レポからはじまって、たまらなく食思を刺激される内容でしたね。
(引用)
ふんわり卵のオムライス
スープにこだわった豚骨ラーメン
濃厚とろとろマカロニグラタン
これらは別段おかしなところはなく、ひたすら「羨ましい」とよだれが出てくるほどです。で、二度目
(引用)
チーズとアボカドのゴッサムシティサラダ
ねぎと焼豚のラビリンス風ホイル包み
冥界ツナのじゃがバター殺し
いわしのバブルクンド風ラジオペンチ
ズッキーニのエキゾチック・スパイ・キッズ
アスパラガスとなすの幼稚園バス
もうそのまま引用させていただきましたが、私が「すごいな」と思わせられたのは、この絶妙な「さじ加減」ですね。挙げられた料理名六種のうち前から三つ目までは、まだ「食べ物」をなんとかかんとか調理しているんだろうな、と考えることができる。しかし四つ目以降、いきなり語尾が「ラジオペンチ」「スパイ・キッズ」「幼稚園バス」と──食べ物ではなくなっています。しかしあまりに「さりげない」ので「あれ?」という感じ。
そして最後(三度目)となると、もう「あんて・らいあ・せいまりある丼」と、何語なのかわからない意味不明な言葉が出てきて、「せめてカタカナにしろよ!」と叫びたくなる代物。
二度目に「こうなる」とオチが明かされるわけですが、「ふざけすぎなかった」、やや抑え気味にしたことで、三度目の増長が非常に効いていると思いました。一種の三段落ちみたいなものですね。
ストーリーを除くと、ギャグはこの「料理名」の部分だけなんですよね。なので後半まで「まとも」を装ったことで、ほんのちょっとした「違和」でも妙に可笑しい、という世界を作れたんだと思います。
羽座さんの作品は私は前々からすごく気に入っておりまして、少し読ませていただいておりました。文芸のどこか気品ある香り、佇まいがあり、そういった空気の中の「おかしさ」「狂っていく歯車」──。この作品でも「いい味わい」として出ていると思います。
主人公の俺は奥さんの料理に心酔し、最後まで「口福者」然としている。読者だけが「おいおい、なんだかおかしいぞ?」と気づいている。
唾を飛ばして叫んだり暴れまくることだけが「コメディ」ではないのだ、という静かな姿勢を学ばせていただきました。ものすごくおもしろかったです。
あー、ちなみにですが、私の得意料理は「タバスコ・タピオカの盛り塩味」で、歴代彼氏の
それでは、ここからは二名のゲスト審査員による選出の発表です!
【文学ホビットさんより、選出作品への感想】
行き倒れ神に捧ぐ解決案 / 十余一 様
https://kakuyomu.jp/works/16817330648115640860
応募作品全体の中でも’’笑いどころの面白さ・分かり易さ’’が傑出していたように感じましたので、こちらの作品を選ばせていただきました。
今回のテーマは『幻想ユーモア』ということで、その点で申しますと本作は幻想的趣きや要項にあった『「現実」の物語の中に垣間見える幻想』を感じる作品ではありませんでした。
ただ、モノの例えとして極端な話、
『幻想的で酩酊感はあるが、笑いどころがさっぱり分からない作品』と
『幻想的要素は精々ちょっとしたファンタジー要素程度だが、ユーモアセンスがある作品』
のどちらを評価すべきかと考えた際に、「本来なら今回のお題である『幻想ユーモア』が優先されるだろう」ということ、その上で「本企画はそもそも『笑いのヒトキワ荘』である」ことに立ち返らせていただきました。
その基準で考えまして、本作は『審査員泣きの一作』として推挙させていただくには十分コメディが面白かった作品であると判断し、こちらの『行き倒れ神に捧ぐ解決案 / 十余一 様』を私のゲスト審査員特別賞とさせていただきます。
「カァーッ! これだから乙巳の変以降生まれの若造は!」
このパンチラインは本当に面白かったです。爆笑しました。
十余一様の、そして他の受賞されたり、されなかったりした参加者の皆様のご活躍をお祈りしております。
【文学シルフさんより、選出作品への感想】
朽木桜斎さん
『雲の上の男』
https://kakuyomu.jp/works/16817330647909037512
『曇りのち晴れ、時々おいたん』
幻想とユーモア。
幻想の方はなんとなくイメージするものがあったけれど、実はユーモアについては今まで深く考えたこともなく、イメージも煙みたいにぽやぽやとして、はっきりとした形の定まらないものでした。
ギャグやコメディと同じ大地に咲く花であっても、ユーモアにしかない匂いや色があるのかも? そんなふうに自分なりの答えを探しながら参加作品を読んでいた時、ふと目に留まってストンと心に落ちてきた言葉がありました。
「おいたん」です。
おいたんは幼児語らしいです。どこかの地方の方言でもあるみたい。私はと言えば、某風来坊映画に出てくる「おいちゃん」がストレートに頭に浮かんで、思わずクスリと笑ってしまいました。そうして読み終わったあとには、なんともほのぼの、ほんわかした心持ちに……。
ああそうかと、思い当たりました。私がユーモアに求めているのは「ワハハ」でも「ギャハハ」でもなく、自然と口元が綻んでしまう笑いなんだなあ、と。たとえば落ち込んでいる時も、張りつめていた気持ちが和んでゆっくり解けていくような。
想像してみてください。通勤通学の人たちで忙しなく、どこか殺気立っているいつもの朝━━。日常に追い立てられるように足早に駅に急いでいたあなたがふと隣を見ると、Tシャツにスウェットという寛ぎきった格好のおいたんが、なんとも寝心地の良さそうな雲に乗り、ぽっかり浮かんでいるのです。
もし、新幹線なみのスピードであっと言う間に視界を横切ったのなら、「なんだ? なんだ?」と首を傾げるだけで、すぐに忘れてしまうかもしれません。けれど、おいたんは違うのです。散歩させている犬ぐらいの高さを、のんびりぷかぷかついてくるというのですから、なんとも気持ちが良さそうではありませんか。
なんだよ、そんなにまったりしちゃって。仕事も勉強もないの? 急いでやらなきゃいけないこともなし? いいじゃん。羨ましいな。
あなたが一瞬でもそう思ったなら、このお話の引力に引っ張られかけている証拠です。
おいたんは、いったいどこからやってきたのか? どうして現れたのか? 目的もその正体も、最後までわかりません。でも、只者でないのは確かです。なぜって、「もぞもぞと動くおいたんのヒップから小刻みに洩れてくるおなら」は、とても良い香りがするのですから。
(おいたんのおならは)甘い匂いだ━━の一文に、私は殺られました!
甘い匂いって、どんな匂い? もしかしたら……? もしかしたらだけれど、焼きたてパンの香ばしい香りじゃないかしら? そんなおならで人の心を惑わすなんて、おいたんは神様かもしれない。いやいや、悪魔ってこともありえる。
読んでいる私の鼻先で、幻想の扉がオープンした瞬間でもあります。
「おいたんはきっと、雲になったんだよ」
物語は、その一文で締めくくられます。けれど、「雲」の部分には、読んだ人それぞれが好きな言葉をあてはめてみるのも楽しいですね。
私なら、「おひさまのかけら」かな。
余談ですが、気がつくと私の頭のなかでおいたんは、かのヨシタケシンスケさんのイラストになって浮かんでました。
◇◇◇
以上が今大会の受賞作品への感想になります。五名の皆様、素敵な作品を読ませてくださり、本当にありがとうございました。
架空のアパート「笑いのヒトキワ荘」管理人より。
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